33、一つの気づきと、前世と今世の心からの叫び。
本日1話目。
――か、可愛すぎるっ!
「いっしょに、すっごぅく気持ちよぅくなろ?」
前世からの最推し桃色ハートマーク目アリューシャのその言葉に思わず骨抜きになり、その場でくずれ落ちそうになった俺は、だがすんでのところでそれを堪えた。
――いや、待て! 待てっ! 前世のプレイヤーかつ熱狂的〈ダンジョンブレイバー〉ファンの俺っ!
そして、そしてもっと待てっ! なんだかんだ格好つけても血気盛んで思春期真っ盛りな魔族の俺っ!
どう考えても、どう考えてもおかしいだろう!?
「だから、ジュドー! あたしはいまここで、あなたを止めるっ!」
あの昼間、自らの生命を懸けてまで俺を止めようとした勇壮な勇者アリューシャがこんなに早くここまでの変遷を見せるなど……!?
いや、そうか……! この桃色の靄は、やはり毒などではなく……! おそらくは人間にしか効かない成分、あるいは濃度を調整した、その類の……!
ようやく原因に気がついた俺は、思わず自らの不甲斐なさに、ぎりと歯噛みする。
「デスニアっ! 俺は一度この居室を出るっ! おまえは俺が戻るまでそこのアリューシャを抑えておけ! いいなっ!」
それから、何やらずっと不機嫌そうに膨れっ面をしていたデスニア。
けれど、事前に出した命令を守りだまってすぐ傍らに立っていた俺の優秀な右腕に指示を出した。
「うむ! よぅぅし! わかったのじゃ! ジュドさま!」
そして踵を返し駆け出そうとした刹那。
デスニアのその満面の笑みに変わった気持ちのいいまでに自信に満ちた返事に、逆にそこはかとない不安を覚え、こうつけ足す。
「ただし、絶対に傷つけるな! 絶対にだ! いいな! デスニア!」
「ふうぅぇっ!? わわ、わかったのじゃ……」
そのまるで自信のなさそうな萎れた返事に逆に心からの安心を覚えた俺は、今度こそ振り返らずに居室を一目散に飛び出した。
それから早足で目的地を目指しながらも、途切れることなく思考を巡らせる。
――ええいっ! それにしても、なぜこんなことになった! あの桃色の靄は、いや薬物は一体誰がっ!
俺がラベンダたち戦闘メイドに勇者アリューシャたちの後始末を指示したあとに、一体あの部屋に誰が!
………ん? ラベンダ? 戦闘メイド?
そういえばあのとき、確かラベンダはやたらと……?
「あ、ああ、あくまで……! かか、確認ですが……! こ、この少女勇者を……ね、寝かせるのは……! ま、まさか、まさか……! じゅ、ジュドさまの寝室……で、でしょうか……!?」
――あのときは次の魔王デスニア戦に俺は思考のほとんどを占めていて気づかなかったが、いま考えるとラベンダは何をあんなに動揺していた?
それに、そのあと他の戦闘メイドたちも……?
「「「謁見後、自室に戻られる前までにあとの準備は全て整えておきますので、どうかそのあとはジュドさまがご満足いただき心ゆくまで、ごゆるりとお過ごしください。ええはい。どうぞ、どうぞご存分に! この勇者アリューシャと、二人っきりで!」」」
――そうだ。確かにそう言っていた。それも戦闘メイドたち全員、怖気のするような、一様に張りつけたような薄っすらとした笑顔のままで、珍しくも語尾も荒く。
いま考えるとあれはやはり……怒っていた……のか? いや絶対に、怒っていた……よな? だが、何にだ?
……ん? 待てよ? 俺の寝室に、準備に、二人っ……きり? そしてベッドに寝かせたアリューシャは、女の……捕虜?
「うぉああああぁぁっっ!?」
そして唐突に全ての要素が繋がり、俺は思わず叫び声を上げた。
それから、いつのまにかすでに目の前にあった目的地の聖なる女神像へと激しく動揺しながらも手を伸ばす。
「い、一体なぜそういう解釈になる!? ほ、捕虜に手を出すなど、こ、この俺がそんな極めて不埒かつ破廉恥な真似をするはずがないだろう!? こ、婚儀も結んでいない淑女とっ!」
そして、この状況を打開するための目当てのスキルをきっちりと手に入れつつも。
前世の記憶ももうかなり曖昧だが、ほぼ間違いなく異性経験の皆無か薄いプレイヤーの俺と、今世の紳士を自負するためか肝心な所で奥手で魔族的思春期真っ盛りな俺が、心の底から思いを一つにそう同時に叫んだのだった。




