31、魔王の威厳と懇願する子猫。
本日3話目。
バサッ……!
「ふむ。まあ、こんなところか」
「おお……! 思ったとおりじゃ! さすがはこの我が永久にお仕えし愛する、真なる魔王ジュドさま! よぅく似合っておる! まさしく押しも押されもせぬ魔王の風格じゃ……!」
魔王の居室のリビング。
魔法金属製の肩あて、襟元が首よりも高い前々魔王の豪奢な漆黒のマントを身につけバサリと翻らせた俺に、傍らに立つ右腕となった前魔王の少女デスニアがその雪白の頬を赤に染め感嘆の声を上げる。
「ふ。何をあたりまえのことを言っている? デスニア。すでに俺の右腕となったおまえにも伝えたとおり、この俺が真に目指すのは、まだ誰も至ったことのないさらなる高み。その通過点に過ぎない魔王の風格程度、すでに備えていて当然だろう?」
「う、うむ……! だが、ジュドさま。本当にできると思うのか? そのためにまず、この世界の全てをジュドさまの手中のもとに収めるなど……」
「無論可能だ。いや、むしろ当初想定していたよりも、いまならばより容易くこの世界を掌握できるだろう。デスニア。おまえという極めて優秀な右腕がこの俺の手に入ったからな」
「じゅ、ジュドさまぁっ……!」
感極まったようにすぐそばに寄り、何かを期待するように俺を見上げる少女の紅潮する雪白の頬を俺は愛おしむようにゆっくりと撫でる。
「さて。では、俺は出かけてくる。少々人を待たせているのでな。そう。より世界を容易く掌握するために。デスニア、おまえと同じように是が非でも口説き落とし我が傘下に納めたいもう一人のものを」
そう俺が告げると、うっとりと目を細めされるがままだった少女の形のよい眉がぴくりと動いた。
「もう一人……? この我と、同じ……? な、ならば、この我もついていく! ジュドさま! この我はあのとき誓ったのじゃ! ジュドさまの傍らに永久に侍ると……! だから、ジュドさま……! どうかこの我を置いていかないで……!」
頬に添えた俺の手をきゅっと離さないように小さな両手が包みこむ。
まるで捨てられたくないと懇願する子猫のように見上げるその濡れて揺れる紫の瞳を前に、俺は到底首を振るすべを持たず――
「……いいだろう。連れて行ってやる。だが、代わりに誓え。そこに誰がいても何があっても、俺の許可なしには何もするな。いいな? デスニア」
――魔王としての威厳を保てるだけの答えをなんとかそう返すのが精一杯だった。
「うむ! もちろんじゃ! そう念を押されずとも、ジュドさまの命令に逆らったりなどせぬ! この我の全ては、永久にお仕えし愛するジュドさまのためにあるのじゃから!」
そして、その俺の答えに心から満足するようにデスニアは花咲くように、安心したように、にっこりと微笑った。




