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邪楽 ─日の國の鬼神─  作者: 明庵 心架
第三章 前世と夢
26/29

26 道



「ここで下りるぞ!」



 ある程度地面が近くなると風はゆっくり消えていった。下りた場所は、人通りの少ない路地裏。大通りとは離れており、街の端っこらへんだ。周りは藁の家や田畑、「モーモー」と鳴く牛がおり、奥の方に進むと竹林があった。天雲霞无てんうんかんには空天家が立っている高い岩山だけではなく、街の方にも山という緑などはある。



呑心てんしん。こんなところに甘味処があるのか?」


「あぁ!あんまり民が知らない、街の隅にこっそりと立っているんだ。なんとその店は団子や餅は全て手作り!スッゴクうまい!!あぁ、そう考えるとお腹が……。」



 呑心てんしんのお腹は食べ物を寄越せと「グゥ~」となっている。それほど美味しいのだろうかと想像してしまった思季しき。顔は期待の眼差しを向け、涎を出すのを我慢しているようだった。


 そんな会話をしながら2人は竹林の細道を歩いていた。道は大通りのように設備されておらず、落ち葉が一面絨毯のようになっている。



「もうすっかり秋だな。」


「そうだな~。10年前、俺がここに着た時は冬だったのにな!」


「…そうか。呑心てんしんと出会ってもうそんなに立つのか。」



 しみじみ思い出し、横に並んで話す。呑心てんしんは両手を頭の後ろで組み、上を見上げながら歩き、思季しきは長い袖の中に手を入れ下を向いて歩いている。歩くたびには「カサカサ」と落ち葉を踏む音が、秋を感じさせていた。上からは薄く黄色がかった多くの竹の葉が、ゆっくり落ちてくる。




「 季節きせつめぐりて きみ ともに

  せいいろは ふか

  異彩いさいかげ ひびいて

  おもいはいまも うつろわざりけり 」




 思季しきは立ち止まり左手を上げ、落ちてくるたくさんの竹の葉に優しく触れ、見上げながらこの一文を言った。彼は極たまに思いついたふみを言うことがあるのだ。


 後ろから風が吹き、道に落ちていた竹の葉・ゆっくりと落ちてきている竹の葉は空へ「フワッ」と舞い上がった。竹は「サワサワ」と音を立てている。呑心てんしん思季しきの一歩前で立ち止まりふみを聞いていた。そして一瞬だけ目を見開く。葉が周りを舞い上がり、風に吹かれている思季しきの姿がすごく綺麗だったからだ。


 少しだけ風と竹の音が響く不思議な空間。風が止んだ瞬間、呑心てんしんは顔を綻ばせ言った。



「いいふみだな!どういう意味で言ったんだ??」



 ふみや文章に関することが得意な思季しき。そして逆に、ふみや文章を読み取ることが少し苦手な呑心てんしんその(文の)意味を聞いた。



「“巡り巡る季節はいつも君といると、人生の全てが色付くほど個性強く感じる“という意味さ。」


「へぇ…恋文みたいだな!」


「断じて違う。」



 呑心てんしんの感想に即答した思季しき

 再び歩きながら何気ない会話をする2人は、この時だけ“本物の自由“が感じられる。空天そうてん邸では神力修としての学びのほか、時期宗主として、時期宗主の護衛役として、大忙しだからだ。


 沈黙が続く。しばらく進むと道の先に光が差し込んでいた。



「もうすぐ着くぞ」



 進んでいくたびに目の前がだんだんと明るくなっていった。途端に広場に出た。周りは竹に囲まれ、来た道と同じように下は竹の葉の絨毯。真ん中には家が立っており、所々に小川に石橋・竹垣や「カコンッカコンッ」と鹿おどしが動いている。小鳥が「チュンチュン」と戯れ、蝶はヒラヒラと飛んでいた。自然豊かで綺麗だ。



「ここか?」


「そうそう!ほら、“茶“ってかいてある、のぼりがあるだろ?……あっ!じっちゃん!」



 呑心てんしんは手を振りながら「おーい!」と言っている。その先には家から出てきている老人がいた。呑心てんしんは老人へと走り出す。思季しきはというと、後からゆっくり歩いていた。



「じっちゃんじっちゃん!」


「はぁ、また来たんか。お前が来ると騒がしいばかりじゃい!」


「そうだろ?そうだろ?俺が来た方が楽しいだろ?」


「いい迷惑じゃ」



 老人は持っていた杖で呑心てんしんを叩いている。呑心てんしんはそれを痛くも痒くもないと思い笑いながら棒立ちしていた。



呑心てんしん。そちらの方は…?」


「ん?あぁ!この年寄りはここの甘味処を管理しているじじいだ!」


「いや、それくらい見れば分かる。」



「誰が(じじい)と言った!」



 親指を立て腕を付き出していった呑心てんしん思季しきは素早くツッコミをいれる。


 側で見ていた老人は思季しきを見た途端、少し頭を垂れた。



「…これは、空天そうてん家若君の思季しき様でしたか。いやはや、お見苦しい姿を見せてしまいましたな。」


「いえ、そんな。頭を上げてください。こちらの呑心てんしんがいつも世話になっているようで…。」



 思季しきは老人と同じ目線に膝を付き言った。



「よければ呑心てんしんと同じような接し方が良い。その方が気が楽だ。」


「……それもそうじゃな、お主がそう言うのであれば………。ほれ、呑心てんしん思季しき!早よ中入らんか!」



 突然の大声にビタッと固まる2人。老人が中に入り姿が見えなくなると、一斉に吹き出し呑心てんしん思季しきは「アハハ!」と笑った。



「早く入ろうか!」


「そうだな。」



 頷き合い甘味処の扉をくぐった。



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