30、前々魔王のマントと、ありのままの少女。
本日2話目。
「ほう……! それが真なる魔王となったいまの俺にふさわしい権威と畏怖の象徴たる新たなマントというわけか。デスニア」
「うむ! そうじゃ。これ以上のものは考えられぬ。なにせ、このマントは――この我が生まれる前に亡くなられた父君、前々魔王デスゴルドのものなのじゃから……」
「前々魔王の……!」
魔王の居室のリビングスペース。
衣装部屋から戻ってきたデスニアが抱えていた大きなマント。
テーブルの上に広げた、やはり魔王らしく黒を基調とするそれは、襟元が首よりも高く、華美すぎない程度に所々に金の刺繍、両肩には魔石を魔法金属で縁どった肩あて。
非常に豪奢かつ優美、そして勇壮さをも兼ね備えた、まさに魔王の権威と畏怖の象徴たる逸品だった。
前々魔王デスゴルド。王妃サティニアがその胎に一子を宿したことを知った喜びも束の間、すぐに大きく体調をくずし、復調することなくそのまま息を引き取ったという。
そして、残された王妃サティニアもその忘れ形見の一子を産み落としてすぐに、その生命を使い切ったかのように同じく息を引き取った。
父と母の魔力と生命を全て啜って生まれ落ちた忌まわしき御子――そのレッテルは、デスニアがその同族としては圧倒的な力とともに畏怖され、孤独を余儀なくされた理由の一つだ。
あとは、まあ……極めてわがままかつ傍若無人、唯我独尊な性格とか、本人由来の理由も多分にあるだろう。
もちろん、その寂しがり屋で甘えたがりな幼子のようないま俺の前だけで見せるその本質を魔族全員の上に立つ魔王という立場上、誰にも見せられなかったことも含めて。
――だが、それはそれとして、引っかかることもやはりある。
「ふむ。確かにこれ以上ない逸品だ。いまの真なる魔王となった俺に、確かにふさわしいと言える」
そこで俺は、隣に立つデスニアにまっすぐに視線を向ける。
「だがデスニア。俺はおまえがこのマントを身につけたところを見たことが一度もない。これほどの装備ならば、当然サイズ調整機能程度はついているはずだ。なぜだ?」
――このマントはいわばデスニアの父君、前々魔王の形見でもある。
いまも主人たる俺のマントを身につけ欲したときと同様に、このマントを身につけ父君の遺した感触や宿した愛に包まれていれば、いままで感じてきたその孤独も少しは慰められていたかもしれないのに……なぜだ?
本当の疑問は胸中に押しこめながら俺が尋ねると、少女は、ぱちくりと紫の瞳を瞬き、きょとんとした表情で小首を傾げた。
「え? だってそれ、この我が着ても、ゴツくて全然可愛くないし……」
――うむ。やはり、デスニアはどこまでもありのままのデスニアだった。




