10、決着。生命をかけた覚悟。……いまはどうか、心安らかに。
本日3話目。
――そうか! これは、あの二者択一の……! 勇者専用パッシブスキル〈最後の希望〉……!
装備をほぼ破壊され、その豊かな胸の一部を含め半裸に近い姿となりながらも、ゆらめく赤い魔力と赤く長い髪を烈しく立ち昇らせ、決意を秘めた青い瞳で俺を見つめる勇者アリューシャ。
思わず、得も言われぬその美しさに見惚れていたそのとき。
俺はプレイヤーだった頃の知識を探り当て、ようやくそれに思い至った。
――勇者専用パッシブスキル〈最後の希望〉。
勇者が瀕死に陥った際、その生命の最後の輝きを燃やし尽くすかのように、戦闘中一度だけ勇者の攻撃力を超絶強化する、使いかたによっては一発逆転すらも可能とする――かつての俺が取らなかった、いわば浪漫スキル。
なぜなら、全滅前提の高難易度を誇るほどに敵の攻撃が苛烈な〈ダンジョンブレイバー〉において、当然だが瀕死状態など狙って維持できるものではないからだ。
かつての俺が取ったのは、どちらか一つしか選べない二者択一のそのもう一方の対となるスキル。
――勇者専用パッシブスキル〈揺るぎない光〉。
効果は真逆。体力最大時のみ、勇者の攻撃力だけではなく全ステータスを常に若干ではあるが強化する。長い目で見れば、そして安定を取るならば、間違いなくこちらが有用。
――だが、ゲームではない、この実際に生死のかかった世界で、目の前の勇者アリューシャは。
「あたしは……勝たなきゃ……! 守らなきゃ……! みんなを……! あたしを信じてくれてる……人たちを……!」
自らの生命を燃やし尽くすかのようにその全身から、さらに烈しく赤い魔力が立ち昇る。
――選び取ったということか……! いつもはまったく役に立たない、自らが瀕死にならなければ使えないスキルを……!
まさに、いまこの瞬間のような窮地において、一発逆転を可能にするために……!
これが勇者アリューシャ。太陽の少女。人間たちの、まさに最後の希望、か。
……美しいな。もしかしたら、かつてのプレイヤーとしての俺が知るよりも。
そんな感傷にも似た感情を抱きつつも、まさかその勇者アリューシャの逆転の一撃をくらってやるわけにはいかない。
ゆえに、その前に予定どおりに今度こそこの戦いを終わらせるべく、俺は再び右手を前にかざし――
「それに、あたしは……! あたしを同志と言ってくれた……ジュドーにだって……! そんなひどいことさせたく、ない……!」
――ピタリと、その動きが途中で止まる。
敵で、魔族の……俺に……?
「だから……! あたしが……! ここで……止め……!」
その煌々と輝く穢れのない青い瞳には、ぽろぽろと涙があふれていた。
――ああ。そう言えば、貴女は一度も、俺に『殺す』とは、言っていなかったな。
「――スリープオール」
「あっ…………?」
そして俺は今度こそ予定どおりに、宣言どおりに全員を楽に――状態異常魔法で眠らせることで戦いを終わらせた。
カシャン。
手にした剣を取り落とし、ガクンと前からくずれ落ちかけたその人々の希望を一身に背負うには、小さく華奢な体をそっと抱きとめる。
「……同志アリューシャよ。いまは全てを忘れ、せめて安らかにゆっくりと眠るがいい。この戦いの勝者は俺だ。我が覇道はここから始まる。もはや負けた貴女に止めることはできない。……だが、約束しよう。俺は必ずその覇道において、無為な犠牲をより少しでも減らせる道を選ぶと。他ならぬいま俺を止めると言ってくれた、そしてその覚悟を生命をかけて示した貴女のために。だから、アリューシャよ。いまはどうか、心安らかに」
俺は一度だけ、抱き留めたその華奢な体の、その赤く長い髪を愛しむようにそっとなでる。
「う、ん……。えへ、へー……」
――勇者アリューシャはほんの少しだけ安心したように微かに笑みを浮かべると。
あどけない顔で気持ちよさそうに、すぅすぅと俺の腕の中で寝息を立て始めた。
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