36、最推し少女勇者の眼福メイド服と、響くこだま。
本日4話目。
魔王城の最上十階、魔王の居室のリビングにて。
俺は、俺から見て左手のソファに座りはにかむように微笑む勇者アリューシャ。
俺の謝罪を拍子抜けするほどにあっさりと受け入れてくれたその少女の発言に耳を傾けていた。
「っていうより、えへへー。こうやって負けて捕まったあたしが謝られてるなんて、変なのー。ジュドー。あたしだって、それなりに覚悟はしてきたつもりなんだよー。そもそもあなたたち魔族とは捕虜に関する取り決めも結んでないし、それどころかあたしたち人間の国同士でも、そーゆーのって守られたり守られなかったりしてるみたいなんだよねー。だから、それに比べればー」
そこでアリューシャは、ソファからタッと立ち上がるとその場でくるりと回り、豊かな胸と着ているメイド服のエプロンとフリルつきミニスカートを踊らせた。
「えへへー。まぁいきなり怪しげなお薬を盛られちゃうとは思ってなかったけど、戦闘メイドさんたちの暴走みたいだったし、それもちゃんとこうしてジュドーが治してくれたしー。粗末なボロきれとかじゃなくて、こうやってちゃんとした服まで着せてくれるなんて、全然紳士的なほうだよー。まぁでもそれがこんなに可愛いメイド服なあたり、やっぱりジュドーって、あたしにそーゆーつもりなのかなぁ、って思わなくもないけど……?」
その穢れのない青い瞳で訝しむように見つめられ、たまらなくなった俺は、半ば反射的にガタン! と立ち上がった。
「い、いや! 誓って言うが、断じて俺にそんなつもりはないっ! 婚儀も結んでいない淑女に手を出すなど、紳士の風上にもおけない破廉恥極まりないことはっ! そ、そのメイド服は、すぐに俺が用意できる貴女に合う服が他になかっただけで……! この居室の衣装部屋にあるデスニアの服では、さすがに小さすぎるし、だ、だから……! いや、その、だが……あ、貴女に、よく似合っている……!」
そこまでを言うと、俺は再び沈みこむように自分のソファへとどさりと身を預けた。
――な、何を言っているのだ! 俺は!?
いくら誤解の解けた戦闘メイドたちがせめてものお詫びにと全力で整えた俺の前世からの最推し、勇者アリューシャのミニスカメイド服姿が誇張なしにすばらしく可愛いからといって……!
仮にも自分の意思とは関係なく選択肢なしにその衣装を着せられた捕虜に向かって、お、俺は、い、一体、何を……!?
「えへへー! そっかぁー! 似合ってるんだぁー! ありがとー! ジュドー! すっごく可愛いメイド服着れて、あたしもうれしーよ!」
そう言って天真爛漫な花咲くような笑顔を見せたあとで、ぽすっとソファに座り落ち着くと、勇者アリューシャはきょろきょろと部屋の中を見回し始めた。
「でもそう言えば、あたしがジュドーに連れてこられたここって結局どこなのー? さっきまではずぅっと頭の中がふわふわとろとろしててあんまり覚えてないけど、でもあたしが寝かせられてた所より、なんだかだいぶ広くて綺麗なお部屋みたいだしー?」
――ああ。そう言えば、とにかくあの桃色の靄の立ちこめる俺の元居室から連れ出すのに夢中で、まだ何の説明もしていなかったな。
そう思った俺は、わかりやすく一言で説明する。
「ああ。ここは、魔王の居室だ」
だがその言葉に、いままで緩み気味だった勇者アリューシャの態度がわかりやすいくらいに強張った。
「え……? 魔王の……居室……? ……って! あ、あー! うーん? どこかで聞いたことあるなぁー? ってずっと思ってたけど、で、デスニアちゃんっていまの魔王のー!? え? あ、あれ? でも、さっきデスニアちゃん、確かジュドーのことを主君って……? あれ? それに、デスニアちゃんが羽織ってるそのマントって……」
「ふふん。なんじゃ。いまさら気がついたか? 勇者の小娘。そうじゃ。このジュドさまこそ、この我の主君。そして、ジュドさまより賜りしこのマントが示すように、ジュドさまとこの我とは永久に断ち切れぬ深い絆で結ばれておる。勇者の小娘。貴様などとは、比べものにもならぬような、な……!」
――デスニア! それでは何のことだかわからないだろう!?
というか、後半は一体何の話だ!? 一体おまえは勇者アリューシャに何のマウントをとっている!? ええい、仕方ない……!
俺は勇者アリューシャをまっすぐに見つめ、厳かに口を開いた。
「勇者アリューシャ。心して聞いてくれ。そこにいる前魔王デスニアはこの俺が下した。いまはこの俺、闇の貴公子ジュドが魔族と魔物の頂点、新たな魔王だ」
ガタッ!
「え……? え? え、ええええぇぇーっ!?」
――その俺の爆弾発言に思わず立ち上がったらしい、心底驚いた様子の勇者アリューシャの叫びが居室中……いや、魔王城中にこだました。
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