28 老人
「やれやれ……。名乗り遅れてしまいましたな。わしの名は継廿吉。廿吉爺って呼んでも構わないぞ。これでも立派な和菓子職人じゃからの?ホッホッホ。」
髭を触りながら言う老人は【継廿吉】。街から離れた竹林に甘味処を営む和菓子職人。女房はひもに亡くなっており一人で経営している。
「思季!“廿吉爺“でも“廿吉じじい“や普通に“爺“って言うと怒るから気をつけろ♪ちなみに俺は“じっちゃん“って呼んでるぜ!」
「…わしの目の前で言うお主はいい度胸をしよるのぉ。」
「えへへ、そうかな!」
「褒めとらん」
会話するたび茶番が始まる2人。それはそれは騒がしいもので、思季は呑心が2人いるかのように感じた。
「改めて、空天家の公子 空天思季と申します。美味しい和菓子をありがとうございました。」
「なんのなんの!こやつ《呑心》に比べればいいってものさね。」
立っていた廿吉爺は思季の前の席へ座った。
「そういえば、ここの和菓子は全て手作りなんですね。」
「そうじゃ。この甘味処は“一つ一つ とにかくこだわる“。それが、座右の銘じゃ。」
人差し指を立て、誇らしげに言う廿吉爺。
「通りで美味しいわけです。」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。さっきも言ったが、こやつ《呑心》は初めてここへ来て和菓子を食べたとき、それはそれは酷かった。いつ頃だったかのぉ…。あれは確か、9年前じゃったな。空から急に落ちてきて...」
調理場の方で饅頭を盗み食いしていた呑心がその声に素早く反応する。廿吉爺の話を遮り、口を少しモグモグさせながら2人のところへ来た。急いで一気に饅頭を飲み込み、思季の肩を組ながら言う。
「…あぁ!そうそう!俺が風を利用して飛ぶ練習してた時、失敗してここに墜落したんだ。」
口元にあんこがついており、片手に持っている饅頭をまた頬張りながら「結構難しいんだよな。これが。」と言っている。頬張っているせいで、何を言っているのか少し聞き取れない。呑心の口はハムスター状態だ。思季はその口についてツッコミしようとしたが、スンと真顔に戻った。意味がない、と一つ学んだのである。前の席の廿吉爺も同じ顔になっていた。ハテナマークが飛び散る呑心。
近くでカラスが大きな声で鳴いた。
【ちょこっと知識】
◇後日談◇
饅頭を勝手に食べた呑心は、あとで廿吉爺に怒られた。
「…なぁに、人様が思いを詰めて作った和菓子を勝手に食べとんじゃっ!!お主は!」
廿吉爺の声が竹林から空へと響いた。呑心の背中を杖で「バシッ」と、それはもう思いっきり叩いている。
「イダッ!?…だって、じっちゃんの饅頭がおいしくて、手が止まらなかったんだ!!」
背中をさすりながら涙目の呑心は廿吉爺より背が高いくせに、上目遣いをしている。廿吉爺は自身の和菓子を褒められ、頬を少し赤くした。
「そ、そんなにか…?嬉しいのぉ…。」
ご機嫌になった廿吉爺は奥の方へ入っていった。それを見送る呑心。
「(じっちゃん。和菓子を褒めたらすぐに機嫌なおるのな。ちょろい…。)」
「わざとやったけどな♪︎」
上目遣いが得意な呑心であった。




