40、魂の叫び。そして俺は、勇者と魔王を手に入れる。
本日4話目。
魔王となった俺の居室。
壁際で右手に徐々に光の魔力を集める勇者アリューシャを見つめながら、前魔王の少女デスニアは淡々と告げた。
「見誤っておった。あのものは危険じゃ。たとえジュドさまのお気に入りであろうと、その結果たとえジュドさまに恨まれようと、疎まれようと、憎まれようと、主人たるジュドさまに届き得る脅威をこの我は決して看過できぬ……!」
デスニアのそのかざした右手には、すでに膨大な魔力が込められ、あとは発動するのを待つばかりだった。
対する勇者アリューシャの狙いは明らかだ。勇者専用パッシブスキル〈最後の希望〉。
威力調整したスキルで戒めの首輪を砕くと共に自ら瀕死に陥り、その一発逆転を可能とする超強化バフスキルを乗せた一撃で俺とデスニアを諸共に倒すこと。
――おそらくは、相討ち覚悟で。
そして、いまの俺にこの状況を打開できるスキルは、ない。
そもそもが仮眠程度の睡眠で回復できた魔力は元々少なく、いまの俺があと放てるのは精々が無意味な先延ばしでしかない〈フルヒール〉数発か、その逆に確実な死をもたらすだろう〈アビスフレア〉一発。
だが、そのいずれも俺の望むところではない。
すでに俺は、この世界の全てを。そう。勇者も魔王も全て手に入れると決めたのだから。
「じゅ、ジュドさまっ……!?」
盾となった前魔王の少女デスニアを手で制し、俺はさらにその前に立つ。
そして、あらん限りに声を張り上げた。
「勇者アリューシャよ! 頼む! 俺の話を最後まで聞いてくれ! 決裂は、決死の抵抗をするのは、それからでも遅くはないだろう!」
いまの俺にできる唯一のことは、いやこうなる前から、最初から可能性はこれだけだった。
どの道、勇者アリューシャの心を動かせなければ、俺の望みは決して叶わないのだから。
だから俺は、必死で、自らの生命をかけて叫ぶ。
俺の本心を。大願を。野望を。理想を――穢れのない青い瞳で俺を見つめる少女の心に、届くとただ信じて。
「侵略は、人間たちの支配領域へ攻めこむことを俺は止めることはできない! 勇者アリューシャ! 貴女も知っているはずだ! 貧困、差別、階級と搾取、そして人間同士の戦争! 俺たち魔族など関わりなく、この世界の人間たちが自ら抱えている歪みのことを! 俺はそれを決して看過できない!」
そう。それは、プレイヤーであったときの俺が決して知ることのなかったゲーム中では明らかにされることはなかった裏設定。
あるいはこの転生した世界で新たに生まれたのか、ゲーム世界には似合わないほどに本当にごくありふれた、だが唾棄すべき世界の歪みと人の業。
この世界を愛する、かつてプレイヤーであった俺が、そして全てを手に入れ覇道を征くと決めた俺が絶対に戦うべき――歪み。
「だが、だがいま一度、俺はここに誓おう! この俺は無為なる犠牲を決してよしとはしない! 最も犠牲が少なく済む道を、たとえどれほど困難であろうと常に模索し続けるつもりだ! そして、そのために俺には貴女の力が必要なのだ! 人間たちのことを思うならば、いや思えばこそ! どうか俺に貴女の力を貸してくれ! 頼む! 人間たちの希望! 勇者、いや志を同じくする俺の同志! アリューシャよ!」
それは俺の、魂の叫び。悲鳴にも似た、懇願。
それを聞いた勇者アリューシャのその右手から、やがて込められていた光の魔力が消え去る。
「……うん。わかったー。まず一度最後まで落ち着いてジュドーの話をちゃんと聞くよー。あたしがどうするか、判断はそれからにするー。でもその話し合いのテーブルに着く前に二つ、お願いしてもいいー?」
そう言って、勇者アリューシャは大分無惨にボロボロになったメイド服のスカートをぴらりとつまむ。
「また新しい服を用意してほしいのー。ただメイド服じゃなくて、ちゃんと戦える人のための服がいいー。この服はすっごく可愛いけど、あたしは勇者として、魔王になったジュドーとちゃんと向き合いたいからー」
それから、スキルで破れ露わになったへそのあたりをなでると、「きゅう〜」という可愛らしい音が鳴った。
ほんのりと恥ずかしそうに勇者アリューシャの頬が色づく。
「あ、あともう一つー。続きはジュドーとデスニアちゃんとあたし、みんなで一緒にごはん食べながらでも、いいかなー? たぶんすっごく長い話になると思うんだー。えへへー。いまのお腹の音聞いてたとおり、あたし、すっごくお腹すいちゃっててー」
「ああ……! ああ……! 勇者アリューシャよ……! 全て貴女の言うとおりに用意しよう……! いま、すぐに……!」
そう告げる俺の声は、間違いなく震え、上擦っていただろう。
……かろうじて涙は流れていなかったはずだ。
勇者アリューシャはまだ話し合いのテーブルに着くと言ったにすぎない。
ただ俺は不思議と、もう大丈夫だと確信していた。
それからすぐに、勇者アリューシャの二つの願いを叶えるべく、待機中のラベンダたち戦闘メイドに俺は念話で連絡をとる。
「……そっかぁ。えへへー。あのとき寝てるときにあたしが聞いたのって、夢じゃなかったんだぁ……! これからよろしくね……! あたしの同志、ジュドー……!」
そして、念話に集中する俺の耳はかすかに、けれど確かに勇者アリューシャが心から嬉しそうに花咲くように微笑み、そう呟いたのを聞いた。
これにて、第一部〈そして俺は勇者と魔王を手に入れる〉編、了です!
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第二部〈世界制覇〉編 にて!




