17、少女魔王と四天王・3。―静寂。最後通告と覚悟を超えた確信。
本日3話目。
「うむ。そうじゃな。まずは一つ、はっきりさせておこう」
玉座にてつまらなそうに頬杖をつくこの世の闇を体現したような少女。
魔王デスニアのそんな発言から、本題――俺と魔王との対話は始まった。
「ジュド。貴様、先ほど捕らえた勇者アリューシャたちを客だなどと申したが、スキルと魔法封じの首輪はちゃんと施しておるのじゃろうな?」
魔王城最奥の謁見の間。
いまその空間を支配していたのは、静寂だった。
物音一つなく。いや、列席する魔族や魔物たちが物音一つ決して立てないよう、決してその小さな暴君の癇気に触れぬよう綱渡りのように神経を張り詰める中。
涼やかにして流麗なる少女魔王の声と。
「ええ。無論です」
それに悠々と答える俺の声だけが響き渡る。
「ふむ。ならば、この我はかまわぬ。まがりなりにも勇者アリューシャを倒したのは貴様じゃ。捕虜の証たる封じの首輪をつけている限りは好きにするがいい。この我のもとにたどり着くことすらできぬ期待はずれの勇者など、いまさらどうでもよい。貴様の気が変わっていますぐ殺そうが、実験に使おうが拷問しようが、辱めようが寵愛しようが、貴様の所有物をどうしようが、全て貴様の勝手じゃ」
ガシャッ!
そのあまりといえばあまりにもな魔王デスニアの発言にたまりかねたのか、空間に満ちる静寂を裂くように立ち上がった大男。
四天王元筆頭、暴魔将軍バーオネラルの悲鳴のような野太い声が上がった。
「し、しかし! 魔王デスニアさま! 我ら魔族と魔物の大敵たる勇者を! 臣下の、それも欠片も信用のおけぬこやつに預けるなど、それでは示しが!」
「おい。だまれ木偶。それとも貴様、まさかこの我の裁定に異論でもあるのか?」
「そ、そのようなことはぁっ! た、たたっ! 大変失礼いたしましたたぁぁっ!」
だが、最後通告のように、つうと華奢な魔王の右手がその絶対零度の紫の瞳とともに向けられると、暴魔将軍バーオネラルは、あっさりと前言を翻してその場で背を丸くしてうずくまる。
そのあとは許しを乞うように両手で後ろ頭を抱え、ガタガタと震えるばかり。
「……下がれ木偶。この我の視界に入るな。不快じゃ」
その見るも情けない自らの臣下にそう言い切って捨てると、心底興味を失ったように向けていた右手と視線を戻し、再び魔王デスニアは俺へと向き直る。
愚かにも少女魔王の不興を買った暴魔将軍バーオネラルは、その視界にぎりぎり映らない壁際へと這うようにしてじりじりと下がっていった。
「では、次じゃ。いまよりこの我にとって最も重要なことを尋ねる。ジュド。貴様、どうやってあの禁忌に触れた? この我が創り出したる魔族と魔物の拠点、領域たるダンジョンに、この我の意思と関係なく何故か勝手に生成されるあの忌々しい女神像に近づくだけでも、言い知れぬほどの堪え難い嫌悪感に襲われるはず。どうやって、そして何故そこまでして、あの像に触れた? あの禁忌に触れれば何が起こる? 答えよ」
その見定めるような怜悧な紫の瞳に射抜かれながら、俺の口の端が自然とつり上がる。
――なるほど。それで、俺以外は……!
「ふ。そうですね。お知りになりたいのならば、ご自分で体感してみればよろしいのでは? それともまさか、いまはまだ臣下であるこの俺が触れられた程度の禁忌、我ら魔族と魔物の頂点である現魔王デスニア陛下が触れられぬとでも?」
その俺の挑発的そのものの物言いに、玉座に座す少女魔王デスニアの形の整った片眉が跳ね、まとう空気が一変する。
その魔王の重圧に、この俺の不敬な発言に、一瞬どよめきかけあわててそれを封じた辺りに満ちる静寂が緊張とともにいっそう高まった。
「……よかろう。では、これで最後じゃ。この我の目を見て、心して、そして覚悟をもって答えよ。我が臣下、四天王筆頭、闇の貴公子ジュド」
その形のよい唇を動かして、一つ一つこの俺に言い含めるように、最後通告のように、魔王デスニアは告げる。
「勇者アリューシャを倒した褒美に、貴様はこの我に何を望む?」
そして俺は、その最後通告に覚悟を――いや、それ以上の確信をもって答えた。
「では――――玉座を」
――反逆と、開戦の望みを。




