22、最終局面。復活のジュドと激昂のデスニア。
本日2話目。
「ふん。あれほどの大口を叩いておいて、なんと他愛のないことじゃ。所詮はこの我との埋めようもない絶対的な差に気づかぬ痴れものに過ぎぬ。……四肢や尊厳を奪ってまで、この我が飼う価値もなかったということか」
ついに、自分以外に動くものも喋るものもいなくなった謁見の間で、少女魔王デスニアが一人ごちる。
呆れ果てたかのようなその口調とは裏腹にその涼やかかつ流麗な声音は、だがどこかある種の諦観を含んだように沈んでいた。
――ふ。そうか。この俺が呆気なく終わって、そんなに残念か。現魔王デスニア……!
ならば、その考え違い……! 疾く正させてもらおう!
ググ、グッ……!
「なっ……!? 何……じゃとっ……!?」
そして、文字どおり死の淵より蘇った俺は、ゆっくりと立ち上がり、床に倒れ伏したときに付着した体の埃を丁寧に払った。
それから、驚愕に打ち震える少女魔王デスニアの顔をまっすぐに見つめ、俺は口の端をつり上げる。
――プレイヤーとしての記憶を取り戻し、俺が真に俺として目覚めてより、ずっと危惧していたことがある。
それは、日本人。つまり、生命のやりとりとは無縁のほぼ平和と言っていい国での生活を送っていたときの記憶と精神の影響を色濃く受けたいまの俺は、果たして戦いの、その痛苦に耐えられるのか?
――そしていま、計らずもその答えは出た!
「ふははは! どうした! 現魔王デスニア! まさか、この俺が呆気なく終わったと思い拍子抜けでもしていたか! だが、残念だったな! この俺は闇の貴公子ジュド! 我が大願、野望を成し遂げるためならば、どんな痛苦にも耐え、何度でも冥府の淵より蘇ってみせよう!」
驚きに満たされていた表情が訝しげに変わり、少女魔王デスニアの形の整った片眉がぴくりと跳ねる。
「蘇る……じゃと? なるほど、そうか。これはなかなかに小癪な真似を。いまのは自動復活魔法、確かリバイブとかいうやつじゃな? つまりは戦闘開始、いやそんな素振りはなかったはず。……そうか。つまりは、この我との謁見の前にあらかじめ保険としてかけておいたというわけか。ふん。臆病なことじゃ。そんなにこの我が怖かったか? しかし、まさか貴様にそんな芸当までできるとは。それとも、それも禁忌に触れた結果か? 勇者アリューシャたちを下した、この我さえ知らぬあの闇の紫炎のスキルと同じように」
――やはり、俺と勇者パーティーとの戦いを一部始終見ていたか。魔王デスニア。
だが、全く問題はない! すでに女神像に触れスキルリセットは終え、あのときと俺のスキル構成は全く違う!
そう! 魔王デスニア! おまえを確実に倒すための切り札は、すでに我が手に!
「さて? 好きに解釈すればいい。先ほども言ったとはずだ。現魔王デスニア。この俺があの禁忌に触れて何を手に入れたか知りたければ、自分自身で触れて確かめてみろ、と。その姿形どおりにまるで本物の童女のごとく、退屈だ孤独だと、ないものねだりをして駄々をこねる前にな」
「っ……!? く、くくく! くはははははは!」
自らがひた隠しにしてきたはずの心の核心を突かれ、少女魔王デスニアの体がその衝撃にビクリと震える。
そして、その小さな体に、相対していままでで最も強い魔力が渦巻くとともに凶悪に口の端をつり上げた。
「くくく! 本当にこの我の心根を逆撫でする無駄によぅく回る口じゃ! よかろう! 身の程知らずにこの我に手向かいし痴れものの反逆者、闇の貴公子ジュド! 貴様が禁忌に触れて得た力、この我に篤と魅せてみよ! 貴様が縋りしその全てと貴様自身をこの我が正面から叩き潰してくれる!」
「ふははは! いいだろう! 現魔王デスニア! ならば、おまえが言う禁忌に触れて得たいまのこの俺の力! 存分にその身に受けてみよ! そしていまの言葉! そっくりそのままおまえに返そう! 知るがいい! 先ほどおまえの言ったとおりの、いまのこの俺とおまえとの間の、埋めようもない絶対的なる力の差を!」
そして俺は、バサリと夜の闇を写した片側留めの藍色のマントを翻し、高笑いとともに右手を正面へとかざし、新たなるチート級最強最悪スキルの一つを発動させる。
――そう。この戦いを始める前からこの手にあった、絶対なる勝利の確信と共に。




