38、少女勇者アリューシャの懇願と、生命をかけた決意と覚悟。
本日2話目。
魔王の居室のリビング。
問われたデスニアは、侍る俺によりかかるのをやめ、居住まいを正すと――その向けられた勇者アリューシャの穢れのない青い瞳をその闇を湛えた紫の瞳でまっすぐに見つめ返す。
そして、ただ淡々とそれだけが事実であるように口を開いた。
「乞われたからじゃ。この我が率いる民に。それに応えるのは、王たるものの努め。それは、貴様たち人間も変わらぬはず」
じっ。
だが、勇者アリューシャは「それだけじゃないでしょー?」とでもいうように穢れのない青い瞳で見つめ続けた。
それに根負けしたように、デスニアはその裏にある真の理由を語る。
「……あえてもう一つ付け加えるなら、我ら魔族と魔物の摂理は弱肉強食。この我がジュドさまに負け魔王の座をこうして譲り渡したように、弱きものは強きものの為すがままにあるべき、あって当然。それだけじゃ」
すなわち――人間が弱いから。弱いものなどいくら蹂躙しても構わないから、侵略したのだと。
勇者アリューシャたち侵略される側の人間にとっては、身勝手かつ理不尽極まりない理屈と理由を。
「……うん。わかった。教えてくれてありがとー。デスニアちゃん」
「……それで、よいのか?」
それを聞いても激昂するでもなく淡々と凪の瞳で礼を言う勇者アリューシャに、むしろデスニアのほうが困惑の表情を浮かべた。
「うん。だって、デスニアちゃんはもう魔王じゃないんだよねー? だから、もう負けちゃったいま、あたしがしなくちゃいけないことは、できることは、これと……あともう一つだけだから」
そこまでを言うと、おもむろに立ち上がり深々と頭を下げる。
「お願いします。新魔王ジュド。これ以上人間を侵略しないでください。あたしにできることなら、なんでもします。……あたしの、生命をかけて」
ともすれば真面目に話していないと受け取られかねない、その語尾を伸ばす癖が出ないように一音一語確かめるように告げられた勇者アリューシャの言葉には、懇願と、覚悟と、決意が込められていた。
――そう。文字どおりに生命をかけたような。
その真摯なる切なる願いに、だからこそ俺は、こう答えざるをえない。
――他ならぬこの俺の大願、野望のために。
「だめだ。勇者アリューシャ。それは、できない」
「……そっかぁー。やっぱり、そうだよねー。もしかしたらジュドーなら、って思ったんだけどー」
そして、さも予想していたかのように、けれどどこか少しだけ落胆した様子でそう言うと。
「……じゃあ、あともう一つを全力でするねー? ……新魔王ジュドっ! 覚悟ぉっ! あなたは、あたしが! ここで止めるっ!」
いつかのようにそう叫び、対面に座る俺に向かって真正面から突っ込んできた。
――首輪でスキルと魔法を封じられ、その手には武器一つさえ持たず、けれどその穢れのない青い瞳だけには、あのときと同じ確固たる意思と決意と覚悟を漲らせて。




