表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪楽 ─日の國の鬼神─  作者: 明庵 心架
第二章 一族
8/29

8 霊魂



 その夜──


 藍冀公子と従者2人が廊下を歩いていた。



「ふわぁ~…。 坊っちゃま、こんな夜に何をするんです?」


「決まってるだろ。 あの無能に誰が上か分からせてやるんだ!」


「しかし、神力修様方から夜中は出歩かないようにと…」


「知るか! どうせ、たいした怨念じゃないだろ? お前、俺の言うことを逆らうのか?!」


「め、めっそうもない…!」



 藍冀公子(利道)たちは藍冀魁杜らんきかいとつまり、空鬼呑心からきてんしんがいる空き部屋へと向かおうとする。





(はぁ。まったく聞こえてるっつーの!昼間のことを恨んで、真夜中に襲おうとするなんて男として恥ずかしくないのか?)



 呑心てんしんはこの話を"奏呪術【(もん)】"を使って聞いていた。奏呪術【(もん)】は、紙か葉などを使って聞きたい人の首の後ろに貼り、相手の会話、周りの声が聞こえる呪術だ。貼った紙か葉は神力者でないと見れず、一般の民が見れることはない。解くとそれ(紙か葉)は自然と消滅する。


 そして、近くまで声が聞こえてきたので呪術を解くと、さっきまで藍冀公子の声がしていたのにいきなり静かになった。



(変だなぁ。さっきまで声が聞こえていたのに。)



 不思議に思っていると、しばらくして「うわぁ!!だ、誰か!」と藍冀公子の叫び声が聞こえてきた。呑心てんしんは急いは部屋のドアを開けた。


 着いたそこには、神力修の2人はひもにおり、空を指差して怯えている藍冀公子の姿が。指差している方を見ると、空には黒い煙がまとわりついた霊魂(怨念)がいくつも浮いていたのだ。



「まずいな。これほどまで多いとは…。」



 さっきの藍冀公子の声で藍冀夫婦や姫君、ましてや兵士達もでてきた。



「皆さん。あまり大きな声を出さないでこちらに避難を……」


「兄様!うるさいですわ!こんな夜中に!」


(あちゃ~。だめだ。そんな大声を出してしまったら…)



 呑心てんしんは手をおでこにあてながら、思った。次の瞬間!空に浮いていた3つの霊魂(怨念)が藍冀の姫君へ向かっていったのだ。



「危ない!」



 神力修の声が響く。しかし、もう遅い。藍冀の姫君へと向かった3つの霊魂(怨念)は、姫様の口から体内へと入っていった。霊魂(怨念)が入ってしまった霊力がない人間は、生きている人でも屍になり、襲ってくるのだ。この事を神力者達の間では〔人死魂(じんしこん)〕と呼んでいる。人死魂は神力者、神力修がなることは滅多にない。なってしまったときは屍より強い、"鬼"となってしまう。


 屍になった藍冀の姫君は、華やかなお姫様の姿と違って、髪はボサボサで長く、牙がはえ、肌色も悪く、目は白目をしており、ガリガリと言うほど痩せ細った恐ろしい姿になっていた。



「うがぁぁぁぁ!!!!!!」



 耳がちぎれそうなほどの叫び声。変わり果てた姫君に藍冀夫婦は声も出ず、その場に座ってしまう。他の兵士達は怖くなり、声を上げ逃げ回るやつらがでてきた。霊魂(怨念)は次々と兵士達の中へ入っていき、屍が増えていく。



「こんなに声を上げるとまずい!」


「皆さん静かに!」



 神力修が呼び掛けるが、兵士達は言うことを聞かない。



(人間は恐怖を感じると視野が狭くなる。はぁ。

!? 待てよ。一番始めに声を上げた藍冀公子はどこだ?)



 呑心てんしんは藍冀公子の方を見た。




「あ…あ…うがぁぁぁぁぁ!!!!」



 藍冀公子は呑心てんしんが思った通り、屍へとなっていたのだ。



「屍になった、か…。」



 屍になった藍冀公子は鋭く長い爪で兵士達を次々と殺していった。



(ん?様子がおかしい…!屍はあんな一斉に殺すことなんてない!)



 呑心てんしんは兵士達を殺している人死魂になった藍冀公子を見ていた。すると、おでこに小さな角が2本はえていることに気づいたのだ。



(あの角は…鬼!?なぜ!?藍冀公子《利道》は霊力がない。まさか、中に入った霊魂(怨念)の霊力が強かったのか…!)



 顎に手をあてながら考える。



「鬼が出るとなると話は別だ。俺が操ってもいいが、他の屍が邪魔だ。」



 呑心てんしんは鬼神。その名の通り"鬼の神"。鬼神は鬼を操ることができ、鬼の王様だ。



(どうしたものか。)



 神力修はと言うと、1人は藍冀夫婦のところへ。もう1人は兵士達が集まっているところへ行って守っていた。



(俺は襲ってくる屍を避けながら、神力修の近くへ行った。お子様な神力修達は始めてのことだろうな。)




「少し手伝うとしよう。」






「おい!お子様神力修達!」


「「!?」」



 2人の神力修は呑心てんしんを見た。



「誰がお子様ですか!」


「そんなこと今はいい!結界をひくことはできないのか!?」



 すると、頭がよさそうで優しそうな神力修の1人が「そうか!」と言い俺がいた空き部屋へ結界の陣をひいた。



「皆さん!こちらへ!」



 神力修の声を聞いた、藍冀夫婦や兵士達が空き部屋へと急いで入り、呑心てんしんも入る。最後は神力修が全員は行ったのを確認し、ドアを閉め、文字が書かれた札をドアへと張り付けた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ