26、誓い。新魔王の右腕。――永久にその傍らに。
本日2話目。
「おおおおああああああぁぁっっ!」
再び静寂と化した主人を替えた謁見の間に響き渡るは、狂気めいた野太い雄叫び。
それと同時に、玉座に迫る暴魔将軍バーオネラルのその黒鎧で覆われた掲げられた右手にズシリ、とその巨躯をも超える長大な剣が握られる。
――空間魔法? いや、あの脳筋馬鹿にそんな高等な真似ができるはずもないな。
つまりは、自分の固有魔力と結びつけた装備の召喚か。
まあ別にどちらでもかまわないが。なんにせよ、これで……!
「ジュゥゥゥゥゥッ! ドォォォォォォッッッ!!」
「くくっ……! 心より感謝する……! 暴魔将軍、いや、いまや俺という新魔王に愚かにも手向かう単なる大逆にして反逆の徒バーオネラル……!」
俺はゆっくりと玉座より立ち上がると、片側で留めた夜の闇を写した藍色のマントの留め具を左手で外し、同時に右手を前にかざした。
「絶対的なる力の差も見抜けない! 身の程知らずで馬鹿で愚劣愚鈍で短慮で脳筋なおまえのおかげで! この新魔王戴冠の儀式は、最高の形で終わりを迎えられる! フルヒール!」
「え、あっ……!?」
途端、玉座の前で這いつくばり続けていた瀕死の弱々しい少女を暖かな白の癒しの光が包み、漲る生命の活力が取り戻される。
――そして、バサリと。
「あ………………」
「ふ。先ほども言っただろう? おまえが――貴女が敗北しこの俺の軍門に降ったのちも、俺は決して貴女を無為に傷つけたりなどしない、と」
俺は片膝をつき、その困惑と驚愕の瞳で俺を見つめる、波がかった銀髪の少女の活力を取り戻した華奢な体に外したマントを羽織らせながら、優しく微笑みかける。
「このオレこそがっ! デスニアさまにっ! 魔王にっ! 玉座を! よこせえぇぇっっ!!」
そして再び、ぎしと玉座に身を沈めると、宣言した。
「――やれ。デスニア」
「死ぃぃぃぃっねええぇぇぇぇっっ!」
ズドン!
――玉座に向けて振り下ろしたその身の丈を超える長大な剣は、雪白の少女の小さな左手のひらでいとも容易く受け止められていた。
そして、もう一方の右手が。
「あ……が……? ま……お……で……さ…………?」
その黒鎧で覆われた巨躯の胸を貫き、その生命を呆気なく終わらせる。
「ほう? いまのは、スキル〈魔王の鉄槌〉。確か単体防御無視物理大ダメージ、だったか? 見事だな」
俺のその賞賛の言葉に、波がかった銀色の長い髪の俺のマントを羽織った半裸の少女がその背中をビクンと震わせる。
ズルリとその血塗れの細腕をもの言わぬ躯から抜き取ると、クルンと振り返り、跪いた。
それから、いま自ら生命を奪ったばかりの長大な剣と躯となった巨躯が床へと落ちすぐそばで轟音を立てるも。
一欠片も気にした素振りもなく、頬を赤く染めその宝石のような紫の瞳で上目遣いに玉座の俺を見つめる。
「も、勿体ないお言葉じゃ。あ、あの……このスキルじゃが、改名したほうがよいか? じゅ、ジュドさまを差し置いて、スキルとはいえ、いまさらこの我が魔王と冠するなどと。あ、いや、よ……よいですか?」
それに対し、俺は薄く微笑み、鷹揚にうなずいて返す。
「ふ。いや、そのままでかまわない。そもそも軍門に降ったいまだからこそおまえにも言うが、この俺の野望にとって、この魔王の座など通過点に過ぎないからな。それに、そうかしこまらずともよい。言葉づかいなど些細なことに無為に目くじらを立てるほど、俺は狭量な主人ではない。それよりもデスニア。褒美をやろう。さあ、もっと近くに」
俺の許しを得て、おずおずと近づいてくる前魔王。
「あ………………!」
その愛らしい少女の雪白の頬を俺は優しく、そっと撫でる。
「この俺に手向かう大逆者の処断、よくやった。デスニア。これからも俺のために仕え、励むがいい。この俺が最も頼りにする――我が右腕として」
そのつくりものめいた雪白の肌が赤く、紅く染まる。
「は、はい……! わかったのじゃ……! 歴代最高最強とうたわれしこの我を超えし、真に歴代最高最強の魔族たる我が主君……! 新、いえ、真なる魔王ジュドさま……! いまより、この我の全てはジュドさまのために……! ジュドさまの右腕として永久に傍らに侍り、傅き、従い、そして全身全霊の忠誠と愛を以て尽くすことをいまここにこの我は誓うのじゃ……!」
そしてデスニアは、雪白の肌を紅く染め、撫でた俺の手にそっと小さな手を添える。
自分が求め続けていた退屈と孤独を埋めるものを得たように――愛おしむようにうっとりと潤んだ紫の瞳で俺を見つめたまま、両手で俺の手を包み、頬ずりしたのだった。
魔王デスニア編、完全決着です。
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