48、究極クラス。……そして少女はとてもとても美しく微笑んだ。
本日3話目。
「陰ながらのわたくしの護衛、ご苦労さまでした。もういいですよ。出てきなさい。メルニ」
「はい。お母さま」
女王イルゼベール――お母さま譲りの黒髪からふぁさっとフードを外した瞬間、私に施された高度な隠蔽が解ける。
もちろんこれは私の自前のスキルなどではなく、この身につけた隠蔽スキル発動式の刻まれた白の外套と王城全体に施された効果増幅のスキル発動式の相乗効果だ。
研鑽を積み重ねスキルポイントを大量に使えば、おそらく同じ効果を持つスキルを習得することも私なら可能だろう。
王女という特別な生まれにより、王女専用クラスを含み、この世界で一時代にただ一人しか選ばれない勇者以外の、人の至ることのできるあらゆるクラスとスキルに触れ得る可能性を持った私ならば。
……もちろん、向き不向きはあるとはいえ。
そしていま私の欲しいスキルは、当然ながらこんな暗殺者や諜報員もどきのスキルではない。
いまの私が求めているのは、もっと確実な、絶対的な力だ。
……あの日生まれた、この埋まらない胸の穴を埋めるための。
今日一方的とはいえ、あの日以来に私の親友アリューシャと会い、ほんの少しだけ埋められたこの胸の穴を最後まで埋めるための。
「こちらに来なさい。メルニ。また人払いはしなければなりませんが、その前に貴女の好きな銘柄で新しいお茶を用意させましょう。……わたくしもさすがに、少々疲れましたからね」
「お気遣いありがとうございます。お母さま」
女王であるお母さまの温かな気遣いに、私は心から微笑んだ。
――何よりも、陰ながらの護衛という名目で一方的にとはいえ、こうしてアリューシャとまた私を会わせてくれたことに。
「さて。では、本題に入りましょう。いいですね。メルニベール」
お茶を淹れた年嵩のメイドが退出し、扉が閉まるのを横目で確認すると、あえて私をいつも使う愛称ではなく本名で呼んでお母さまは促す。
「はい。王女としての心の準備はすでにできています。イルゼベール女王」
その完全に女王としての公の顔に戻ったお母さまに、私も王女としての公の顔をつくってこくりと頷いた。
「メルニベール。貴女も聞いてのとおりです。勇者アリューシャの決意は固い。貴女も気がついているでしょう? 先ほどあの子はこう言いました」
「それに、あたしも……! イゼルベールさまや、メルニーたちとこうして戦わなく済んで、すっごくうれしい……!」
「はい。護衛の立場を忘れて、思わず飛び出しかけてしまったくらいには」
「ええ。それはつまり、言いかえれば理由があればあの子にはたとえわたくしたち相手でも戦う覚悟があるということ。本当に残念ですが、勇者アリューシャは最早このクインブレン王国とは完全に袂を別ったと言っていいでしょう」
ふぅ、と息を吐いたイルゼベール女王は、一度私のお気に入りの花の香りのする紅茶で喉を湿らせると再び話し出した。
「いつもならば、聖なる女神より神託を受けた勇者を擁する国として在れば。そして、王族が共に魔王を討ち果たした勇者の盟友として在れば。それだけで国の威信は保てました。メルニベール。そのために幼き頃より一人娘の貴女には過酷とも言える訓練を課し、そして危険を承知の上で魔王討伐の旅へと勇者アリューシャと共に送り出したのです」
――そう。それが王女である私の存在意義。……でもそれ以上に、私は。
「ですがこうして魔王に敗れたいま、その前提は全て覆りました。これからは安寧という名の緩やかな停滞が終わり、激動の時代が来ます。我々もまた変わらざるを得ないときが来たのです。……そのために必要なのは、力と象徴」
テーブルの上にカップを置くと、イルゼベール女王は立ち上がり導くように私に手を差し出した。
「クインブレン王国を統べる女王イルゼベールとして命じます。我が一人娘、王女メルニベール。騎士団長と魔法師団長を貴女の訓練につけます。勇者アリューシャと同等の……いえ勇者を超える力を手に入れ、貴女が新たな象徴となるのです」
確固たる決意をたたえた女王の、私と同じ翠の瞳が見つめていた。
応え、膝をつくと私は恭しくその手をとる。
「はい。イルゼベール女王」
――言われなくても元よりそのつもりだ、とその内心を微笑みに隠して。
「私、王女メルニベールはここに新たな象徴となることを誓います。クインブレン王国のため、親愛なる我らが民のため。そう。偉大なる初代女王さまのみが到達したという勇者を超え得る王女専用究極クラス――魔導姫騎士の力を手に入れて」
――アリューシャ。私は、強くなる。
貴女を超える力を手に入れて。貴女に恥じない力を手に入れて。
いずれまたその隣に並ぶために。この胸の穴を埋めるために。
「……貴女には、本当に苦労をかけますね。ですが、頼みましたよ。メルニ」
――そして、魔王ジュド。
もし、アリューシャのその太陽のような眩しくて暖かな笑顔をあなたが少しでも曇らせるのなら。
もしその穢れのない青い瞳をあなたが涙で少しでも濁らせるのなら。
――私があなたを殺す。
そのための力を、私自身の血と汗と涙と、たとえ寿命を犠牲にしようと、私は必ず手に入れる。
「はい……! お母さま……!」
――その固く昏い決意とは裏腹に。
私は淑女然として努めて美しく微笑んだ。――とてもとても美しく見えるように。




