21、最悪の初手。少女魔王デスニアの本気。
本日4話予定。1話目です。
「ふん。この我としたことが、愚かにもどうやら目が眩んでいたようじゃ。いまほんの少しだけこの我の威圧に堪えて見せた、ただそれだけの痴れものをあろうことかこの我と同列に思い、あまつさえこの我の王配にとほんの一時とはいえ考えるなど。だが、この我の目は、もう覚めた」
辺りへの烈しい重圧とともに、その曲がった黒の角により王冠のように美しく彩られた波がかった銀の長い髪がぶわりと怒髪のごとく広がる。
玉座より立ち上がった少女魔王デスニアは、その華奢な体のラインがぴったりと出た所々が透けるように薄い黒のドレスの上にまとった黒のファーつきのマントを威風堂々とバサリと翻らせた。
「四天王、いや元四天王、闇の貴公子ジュド。無知蒙昧にして不敬な痴れものめ。この我がいまより潰してやる。王配にというこの我の提案を跳ね除け、あくまでも自らが玉座を狙い、あまつさえこの我を侍らせ傅かせんとするその傲慢。無様に血反吐を撒き散らし無力に床に這いつくばってのち、絶望とともに後悔するがいい」
その揺らぐ冥府の闇の炎と同じ紫の瞳には、憎悪と怒りと敵意だけがあった。
……ふ。実に魔王らしいことだ。さて。問題はここからだな。
――すでに俺も手を一つ打ってある。
そして、ゲームでの魔王デスニアの初手は、前にも言及したとおり確定でスキル〈魔王の威圧〉。
一定以上の能力直を持たないものを強制的に永久スタンに陥らせる、通称足切りスキル。
『――跪け』
だが、仮にゲームと同様の行動パターンが適用されると仮定したとして、もし先ほどすでに俺に使った判定なら。
「では、いくぞ。もはや貴様に一切の手心など加えん。この我の全力をもって、一瞬で終わらせてやる」
その小さな体の正面に掲げた右手の先一点に、膨大な魔力が集まっていく。
――それ以後の行動は、完全に予測不能!
「安心しろ。もし貴様が運悪く生き残ったなら、そのときはその四肢をもぎ全ての尊厳を奪った上でこの我が飼ってやる。好き放題にいたぶり好き放題に戯れられる哀れで無力な玩具人形としてな」
「ふはは! それは魅力的な提案だ。ならば、俺もこう返そう。安心しろ現魔王デスニア。貴女が敗北しこの俺の軍門に降ったのちも、俺は決して貴女を無為に傷つけたりなどしない。その美しく愛らしい少女の姿のままで、永久にこの俺に傅き仕えるがいい!」
高笑いとともに返したその俺の答えに少女魔王デスニアがその形の整った眉をぴくんと跳ねさせる。
「どこまでもどこまでも、知ったような減らず口を……! もうよい! 痴れものが! いますぐにこの我が終わらせてやる!」
そして、まっすぐにその華奢な右手が突き出され、少女魔王がそのスキルの名を告げる。
「七つ首持つ影の魔獣よ! 身の程知らずにこの我に相対するその痴れものを喰らい尽くせ! セブンデモンズ・カルニバル!」
――な、何だとっ!? まさかっ!? 初手でそれかっ!?
魔王の放つ呪と魔力が俺に届くと同時、俺の足下の影が肥大化し、そこから大小の七つの黒の顎が現れる。
――それは、敵の魂を喰らう影より出ずる魔獣。
具体的なスキル効果としては、対象を無差別に防御無視効果つきの中級ダメージを与える七回攻撃。
パーティーを組んで挑むゲーム中では、その効果は文字どおりに運次第だったが。
――いまは対象が俺一人ならば、実質七連続の中級ダメージによる確殺攻撃!
グシャッ! グシュッ! ギチュッ! グチャっ!
「ぐ、ぐがあああああああぁぁっっ!?」
なすすべなく、影より伸びる顎が噛み、千切り、喰らい、かばおうとする腕を、肉体をすり抜け、次々と俺の魂を咀嚼する。
ガシュッ! ギシュッ! ブチィッ!
「がっ……? あっ……………………?」
どしゃっ。
そして無力に床の上に倒れ伏す俺は、薄れゆく意識の中。
何もできないままの――あまりにも呆気ない俺自身の絶命を悟った。




