1、転生。四天王最弱、闇の貴公子ジュド!
「じゅ、ジュドさまっ! 魔王陛下直属四天王、闇の貴公子ジュドさまぁっ!」
…………ん? ジュド?
上ずった甲高い声に呼びかけられ、薄ぼんやりと混濁した意識の中、俺は重いまぶたを開いた。
「や、やっと起きてくれたんですね! ……じゃなくて! ジュドさまっ! こんなときにそんなふうに椅子に踏ん反り返って瞑想なんてしている場合じゃないですよ! ほ、本当に一大事ですっ!」
俺の顔を覗いていた、その目元まで隠した紫の髪が印象的なメイド服の少女があわあわと俺に早口で説明を始める。
「各地で我ら魔族や配下たる魔物! その拠点たるダンジョンを次々と破った、あの少女勇者アリューシャの一行がついにこの魔王城にまで侵入っ! いまや、もうすぐそこまで迫っています! この報告を終え次第、私もすぐに他のみんなといっしょにこの広間の前で守り手として待機しますのでっ! 我らが命にかけてもお守りしますがっ! 万が一に備え、急ぎジュドさまも迎撃準備を!」
……ふむ。いかんな。どうもまだ頭が回っていない。
……こいつは誰だったか? ああ、そうか。俺の身のまわりの世話と警護役を兼ねる戦闘メイドたちの一人か。
「では、ご武運をっ!」
言い終えるとそのままバッとお辞儀をしてパタパタと慌ただしく石造りの薄暗い広間を紫の髪をおさげにまとめた戦闘メイドは出ていく。
石造りの椅子に腰かけたまま、腰の双剣と三つ編みを揺らすメイド服の後ろ姿を俺は頬杖をつき、ふぁと優雅に欠伸混じりに見送った。
「……ふむ。それにしても俺としたことがどうやら随分と深く寝入っていたようだ。まあ久しぶりに三日ほど徹夜してほぼぶっ続けでゲームをしていれば、無理もないか。だが、おかげで新DLCの追加要素も含めてあの〈ダンジョンブレイバー〉をついに完全にクリアできたことだし…………ん? ゲーム? 〈ダンジョンブレイバー〉? 完全に、クリア? 俺はいったい、何を言って――ぐぅおおあぁぁっっっ!?」
その瞬間。
脳髄の奥を直接掻き回すかのような激しい頭痛が俺を襲い、同時に脳裏の奥底に次々と走馬燈のように無数の映像が流れる。
「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!?」
――そして俺は、すべてを思い出した。
「お、俺は元日本人で、プレイヤー……!? そして、まさか、まさかこの〈ダンジョンブレイバー〉の世界に転生したのか……!? それも、プレイヤーの操る勇者たちではなく、敵方に……!? ちょ、ちょっと待て……!? そ、それも、よりにもよってその転生先は、いまの俺はこの、闇の貴公子ジュドだというのかっ!?」
――かつて日本人、プレイヤーだった頃の俺が最も愛し、ときに寝食を忘れて熱中し狂ったように何度も何度もプレイした。
一部に根強い人気を誇る高難易度ダンジョン攻略型RPG〈ダンジョンブレイバー〉。
そのストーリー上のラストダンジョン魔王城。
全十階層あるそのダンジョンで、最奥に座すストーリー上のボス。
少女の姿をした魔王デスニアへ挑むプレイヤーが操る勇者たちを待ち受ける最後の関門、それが魔王直属四天王。
その中で第三階層、最初に勇者たちに挑むのがこの闇の貴公子ジュドだ。
次期魔王の座を虎視眈々と狙う自信家にして野心家。
艶やかな黒髪と切れ長な赤い瞳の優男。
貴族風の衣装の上に片側留めの夜の闇を写したような藍色のマントを纏ったその姿は、まさにその二つ名たる『闇の貴公子』の体現。
その極めて優れた貴公子然とした容姿から、女性ファンからの人気も高い。
戦闘面においては、魔法の天才との触れ込みのとおり、火水土風の四大属性、さらに攻撃、補助、状態異常、果ては回復さえもとあらゆる種類の魔法を使いこなす。
だが、そんな説明だけなら人気と強さを兼ね備えたゲーム中屈指の強敵であるかのような闇の貴公子ジュドの実態は――
「し、しかも、勇者たちがもうすぐそこまで迫っているだとっ!? ど、どうすればいいっ!? プレイヤーとしての記憶を思い出し、その精神と一体化したいまの俺は、嫌というほど知っているっ! この俺は、闇の貴公子ジュドは、間違いなく四天王最弱なのだぞっ!?」
――はっきり言って、雑魚だった。
新連載です!
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※本日は、夕方にもう一話投稿します!