41、刮目し、聞け! 人間たちよ! 我が名は、魔王ジュドなり……!
本日1話目。
第二部〈世界制覇〉編 開幕です。
高難易度ダンジョン攻略型RPG〈ダンジョンブレイバー〉。
ダンジョンをメインの舞台とするだけあって、ゲーム中におけるその活動範囲は、一国だけと狭い。
だが、ゲームの頃にその設定がどこまで存在したかはプレイヤーとしての俺はもちろん知らないが、当然その先にも世界は広がっていた。
強国、小国、軍事帝国、宗教国家と多種多様な国が存在する。
そしてこの世界に生まれた一人の魔族としての俺は、当然にそれを学び、知っていた。
そう。いま俺たち二人がいるここは、そのゲームの舞台の外なる国々のうちの一つ。
水運の要たる雄大な湖の半分ずつを国境沿いに分かち隣接する小国同士。
どちらも国土の三分の一程度を山岳地帯が占めるトーリラ王国とフレト王国。
そして、いまこの場に集う二国合わせた兵員数は総勢二万。
中央の湖に面した肥沃な土地。血で血を洗い、領土を切り取り合う――手と品を、勝者と敗者を入れ替えながら、長く長く続く国境線上の戦場の只中。
「怯むな! 歩兵隊! 進めぇ!」
「進軍を止めろぉっ! 魔法兵士隊! いっせいに……いまだっ! 撃てええぇぇっ!」
「ぐっ……!? えぇいっ! 一時的に傷病兵を下がらせろぉっ! 精鋭の盾騎士隊を前へ! 回復の時間を稼げっ! 治癒兵士ども、さっさと治せぇっ!」
轟音が響き、次々と火魔法による爆発が巻き起こる。
鬨の声と共に隊列を組んだ兵士たちが進軍し、怒号にも似た指揮官の命令が飛び交う。
そして、夥しい数の人間が血を流し、絶命し、次々と物言わぬ屍と成り果てる。
まさに、この世に現出した地獄――この世界で言うところの冥府の光景がそこにあった。
まあ、とは言っても俺の知る本当の冥府と呼ばれる場所は大分様相を異にするわけだが。
――俺は思わず、安堵の息を吐いていた。
各種の犯罪等はもちろんあれど基本的に平和と言える日本に生まれたプレイヤーだった頃の俺は、当然戦場など知らない。
だからこそ、初めて自らも痛みを伴う戦いをしたときのように心の奥底では不安があった。
果たして俺は、凄惨極まる戦場で臆せずに立っていられるのか?
――その答えを得た俺は、隣に侍るいまや最も信頼する配下、前魔王たる右腕の少女に向かって宣言する。
「ふ。頃合いか。……観察はもう十分だ。始めるぞ。デスニア」
「うむ。ようやくか。この我は、待ちくたびれてしまったぞ。ジュドさま」
その瞬間。俺とデスニアは潜むのを止め、抑えていた魔力を全力で開放する。
「「ひっ……!? な、なんだ!? この強大な魔力はっ!?」」
「「ばば、化物すぎるっ!? いい、一体どこからっ!?」
「「あああ、あそこだっ! なっ!? り、両国がぶつかり合う戦場の……ど真ん中っ……!?」
「「こ、黒衣の男と……少女……!? たった……ふ、二人……!? ま、まさかっ……魔族っ!?」」
そして異変に気がついた兵士たちが一時的に争うのを止め、戦場中の注目が集まったところで悠々と宣言した。
「ふはははは! 親愛なるトーリラ王国とフレト王国の兵士諸君! 喜ぶがいい! 長く続いてきたおまえたち有象無同士の無為な争いは、今日ここで終わりを告げる! そう……! この俺という絶対的な力を持った第三者の介入をもって……!」
そこで俺は、バサリと畏怖と権威の象徴――先々代たるデスニアの父君より引き継いだ漆黒の魔王のマントを翻した。
「人間たちよ! 刮目せよ! そして、聞け! 我が名は、魔王ジュド! おまえたちが恐れし、魔族と魔物の頂点! 我はここに宣言する! 我が大願にして野望! 我ら魔族と魔物、そして人間たちが共存共栄する真に平和な理想世界の実現のため! いまここに全世界に宣戦布告する! そう! ダンジョンを国土とする我ら魔族の治める国! その名も魔王国エンデを高らかにここに興すとともに!」
――もちろん、いまの俺は知るよしもない。だが、後の世に編纂されし分厚い歴史書は、こう記したという。
「いま一度告げる! 我が名は、魔王国エンデの頂点、魔王ジュド! いずれこの世界の遍く全てを手に入れるものなり……!」
史上初の全世界統一を成し遂げた偉大なる唯一無二の絶対君主――制覇王ジュドがその存在を最初に全世界に知らしめたのがこの小国同士の争いであると。
制覇王とその右腕。わずか二名で二国の兵士総勢二万。
その戦力比一万倍差を覆し圧倒し、蹂躙する――その絶対的なる力を知らしめると共に。




