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邪楽 ─日の國の鬼神─  作者: 明庵 心架
第三章 前世と夢
23/29

23 二人



 それから10年たった秋。 2人は十五になる年頃だ。



 思季しき呑心てんしんはまるで兄弟のように育っていき、神力修の身ではお互いライバル関係が続いていた。


 呑心てんしんはそれこそ悪餓鬼のようにやんちゃで、考える前に行動する子に育った。 極たまーに修行をサボり、そんなときは従者と追いかけっこだ。 それでも、自分を後回しにしてまで人のことを優先する優しい子だった。


 一方、思季しき呑心てんしんの真逆で、行動する前によく考える頭脳派。 それでいて修行をサボることはなかなかない。 あるとしたら、呑心てんしんに連れ去られるときくらいだ。 そんな普段の彼には"冷静沈着"という言葉が似合うだろう。


 そして、2人とも神力修としては同等の力だが、呑心てんしんの方が一枚上手。将来、思季しきの従者かり護衛を努めるためにはそのくらいの力がなくてはいけないそうだ。




 それなのに───






「お~い!思季しきっ!!一緒に甘味処へ行こう!」


「…呑心てんしん。ついこの間父上から注意されただろ?まだ懲りないのか?」


「なんで思季しきが知っているんだ??」



 大きな声をだして走ってきた呑心てんしんは真っ先に思季しきを誘って修行をサボろうとしていた。そんな彼の姿に思季しきはため息気味に話す。己が白行はくゆきに注意されていたことを知られていた呑心てんしんは、あんぐりと口を開けている。



「お前が従者と毎回追いかけっこしている姿は、嫌でも目に入る。」


「え"!そんな嫌だったの…??」


「ち、違う!別に嫌というわけでは、ないが…。頼むからそんな目で見ないでくれ!」



 姿勢よく座敷に座っている思季しきの目の前で、机から少し顔をだす呑心てんしん。その目はわざとウルウルさせ、いかにもあざとい。上目遣いをされた思季しきは赤面になり、必死に誤解を解こうとしている。



(しめしめ!もうひと押しだ!)



 にやけながら思う呑心てんしんは長年の付き合いということもあり、思季しきがあとどのくらいで折れるか感じていた。そうなったらあとは、すぐに行動するだけ。


 呑心てんしんは机に両手をついては身を乗り出し「ぐっ」と思季しきに顔を近づける。思季しきは、急接近してきたことに驚き後ろへ手をついた。もちろん顔は赤くなったままだ。



「なぁなぁ。いいだろ?甘味処行こ!」


「い、いや俺は修行を…。」



 じりじりとよつばいで近寄っていく呑心てんしんと、座ったまま後ずさる思季しき。とうとう背中に壁があたった時、呑心てんしんは「スッ」と立ち少し膝を曲げ手を差し出した。



思季しき。俺の手を取れ。大丈夫だって!俺は将来、お前専属の従者かり護衛役だ。なにかあれば、俺が守る!安心しろ!」


「そういう問題ではない!」


「あれ?」



 少しの間、沈黙が続く。思季しきは少々迷っている様子だが、呑心てんしんはまっすぐ見つめ、手を少しずつ「ほれほれ」と差し出していく。




 そして結果は──







        思季しきが手を取った








「はぁ、まったく…。今回だけだからな…。」


「今回 () だけどな!」



「…口を閉じろ!呑心てんしん!」



 

 図星をつかれた思季しきは「ニヒッ」と白い歯を見せる呑心てんしんを押した。そんな呑心てんしんは「あはは!」と笑うだけである。




 さて。ここで一つ問おう。思季しきは決して呑心てんしんに甘いのではない。甘いのではないのだ。ただ、少しツンデレでピュアなだけなのである。



 思季しきは母親が思季しきを生んですぐに亡くなり、父親である白行はくゆきと従者達が育ててきたのだ。空天そうてん家には待女という召し使いもあまりいない。

つまり、呑心てんしんのようにすごく距離を迫られるようなことや、上目遣いなどには慣れていないのである。


 それを理解している上でやっている呑心てんしんは恐ろしい。







「そうと決まれば、さっそく行くぞ!」


「え、ちょ!おまっ!?」



 呑心てんしん思季しきの手を取り、屋敷の廊下や庭、屋根を走った。その度に従者が一人、また一人と増えていく。




「追いかけっこの…」










          始まりだ









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