26 道
「ここで下りるぞ!」
ある程度地面が近くなると風はゆっくり消えていった。下りた場所は、人通りの少ない路地裏。大通りとは離れており、街の端っこらへんだ。周りは藁の家や田畑、「モーモー」と鳴く牛がおり、奥の方に進むと竹林があった。天雲霞无には空天家が立っている高い岩山だけではなく、街の方にも山という緑などはある。
「呑心。こんなところに甘味処があるのか?」
「あぁ!あんまり民が知らない、街の隅にこっそりと立っているんだ。なんとその店は団子や餅は全て手作り!スッゴクうまい!!あぁ、そう考えるとお腹が……。」
呑心のお腹は食べ物を寄越せと「グゥ~」となっている。それほど美味しいのだろうかと想像してしまった思季。顔は期待の眼差しを向け、涎を出すのを我慢しているようだった。
そんな会話をしながら2人は竹林の細道を歩いていた。道は大通りのように設備されておらず、落ち葉が一面絨毯のようになっている。
「もうすっかり秋だな。」
「そうだな~。10年前、俺がここに着た時は冬だったのにな!」
「…そうか。呑心と出会ってもうそんなに立つのか。」
しみじみ思い出し、横に並んで話す。呑心は両手を頭の後ろで組み、上を見上げながら歩き、思季は長い袖の中に手を入れ下を向いて歩いている。歩くたびには「カサカサ」と落ち葉を踏む音が、秋を感じさせていた。上からは薄く黄色がかった多くの竹の葉が、ゆっくり落ちてくる。
「 季節巡りて 君 ともに
生の色は 濃く深し
異彩の影 響き合いて
想いは今も 移ろわざりけり 」
思季は立ち止まり左手を上げ、落ちてくるたくさんの竹の葉に優しく触れ、見上げながらこの一文を言った。彼は極たまに思いついた文を言うことがあるのだ。
後ろから風が吹き、道に落ちていた竹の葉・ゆっくりと落ちてきている竹の葉は空へ「フワッ」と舞い上がった。竹は「サワサワ」と音を立てている。呑心は思季の一歩前で立ち止まり文を聞いていた。そして一瞬だけ目を見開く。葉が周りを舞い上がり、風に吹かれている思季の姿がすごく綺麗だったからだ。
少しだけ風と竹の音が響く不思議な空間。風が止んだ瞬間、呑心は顔を綻ばせ言った。
「いい文だな!どういう意味で言ったんだ??」
文や文章に関することが得意な思季。そして逆に、文や文章を読み取ることが少し苦手な呑心はその意味を聞いた。
「“巡り巡る季節はいつも君といると、人生の全てが色付くほど個性強く感じる“という意味さ。」
「へぇ…恋文みたいだな!」
「断じて違う。」
呑心の感想に即答した思季。
再び歩きながら何気ない会話をする2人は、この時だけ“本物の自由“が感じられる。空天邸では神力修としての学びのほか、時期宗主として、時期宗主の護衛役として、大忙しだからだ。
沈黙が続く。しばらく進むと道の先に光が差し込んでいた。
「もうすぐ着くぞ」
進んでいくたびに目の前がだんだんと明るくなっていった。途端に広場に出た。周りは竹に囲まれ、来た道と同じように下は竹の葉の絨毯。真ん中には家が立っており、所々に小川に石橋・竹垣や「カコンッカコンッ」と鹿おどしが動いている。小鳥が「チュンチュン」と戯れ、蝶はヒラヒラと飛んでいた。自然豊かで綺麗だ。
「ここか?」
「そうそう!ほら、“茶“ってかいてある、のぼりがあるだろ?……あっ!じっちゃん!」
呑心は手を振りながら「おーい!」と言っている。その先には家から出てきている老人がいた。呑心は老人へと走り出す。思季はというと、後からゆっくり歩いていた。
「じっちゃんじっちゃん!」
「はぁ、また来たんか。お前が来ると騒がしいばかりじゃい!」
「そうだろ?そうだろ?俺が来た方が楽しいだろ?」
「いい迷惑じゃ」
老人は持っていた杖で呑心を叩いている。呑心はそれを痛くも痒くもないと思い笑いながら棒立ちしていた。
「呑心。そちらの方は…?」
「ん?あぁ!この年寄りはここの甘味処を管理している爺だ!」
「いや、それくらい見れば分かる。」
「誰が爺と言った!」
親指を立て腕を付き出していった呑心に思季は素早くツッコミをいれる。
側で見ていた老人は思季を見た途端、少し頭を垂れた。
「…これは、空天家若君の思季様でしたか。いやはや、お見苦しい姿を見せてしまいましたな。」
「いえ、そんな。頭を上げてください。こちらの呑心がいつも世話になっているようで…。」
思季は老人と同じ目線に膝を付き言った。
「よければ呑心と同じような接し方が良い。その方が気が楽だ。」
「……それもそうじゃな、お主がそう言うのであれば………。ほれ、呑心と思季!早よ中入らんか!」
突然の大声にビタッと固まる2人。老人が中に入り姿が見えなくなると、一斉に吹き出し呑心と思季は「アハハ!」と笑った。
「早く入ろうか!」
「そうだな。」
頷き合い甘味処の扉をくぐった。




