42、人類の怨敵。いま両国はその志を一つにする――歪なる野心をもって。
本日2話目。
トーリラ王国とフレト王国。
中央の雄大な湖を境に隣り合う小国同士の長く続く戦争。血で血を洗うようなその戦場の只中。
だが、突如として出現した俺という第三の脅威に、いまや敵味方の垣根なく戦場全てに次々とざわめきは広がっていった。
「「まま、魔王……ジュドっ……!? 魔王国……エンデっ……!?」」
「「ど、どうなってるんだっ……!? な、なんでダンジョンから、あの国から、出てっ……!?」」
「「ゆ、勇者は何をやって……!? ま、まさか負けたのか……!?」」
「「あ、あれだけ世界各国からの支援を受けておいてか……!?」」
「「や、役立たずめっ! 何が代々世界を救う勇者を輩出する偉大なる国家! クインブレン王国かっ!」」
――ふむ? これは意外だな。
とてもではないが俺にとって聞き逃せない意味深な情報が幾つも出てきたぞ。
まさか、末端の兵士がこれほどの情報を持っているとは……いや、逆か?
永らく触れることすら禁忌とされてきたダンジョン内の聖なる女神像同様、俺たち魔族と魔物のみがいままで知ることのなかった。
――おそらくは何らかの意図により知らないことに疑問を持つことすらできなかった世界の仕組みがあったということか。
あらためて考えてみれば、この不自然極まりない構図。
世界を手中に収めんとする一大勢力の権力者たる魔王と、勇者といういかに力があろうともたかだか一個人にすぎないものとの戦いを成立するための……!
だが、この兵士たちの慌てぶり。どうやら期せずしてその軛はいまや解き放たれたと見える。
根拠は、ある。なぜなら、全ての人類の希望たるあの太陽のような少女、勇者アリューシャは、すでに……!
「う、狼狽えるなっ! それでも貴様ら、栄えあるトーリラ王国の兵士かぁっ!」
「そうだっ! 栄えあるフレト王国の兵士たちよっ! 恐れることはないっ!」
両国の指揮官らしき壮年の男二人。
それぞれに意匠は違えど等しく他の兵士たちよりも豪奢な鎧を身につけ、両国の国旗を持った兵士を含めた側近を従えた男たちが先ほどから使用していた拡声魔道具を手にざわめく兵士たちにがなり立てる。
「見ろっ! いかに強大な魔力を持つ魔族とはいえ、相手はたった二人!」
「そうだっ! 大してこちらは両国あわせて総勢二万の勇壮なる精兵っ! 負ける道理はないっ!」
「それに考えてもみよっ! ここで我ら二国がこの魔王を名乗る魔族を討ち果たせば、クインブレン王国の擁する勇者など不要と各国に示すことができる!」
「そうなればっ! 隣国でありながら、いまはあの全世界から不可侵を約束された忌々しい女王の治める国家の広大な領土を切り取ることも可能っ!」
「そうだっ! それが叶えば、小国同士でこんな小さな土地を奪い合う必要もないっ!」
その際限なく過熱していくトーリラ王国とフレト王国の指揮官たちのもの言いに、両国の兵士たちも敵味方の垣根なくざわめき出す。
――先ほどまでとは違い高揚し、まるで熱に浮かされたように。
「「って、てことは……な、長く続いてきた、この不毛な戦争が……終わる……!?」」
「「い、いまオレたちが……両国同士で力を合わせて、この魔王を名乗る魔族たちを……倒せばっ……!?」」
「そうだっ! トーリラの、そしてフレトの兵士……いや、勇者たちよっ! いまこそその手に武器をとれっ!」
「これは、天に座す我らが偉大なる聖なる女神の天啓であるっ! いまは人間同士で争いあっている場合ではないっ!」
「ノコノコとこの戦場に現れてきた我ら人類の怨敵である邪なる魔族の王! 魔王を討ち果たし!」
「そして、それを足がかりに永らく勇者などという偽物の希望で我らを謀り続けてきたあの忌々しいクインブレン王国にも正義の鉄槌を下すのだっ!」
「「真に我らこそが! 聖なる女神に天啓を受けしものとしてっ! いまこそ征けっ! その力を示せっ! 勇者たちよっ!」」
『『おおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!』』
――それはまるで、地鳴り。
いまや完全にその志を一つにした両国総勢約二万の兵士たちが怒涛の如く人類の怨敵と不名誉なレッテルを貼られた魔族、俺とデスニアに殺到してきた。
結局は、その先にはまた別の国に侵略するという――誰よりも心優しい本当の勇者とは似ても似つかない歪なる野心をもって。




