19 深い眠りへ
呑心にめがけて伸びた鎖は呑心の手や足をそれぞれ拘束した。
(遠距離操作!?いや、近くに別の神力者がいたのか?)
手や足を動かしてみるが、どうも動きそうにない。霊力を使えば使うほど、縛る力が強くなる。
考えているうちに身動きがとれない呑心の背後から足音がした。
「判断が早いね。すごいな~!あ、ちなみにその鎖は霊力を使えば使うほどきつくなるよー。」
微笑み、ゆっくり拍手しながら歩いてくる男。面布のかわりに扇子で口元を隠している。烏帽子に薄黄色の衣、㯥舞月神。少しタレ目で女装をしても違和感がないくらい中性的な顔立ちだ。歳は志学から而立の間、いわば二十歳くらいだろう。
(まさか、別方向から違う神力者が来るとは…。)
「ふふふ。そんなに警戒しないでください。私は東の㯥舞月神 神力者、白月虎翼。以後お見知りおきを。えーと、君は…。」
白月虎翼は呑心の面布に触れようと手を伸ばした。だが、面布には霊力が備わっており、別の神力者が触ると「ビリッ」と電気が流れるようになっている。案の定、虎翼の手に電気が少し流れ「痛いじゃないかぁ!もー!」と言い、指をふーふーしていた。そんな少し女性っぽい仕草に苦笑いをする呑心。
(このまま捕まっていたら連れてかれるだけ。よし、こうなったら強行突破だ!)
呑心は霊力をおもいっきり放ち、鎖を壊した。虎翼は少し驚いているが、興味津々というような目で見ている。そして、呑心は屋根をつたって屋敷の塀まで逃げていった。
「おもしろい人だね!んー、また会えるかな?」
虎翼は扇子を閉じ、感心しながら考える。
すると虎翼の前に「ヒュンッ」と空から剣が地面に刺さった。
「おぉ!この剣は!」
「すまない。弟子達を見なかったか?」
「やっぱり暁彗殿でしたか~!」
空から優雅に着地し、布口面を着けている虎翼と同じ歳くらいの男。
【白月 暁彗】
㯥舞月神の神力者であり、白月廉と白月力の師匠。それなりの実力があり、たまに宗主の補佐をすることがある。烏帽子はせず、髪は全体的に短いが襟足から下は長く結ばれている。少しつり目であり、焦げ茶色の眼だ。
暁彗は弟子達がどこにいるのか、無事なのかとそわそわしている様子。そして壁にもたれ座っている2人を見て、すぐに駆け寄り脈を確認した。
「よかった…。怪我はひどいが命に別条はない。」
「ここは、どうやらすごい戦いがあったようですね~。見た感じ、暁彗殿の門下生はボロボロ。霊力も少ない。そこらに倒れている屍はおそらく、人死魂になった兵士。藍冀一族が絶滅ということは神力修2人、しかも暁彗殿の門下生が祓えないほどの邪が出たのだろう。つまり…?」
「鬼がでた。しかも強い。」
「せいか~いっ!」
虎翼は暁彗に閉じた扇子を差した。2人はその場の残骸を見て予測をする。
「そういえば、私が到着する前にここにもう一人いたと思うんだが?」
「人?ひと…人…。あぁ!それならどこかへ逃げてしまったよ。」
「…そうか。」
しばらく2人は依頼について話し合う。すると、廉と力の瞼が少し動いた。それに気づいた暁彗は2人の前へ行き片膝をつけ、廉と力の名前を問いかける。
「廉!力!」
やがて2人の目は徐々にゆっくりと開き「師匠…?」と声を出す。安心した暁彗は思わず2人の頭を引き寄せて抱き締める。廉と力は自分達がどんな状況かやっと理解し目を見開き驚いた。後ろからその様子を見ていた虎翼は口を扇子で隠し、弧を描いたような目になりニヤニヤしている。
「ふふ。大胆だね~、暁彗殿~。」
「うるさいぞ、虎翼。」
弟子達を抱き締めながら虎翼に言う暁彗は、続けて廉と力の耳元で言った。
「もう無茶はしないでくれ。お前達が無事でよかった…。」
2人の頭に置いている手がより一層強く握られる。廉と力はそんな暁彗の腕の中に大人しく入っていた。
眩しい日が庭を差し込んでくる。暁彗は2人を抱き締めたあと、もう一回頭をそれぞれ撫でた。廉と力は少し赤面しながらも、暁彗と虎翼に両手を腹の前にし、礼をした。
「本題に入ろう。廉、力。何がおこったんだ?」
「実は...。」
廉と力は目を合わせ頷き合い、事の始めを一から話した。話の内容を聞いた暁彗と虎翼は「やはり、」と呟く。
「そう言えば!藍冀の若君は?」
力がいきなり声をあげる。
「藍冀の若君とは?」
「虎翼様。藍冀の若君は藍冀家の方で鬼の存在を教えてもらい、手も貸してくださいました。」
「屍には?!」
「なっていないはずです。」
「鬼に殺された確率は?!」
「そ、それは…。」
「虎翼、質問責めはやめなさい。
その藍冀の若君はまだ生きているかもしれない。今回の依頼についても聞きたいことは山ほどある。一応、周りを探索してみよう。」
廉と力は元気よく返事をし、屋敷を探索しに行った。
「いいの?暁彗殿ー。藍冀家のやつらは闇商売していた経歴が出ている。その若君とやらも信頼できないかもしれない。」
「それでも弟子達に手を貸してくれた。ならば、私達も信頼してみないか?虎翼。それに何者か気になるだろ?」
「ははっ!暁彗殿が言うくらいとは、私も探索するとしよう!」
そうして、神力者2人も探索しに行った。
◇◇◇
屋敷の塀まで逃げた呑心は元の姿に戻った。目の前には太陽が顔をだし、辺りは照らされている。呑心は塀に寄りかかり、力が抜けたように座りこんだ。息が荒くなっている。復活して早々、霊力を使い、ましてや鬼神の姿になったのだ。
「ちょっとやりすぎたな。ぐっ…!」
「ドクンドクン」と心臓がうるさい。視界もぼやけ、自分の心臓の音だけが頭に響く。姿は人間から鬼神へ、鬼神から人間へと変化を繰り返している。呑心は心臓の部分を押さえながら苦しそうにしていた。体がちぎれそうなほどの激痛。頭が割れそうなほどの痛み。視界は真っ黒でどこを見ているのか分からない様子。
「この体はそう強くないっ…。徐々にならしていかない、とっ……。」
意識が遠くなり呑心はとうとう「どさっ」と横に倒れてしまった。
(大丈夫。目が覚めれば、また動けばいい。今はゆっくり休も…う…。)
瞳をゆっくり閉じ、深い眠りについた。
「見つけました!」




