3 馬と少女
「さて、どうするか。」
突然世間に、鬼神伝 空鬼呑心が蘇りました!と言われると、有名賛家が黙っちゃいない。それに、今の姿は鬼神でもなんでもない普通の青年だ。なにより今世はゆっくり過ごしたい。
「どこかへ旅しようか。でもその前に復讐をしないと。う~ん…。どうやって藍冀家に行こうか…。お!」
呑心はニコニコ笑いながら、近くに縛られていた馬へ近寄った。
「これはこれは、すごく立派な肉…じゃなくて!すごく立派な筋肉ですね。あはは…。」
馬は肉という言葉が分かったのか、呑心を後ろ足で蹴った。少しとばされた呑心は頭をさすりながら立ち上がり、馬に指を指す。
「もう、痛いじゃないか!これじゃ藍冀家への復讐どころか行けないぞ…。」
手を顎にあて考える仕草をしていると、どこからか可愛らしい声が聞こえた。
「そこのお兄ちゃん、なにしているの?」
「ん?」
振り返ると、野菜籠を持っている少しボロい服を着た少女が立っていた。おそらく、近くの街の子だろう。
「このお馬さんは、にんじんが大好きなんだよ。」
少女はそう言うと、せっせと籠からにんじんを2本取り渡す。
(小動物のような仕草が可愛らしいな。)
「ありがとな。嬢ちゃん。」
呑心は笑顔で言いながら少女の頭を撫でた。少女は眩しいほど綺麗な笑顔を返す。
(昔、世話をしたあの子にそっくりの笑顔だな。)
前世のことを思い出したせいか、呑心は少し悲しい顔になった。
その後少女とは少し世間話をして別れた。どうやらここら辺は怨念が溜まりやすい場所らしい。先日生け贄を捧げたが、被害は増える一方だという。そのことで有名賛家から神力修様達が退治をしに、一番大きい屋敷へ来ているのだ。
「怨念だって?しかも生け贄なんかもっと意味がないことを。それで屍がでたらそれこそ厄介だ。それに神力修か、神力者ではないがもし知っていて俺の正体がバレたら確実に終わる。でも、困っている人がいるのは見過ごせない。お坊ちゃま様にも来いと言われたようだったし…。よし!藍冀家に行ってみて手がかりを探そう。旅はその後だ!」
そう言い、呑心は馬ににんじんを1本見せた。その馬の目がいつも以上にキラキラしているのは気のせいだろうと思いたい。
「対価がないと動かないとは、お利口さんな馬だな。情けは人のためならずって言葉を聞いたことないのか?ま、馬だからないか。」
馬は反応するように鼻息を鳴らした。