11、親愛と約束。――その初めて見た瞳に、誓う。
「「「ほ、本当にあの我ら魔族と魔物の大敵たる恐ろしい勇者たちをそのお言葉どおりに、お一人で倒してしまわれるなんて……! さすがは我らが主人、魔王デスニア陛下直属四天王、闇の貴公子ジュドさまですっ! こうしてジュドさまにお仕えできること、私たち戦闘メイド一同、心より誇りに思いますっ!」」」
石造りの椅子に座る俺の前で、一様に感極まったように震える声でそこまでを言うと、後始末のために広間に呼びつけた居並ぶ戦闘メイドたちがメイド服のスカートをつまみ、恭しくいつもよりも長く長く頭を下げた。
……時折り、「ずびっ」と鼻をすすり上げるような音も聞こえてくる。どうやら泣いているものもいるらしい。
――まあ、無理もないな。先ほどまでは、こうしていますやすやと眠っている勇者たちと戦う寸前だったのだ。
そうなれば、この中の誰かが命を落とすことも十分以上にありえた。
おそらく安心して、緊張の糸が切れたのだろう。
……そうだな。いまから伝える俺の命が終われば、いまのうちにこの側近の戦闘メイドたちにも、少し休みをとらせるとしようか。
俺の計画どおりに事態が進めば、すぐに今後はより忙しくならざるを得まいしな。
「そ、それで、ジュドさま? 見事ジュドさまが倒された勇者たちを我らに運ぶように、とのことですが、い、いったいどちらへ……? つ、通常ですと、すぐには死なない程度の最低限の治療と、スキルと魔法を封印する術式の首輪を施した上で地下牢が妥当かと存じますが……こ、今回は……?」
戦闘メイドたちの実質のリーダー格。
この広間に瞑想する俺を呼びに来た、他の戦闘メイドたちと同じように目元まで前髪で隠した紫の三つ編みの少女がいち早く顔を上げ、ちらちらと困惑したように椅子に座る俺のすぐ隣で眠るものを気にしながら、おずおずと伺いを立てる。
それに対し鷹揚にうなずくと、俺はこう命じた。
「いや、ラベンダ。封印の首輪はもちろん施すが、治療は十分に施した上で、勇者アリューシャ以外のものたちは全員ひとまずこの階層の隠しエリアにある俺の居住エリアの客室に運べ。……ああ。ちゃんと男女別に二部屋で、俺の客人として丁重にな」
「っ…………!?」
おそらく予想だにしなかっただろうその俺の命によほどの衝撃を受けたのか。
紫の三つ編みの戦闘メイドのラベンダはそのまま直立不動で返事をすることもできず、ピシリと固まった。
――まあ、無理もないな。この勇者アリューシャたちは、各地で我ら魔族や魔物の拠点たるダンジョンを攻略し、ついにはこの魔王城まで侵入した、いわば大罪人。
魔族として普通に考えれば、極めて劣悪な環境の地下牢への収監は当然として、考えられる限りのあらゆる種類の責苦を味あわせた上で、最後は――いや、いまこれ以上考えるのはやめておくか。
どの道、俺が今回それを選ぶことは、ない。このいまも俺の隣で座りながら、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てる勇者アリューシャとの約束。
そして何より、これからの俺の覇道の成就のためにも、いたずらに勇者たちをいま害することは得策ではないのだから。
「じゅ、ジュドさま……!? い、いま、何とおっしゃられ……!? わ、私のな、名前を……!? ま、まさか……! せ、戦闘メイド風情の名前を……お、覚えていて、くださったのですか……!?」
…………ああ。それか。
確かに、この俺こと闇の貴公子ジュドは、実は一度たりともこの居並ぶ戦闘メイドたちの名前を呼んだことがない。
それは、「冷徹な闇の貴公子たる俺は、配下の名前など気にしないし覚えてもいない」というよく考えると、意味のわからない厨二病的美学。……いや、ぶっちゃけただの照れだ。
だが、かつて日本人のプレイヤーであり、それなりに人生、そして社会経験の記憶もあるいまの俺は知っている。
そんな魔族的思春期真っ盛りな異性への照れなど、百害あって一理無しだということを!
――だから、俺は殊更に優雅に微笑みながら、こう告げた。
「ふ。何を驚いている? ラベンダ。俺が信頼する部下たちの名前を覚え、親愛を持って呼ぶことなど、おまえたちの上に立つものとして当然だろう?」
「し、信頼……!? し、しし、親愛っっ!?」
すると、おそらくまたしても予想だにしない俺の言葉に、余程の衝撃を受けたのか。
今度は、まるでその心の臓を撃ち抜かれたかのように、叫ぶラベンダが大きく震えながら仰け反った。
――そして、正面に向き直る刹那。すっ、とその細い指先で撫でつけられ、前髪の分け目が整え、変えられる。
「ジュドさまの親愛、確かにこの胸に受け取りました……! そしてどうか、その主人の御心に、ここに至るまで気がつかなかった非才な身をどうかお許しください……! このラベンダ、さらなる忠節、いいえ忠愛を全身全霊でジュドさまに捧げることをいまここにお約束させていただきます……!」
そこにあるのは、プレイヤー時代では一度も見ることのなかった、片側だけ覗く琥珀色の、主人たる俺を心からの敬愛で見つめる瞳。
その頬を朱に色づかせた華やいだ微笑みを見つめながら、俺はあらためて誓う。
――俺の目の前にいるのは、一人の人間や魔族。誰一人として、ゲームのキャラクターでは、ない。
必ずやこの愛すべき戦闘メイドたちに恥じない主人であり続けなければならないと。
……いそいそと、ラベンダに続き目が隠れていた前髪の分け目を、頬を朱に染め思い思いに変え始めた、色とりどりの髪色の彼女たちを見ながら。




