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邪楽 ─日の國の鬼神─  作者: 明庵 心架
第二章 一族
19/29

19 深い眠りへ



 呑心てんしんにめがけて伸びた鎖は呑心てんしんの手や足をそれぞれ拘束した。



(遠距離操作!?いや、近くに別の神力者がいたのか?)



 手や足を動かしてみるが、どうも動きそうにない。霊力を使えば使うほど、縛る力が強くなる。


 考えているうちに身動きがとれない呑心てんしんの背後から足音がした。




「判断が早いね。すごいな~!あ、ちなみにその鎖は霊力を使えば使うほどきつくなるよー。」



 微笑み、ゆっくり拍手しながら歩いてくる男。面布のかわりに扇子で口元を隠している。烏帽子に薄黄色の(狩衣)㯥舞月神(そうぶげっしん)。少しタレ目で女装をしても違和感がないくらい中性的な顔立ちだ。歳は志学から而立の間、いわば二十歳くらいだろう。



(まさか、別方向から違う神力者が来るとは…。)


「ふふふ。そんなに警戒しないでください。私はひがし㯥舞月神(そうぶげっしん) 神力者、白月はくが虎翼こよく。以後お見知りおきを。えーと、君は…。」



 白月はくが虎翼こよく呑心てんしんの面布に触れようと手を伸ばした。だが、面布には霊力が備わっており、別の神力者が触ると「ビリッ」と電気が流れるようになっている。案の定、虎翼こよくの手に電気が少し流れ「痛いじゃないかぁ!もー!」と言い、指をふーふーしていた。そんな少し女性っぽい仕草に苦笑いをする呑心てんしん



(このまま捕まっていたら連れてかれるだけ。よし、こうなったら強行突破だ!)



 呑心てんしんは霊力をおもいっきり放ち、鎖を壊した。虎翼こよくは少し驚いているが、興味津々というような目で見ている。そして、呑心てんしんは屋根をつたって屋敷の塀まで逃げていった。





「おもしろい人だね!んー、また会えるかな?」


 虎翼こよくは扇子を閉じ、感心しながら考える。


 すると虎翼こよくの前に「ヒュンッ」と空から剣が地面に刺さった。



「おぉ!この剣は!」



「すまない。弟子達を見なかったか?」


「やっぱり暁彗(ぎょうせい)殿でしたか~!」



 空から優雅に着地し、布口面を着けている虎翼こよくと同じ歳くらいの男。


 【白月はくが 暁彗ぎょうせい

㯥舞月神(そうぶげっしん)の神力者であり、白月はくがれん白月はくがりきの師匠。それなりの実力があり、たまに宗主の補佐をすることがある。烏帽子はせず、髪は全体的に短いが襟足から下は長く結ばれている。少しつり目であり、焦げ茶色の眼だ。


 暁彗ぎょうせいは弟子達がどこにいるのか、無事なのかとそわそわしている様子。そして壁にもたれ座っている2人を見て、すぐに駆け寄り脈を確認した。



「よかった…。怪我はひどいが命に別条はない。」


「ここは、どうやらすごい戦いがあったようですね~。見た感じ、暁彗ぎょうせい殿の門下生はボロボロ。霊力も少ない。そこらに倒れている屍はおそらく、人死魂(じんしこん)になった兵士。藍冀一族が絶滅ということは神力修2人、しかも暁彗ぎょうせい殿の門下生が祓えないほどの()が出たのだろう。つまり…?」


「鬼がでた。しかも強い。」


「せいか~いっ!」



 虎翼こよく暁彗ぎょうせいに閉じた扇子を差した。2人はその場の残骸を見て予測をする。



「そういえば、私が到着する前にここにもう一人いたと思うんだが?」


「人?ひと…人…。あぁ!それならどこかへ逃げてしまったよ。」


「…そうか。」



 しばらく2人は依頼について話し合う。すると、れんりきの瞼が少し動いた。それに気づいた暁彗ぎょうせいは2人の前へ行き片膝をつけ、れんりきの名前を問いかける。



れんりき!」




 やがて2人の目は徐々にゆっくりと開き「師匠…?」と声を出す。安心した暁彗ぎょうせいは思わず2人の頭を引き寄せて抱き締める。れんりきは自分達がどんな状況かやっと理解し目を見開き驚いた。後ろからその様子を見ていた虎翼こよくは口を扇子で隠し、弧を描いたような目になりニヤニヤしている。



「ふふ。大胆だね~、暁彗ぎょうせい殿~。」


「うるさいぞ、虎翼こよく。」



 弟子達を抱き締めながら虎翼こよくに言う暁彗ぎょうせいは、続けてれんりきの耳元で言った。



「もう無茶はしないでくれ。お前達が無事でよかった…。」



 2人の頭に置いている手がより一層強く握られる。れんりきはそんな暁彗ぎょうせいの腕の中に大人しく入っていた。



 眩しい日が庭を差し込んでくる。暁彗ぎょうせいは2人を抱き締めたあと、もう一回頭をそれぞれ撫でた。れんりきは少し赤面しながらも、暁彗ぎょうせい虎翼こよくに両手を腹の前にし、礼をした。



「本題に入ろう。れんりき。何がおこったんだ?」


「実は...。」



 れんりきは目を合わせ頷き合い、事の始めを一から話した。話の内容を聞いた暁彗ぎょうせい虎翼こよくは「やはり、」と呟く。



「そう言えば!藍冀の若君は?」



 りきがいきなり声をあげる。



「藍冀の若君とは?」


虎翼こよく様。藍冀の若君は藍冀家の方で鬼の存在を教えてもらい、手も貸してくださいました。」


「屍には?!」


「なっていないはずです。」


「鬼に殺された確率は?!」


「そ、それは…。」


虎翼こよく、質問責めはやめなさい。

その藍冀の若君はまだ生きているかもしれない。今回の依頼についても聞きたいことは山ほどある。一応、周りを探索してみよう。」



 れんりきは元気よく返事をし、屋敷を探索しに行った。



「いいの?暁彗ぎょうせい殿ー。藍冀家のやつらは闇商売していた経歴が出ている。その若君とやらも信頼できないかもしれない。」


「それでも弟子達に手を貸してくれた。ならば、私達も信頼してみないか?虎翼こよく。それに何者か気になるだろ?」


「ははっ!暁彗ぎょうせい殿が言うくらいとは、私も探索するとしよう!」



 そうして、神力者2人も探索しに行った。






 ◇◇◇


 屋敷の塀まで逃げた呑心てんしんは元の姿に戻った。目の前には太陽が顔をだし、辺りは照らされている。呑心てんしんは塀に寄りかかり、力が抜けたように座りこんだ。息が荒くなっている。復活して早々、霊力を使い、ましてや鬼神の姿になったのだ。



「ちょっとやりすぎたな。ぐっ…!」



「ドクンドクン」と心臓がうるさい。視界もぼやけ、自分の心臓の音だけが頭に響く。姿は人間から鬼神へ、鬼神から人間へと変化を繰り返している。呑心てんしんは心臓の部分を押さえながら苦しそうにしていた。体がちぎれそうなほどの激痛。頭が割れそうなほどの痛み。視界は真っ黒でどこを見ているのか分からない様子。



「この体はそう強くないっ…。徐々にならしていかない、とっ……。」



 意識が遠くなり呑心てんしんはとうとう「どさっ」と横に倒れてしまった。



(大丈夫。目が覚めれば、また動けばいい。今はゆっくり休も…う…。)



 瞳をゆっくり閉じ、深い眠りについた。









「見つけました!」




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