28、潜りこんできた子猫と、魔王としての最初の命令。
本日4話目。
「んん……すぅ……。すぅ……」
いまや代替わりして俺の部屋となったはずの魔王の居室。
その天蓋つきのベッドで仮眠程度の短い睡眠から目覚めた俺の隣で――なぜか前魔王の少女デスニアが子猫のように横向きに丸くなって眠っていた。
とっさに声量を抑えたとはいえ、俺の驚きの叫びにもわずかに眉を潜める程度で、いまもベッド横に立つ俺の目の前で気持ちよさそうに寝息を立てている。
どうやら俺をこの居室に案内したあとでちゃっかりと入浴を済ませたらしく、魔王戴冠の際の諸々の事態で負った体の汚れは綺麗さっぱりなくなっていて、ほんのりと花のように甘い香りまで漂わせていた。
そしてなぜか、いまだその身にまとうのは新魔王戴冠の際に貸した俺のマント一枚だけだった。
羽織ったマントから露出した、綺麗にくの字に折りたたまれた雪白の脚が眩しい。
――にゅ、入浴までしたのなら! ここは元おまえの部屋だし、いくらでも着替えられたはずだろう!
なぜいまだにそんなあられもない格好で! 人前で、俺の前で肌を晒している!?
そもそもだ! いまこの俺のベッドに潜りこんでいるのは、何かの事故なのか、それともわざとなのか!?
入浴後でリラックスしたいい気持ちになって、ついいつもの癖で慣れ親しんだベッドへ――とか。
……いや、あらためて考えるまでもないな。間違いなく、わざとだろう。
俺は、子猫のように横向きに丸くなった少女のあどけない寝顔を見つめながら、そう結論づける。
少女――前魔王デスニアの送ってきた退屈と孤独な日々。
そこに突如として現れた、より正確にはとるに足らない存在から思いもよらない劇的な変貌を遂げた俺という存在。
自身すら忌避する禁忌に触れ、勇者たちを倒し頭角を表し、最終的には自らを超え新たな魔王とさえなった、まさにデスニアにとってのこの世界でただ一人の規格外。
そして魔王となった俺自身もいまや最も頼りにする右腕となった少女に確かに誓った。
この俺の忠実なる臣下となった暁には、必ずや退屈と孤独とは無縁の日々を送らせてみせると。
「ふ。つい我慢できなくなったのか、最初からそのつもりだったのか……まあ俺をこの魔王の居室へと誘導したときのやや強引なやり方から察するに、最初からこうするつもりだったと考えたほうが自然だろうな」
いろいろと思考を整理し段々と落ち着いてきた俺は、苦笑混じりになるべく音を立てないように再びベッドへと上がる。
それから、そっと手を伸ばすと、その艶やかに煌めく美しい白銀の糸のような髪を撫でた。
「ん、んふふぅぇ…………」
心地よかったのか喜んだのか、寝たままのその薄桃色の唇がややだらしなく笑みの形に歪む。
「ふ。まるで子猫だな。……そうだな。こっそり子猫がベッドに潜りこんできたと思えばいいか。まあ少々大きすぎる子猫ではあるが、それで貴女が感じてきた孤独が少しでも癒されるのなら――」
「ん、んんぅ〜…………」
そのとき。潜りこんできた大きな子猫が目の前でごろんと大きく寝返りを打った。
こちらに向いたその拍子に大きくマントがめくれ、雪白の太ももが、そしてその先の股――
「う、うおあああああああぁぁぁっっ!!??」
「ん、んぁ……? な、なんじゃ……? いまの叫びは……?」
――驚愕に慄きながら俺は、再びベッドから文字どおりに飛び退く。
今度は、とても声量を抑えることなどできなかった。
目を覚ました子猫のような少女が眠たげに目蓋をこすりながら、もぞもぞとベッドの上で起き上がる。
その拍子に今度は羽織っていたマントがずるりと肩から落ちて――それ以外本当に一切何も身につけていない露わになった雪白の肌を晒す。
――さすがに俺も、今度はもう堪えることはできない。
その瞬間。咄嗟に手で顔を覆いさらに逸らしながら、わなわなと震える声で呼びかける。
「デス……ニア……!」
「んぁ? おお……! これはジュドさま。おはようなのじゃ。……ん? ということは、いまの叫びは、ジュドさまが……! ど、どうじゃ? も、もしかして、同衾したこの我のあられもない姿を見て、ジュドさまといえど、堪えきれなくなってしまったか、のう?」
「ああ……! その……とおりだ……!」
低く、真剣な声音でした俺のその返答に、覆った手の隙間からちらりと見たデスニアの頬がボッと赤く染まった。
それから、ほとんど膨らんでいない小さな胸の前で小さな指を絡ませもじもじとしながら、上目遣いにその宝石のような紫の濡れた瞳で俺を見つめる。
「……よ、よいぞ……! こ、この我なら、い、いつでも覚悟はできておる……! た、ただその……は、初めてじゃから、や、やさしく……」
覆った指の隙間からわずかに、その真白い頬を赤らめた少女が――はだけたマントをいつまで経っても欠片も直そうともしない姿を確認し、ついに限界を超え堪えきれなくなった俺は、思いのたけを叫んだ。
「いいからっ! いますぐそのはだけたマントを直せぇぇっ! すぐにまともな格好に着替えろっ! いくらなんでも人前で、破廉恥にもほどがあるぞっ! いいか! これは俺の魔王としてのおまえへの最初の命令だっ! 婚儀も結んでいない淑女がっ! 人前でみだりに肌を晒すなぁぁぁっっ!」
――そうして、なんとも締まらない魔王としての最初の命令。
潜りこんできた子猫に、まずはしっかりとマントを前も留めて羽織らせてからベッドの上でちょこんと正座をさせ、淑女としての心得を諭す俺の叫びが二人きりの寝室に響いたのだった。
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