6 騒動
「ですから、私の子供達はすごい才能があるんですの!」
「それは…すごいですね。あはは…。」
「あの、藍冀夫人。そろそろ準備を…」
神力修2人が準備の話を持ち出そうとした時、「バンッ!」と音がするほどドアが開き、藍冀公子が泣きながら走ってきた。
「は、母上ー!!!あの無能が俺のことを殴ったんだよ!こらしめてくれ!」
「殴られたですって!?怪我は?大丈夫なの?
…あらやだ、お恥ずかしいところを…。おほほ…。利道?話はあとでたくさん聞いてあげるから、今はおとなしくしてなさい。」
藍冀夫人は扇で口許を隠しながら話した。夫人は子供のことを溺愛しすぎている。何がなんでもすべてはお金で解決させ、闇の取引もしているそうだ。この亜鉛の粉末もそれで手に入ったのだろう。
「お、奥様ー!!あの無能が侵入してきました!しかも多くの兵士へ攻撃しています!」
「なんですって?!私の可愛い利道を殴ったあげく屋敷にまで侵入し、兵士へ攻撃するなんて!早く探し出しなさい!」
騒がしくなった屋敷の外を神力修は不思議に思った。
「あはははは!ふふ!くくっ!」
どこからか聞こえる笑い声にその場にいた人達は外に出てきた。声がした方向は呑心が屋根の上に座って、藍冀夫人達や兵士達、神力修の2人を見下ろしていた。後ろには太陽があり、神々しい。
「くくくっ。殴ったあげく侵入だって?俺は兵士達に一回も攻撃をしてない。その情報は大きな間違いだな。俺はお坊っちゃま直々にここへ来いと言われたんだ!それに殴った理由なんて、そこのお坊っちゃまがそいつらの茶湯にこれを入れろって命令されたんだからな!」
呑心は藍冀公子《利道》に渡された白い粉をばらまいた。兵士達は「無能がなにかばらまいたぞ!」「気を付けろ!」など言っている。そんな兵士達は、俺が「よっと!」と言いながら屋根から降りると、武器を持って周りに群がってきた。所詮、武器はお飾りだ。怖くも痒くもない。
「おい無能!なにをばらまいたんだ!」
「何って、これは亜鉛の粉末だよ。お坊っちゃまに渡されたな。」
藍冀家のやつらが一斉にお坊っちゃまの方へ向いた。唯一向いてないのは母親だけ。
「で、でたらめを言うな!すべては無能の仕業なんだ!それに、亜鉛の粉末だなんて分かるわけないだろ!」
「そうよ!かわいい利道がそんなことするわけないわ!」
そんな2人の言葉に兵士達も「そうだ!そうだ!坊っちゃまがそんなことするわけない!」「すべては無能!お前の仕業だ!」など声を上げるやつが出てきて、その言葉は広がっていった。
あちこちから飛び散る罵声。その場にいる全員が空鬼呑心を批判した。
(言葉の矢は、剣など武器とは違って、まるで俺と言う存在を否定している。前世の時もそうだった。)
下を向き目をつぶっていると、㯥舞月神の神力修2人が俺と藍冀家の間に入った。
「お待ちください、皆さん。どちらかが我々の命を狙ったとて、犯人かも分からず証拠があまりない人を大勢で批判するのはよくない。」
「ひとまず、我々はこの場の怨念を祓う準備をします。ここへ怨念を引き寄せる「奏香呪術」を使うので、絶対に夜は外出しないように。」
こうして神力修がなんとか沈めてくれ、その場は解散となったのであった。