なんで魔王戦だけ急にシューティングゲームになるんだよ!
ロブル王国に突如現れた魔王バーグル。
バーグルはその恐るべき力と軍勢をもって、王国の大半を占領。さらには姫をさらうという暴挙に出た。
しかし、そんな中、一人の若者が立ち上がった。
凛々しい顔立ちのレギウスという若者であった。
優れた剣技と魔法を身につけていたレギウスは魔王軍をたちどころに押し返す。
国王はすかさず彼に“勇者”の称号を与え、全力で支援した。
国を代表する勇者となったレギウスは、魔王軍相手に快進撃を続ける。
大悪魔、黒竜、死神騎士といった魔王軍幹部たちをも打ち破り、ついに魔王城へと突入を果たす。
「喰らえッ! 邪破斬ッ!」
「グギャアアアッ!」
「聖なる炎よ、魔を打ち払え……ホーリーフレイム!」
「グオワアアアッ!」
磨き上げた剣と魔法で城に巣食う魔族たちを乗り越え――
「間違いない……この中に魔王がいる!」
魔王の部屋までたどり着いた。
バーグルは恐ろしい力を持つと聞いている。
だが、今までに倒してきた魔族たちと比べて飛び抜けて実力が上とも思わない。
これまでの戦いで成長した自分ならばきっと勝てる。いや、必ず勝てる。そして姫と平和を取り戻す。
今やレギウスは単なる武芸に優れた若者ではない。真の勇者だった。
決意を新たに、魔王がいる部屋の扉を開けた。
すると――
部屋の中央でバーグルが待ち構えていた。マントを羽織り、筋骨隆々とした魔族だった。
「待っていたぞ。勇者よ」
「バーグル……!」
部屋の奥にはロブル王国のリディア姫もいる。
ロングの金髪で、レギウスと同じ年頃の美しい娘である。
「あなたが……勇者レギウスなのですね!?」
「はい、必ずやあなたをお救いいたします!」
このやり取りを見て、バーグルは不敵に笑う。
「ふん、貴様にこのワシを倒せるかな?」
「倒すさ。この俺の剣技と魔法で!」
「剣技と魔法ねえ。そんなもの使えればいいがな」
「……?」
バーグルが両腕を広げる。
その途端、部屋中の景色ががらりと変化する。
これまでは石壁に囲まれた殺風景な部屋だったのに、いきなり四方に星々が見える宇宙のような空間に変わった。
地面もなくなり、レギウスもバーグルも宙に浮いたような状態となる。
「なんだこれは……魔王の魔法か!?」
戸惑うレギウスに、バーグルが宣言する。
「ここでルールを説明しよう!」
「は?」
いきなりルール説明が始まった。
「この空間はワシが魔力で生み出した空間でな。ここではワシらは自由自在に空を飛ぶことができる」
「はぁ……」
「そして、この空間内では貴様の武器も変わる。“バルカンソード”という、振ると弾丸を発射する剣にな」
「なにい!?」
レギウスが手元を見ると、本当に武器が変化していた。
「一方、ワシは貴様に向けてミサイルを発射する。つまり、ワシと貴様はミサイルと弾丸を撃ち合い、なおかつ避け合いつつ、どちらかの体力がなくなるまで戦うというわけだ」
これで説明終了とばかりにバーグルがマントを翻す。
「というわけでいくぞ、勇者!」
バーグルが体からミサイルをぶっ放してきた。
不意を突かれたレギウスは何発か受けてしまう。
「うわあっ!?」
すかさずレギウスも剣を振り光の弾丸を飛ばすが、魔王はひらりと回避する。
「どこを狙っている? 勇者」
「くそっ……!」
しばらく攻防が続く。レギウスの攻撃は一発も当たらないが、バーグルのミサイルは次々ヒットする。
「ぐはぁっ!」
「フハハハ、どうした勇者よ! この程度か! 拍子抜けだぞ!」
劣勢に立たされるレギウス。
すると、ここで――
「ちょっと待て!」
「む? なんだ?」
「こんなのおかしいだろ!」
「何がおかしいのだ?」
「今までずっと剣と魔法を駆使した戦いを繰り広げてきたのに、なんでいきなりこんな弾の撃ち合いみたいなバトルが始まるんだよ! しかもバルカンだのミサイルだのって、なんていうかこの世界にそぐわない気がするし!」
レギウスは痛烈な抗議を行った。
「よかろう、教えてやろう」
得意げな表情を浮かべるバーグル。
「ワシはずっと貴様の戦いぶりを見ていた。黒竜や死神騎士らを倒す腕前、本当に見事なものだった。ワシもどうにか勝ち筋を探ったのだが、“まともにやり合ったら勝てん”という結論に至ったのだ」
バーグルは目を細める。
「だが、ここでワシは発想を転換させた。まともにやって勝てぬのなら、“勝てるルールで戦えばいい”とな!」
「ま、まさかそれで……」
「その通り! ワシはこの魔法を開発したのだ! すなわち“相手が何者であろうと戦闘を宇宙空間での弾丸の撃ち合いに持っていける”という魔法をな!」
従来のルールで勝てないのなら、ルールそのものを変えてしまえばいい。
まさしく驚きの発想であった。
だが、レギウスからすれば驚いてばかりもいられない。彼は勝たねばならないのだから。
「だったら、俺は今まで通りの戦い方をするまでだ!」
普通に斬りかかろうとするレギウスだが、上手くいかない。
何らかの力で動きを制限されてしまう。
「無駄だ。この空間はワシの全魔力を注ぎ込んで生み出したのだ。この空間が展開された以上、貴様はワシのルールに従うしかないのだ!」
ミサイルが発射され、レギウスの体を爆炎で包み込む。
「ぐうっ!」
「当然ワシにも、このルールでワシを上回られたらなすすべがないというリスクはあるが……どうやらその心配はなさそうだ!」
バーグルはさらにミサイルをばら撒く。
飛行しながら射撃をするという初体験の戦場に、レギウスは対応できず、一方的な戦いになってしまう。
あと一発ミサイルを受けると危うい、というところまで追い詰められる。
「トドメだ! 勇者!」
「ここまでか……!」
レギウスが覚悟を決めた瞬間、何者かが彼の肩を掴んだ。
「諦めてはいけません! 勇者様!」
「姫!?」
リディアだった。
「上へ回避しましょう! 急いで!」
ミサイルをどうにかかわす二人。
「助かった……。しかし、このままじゃ……」
「勇者様、その剣をお貸し下さい」
「なぜ……?」
「ここからは私が戦います!」
レギウスは驚く。
「それは無茶だ!」
「どうやら魔王が作ったこの空間内では、私も自在に飛行できるようです。強制的に相手をルールに引きずり込む副作用として、私のような本来戦えない人間の力まで引き上げてしまうようですね」
バーグルの空間内では、バーグルのルールに従わねばならない代わり、非戦闘員も戦闘に参加できるようになるようだ。
だからといってリディアを戦わせるのは不安が残る。
「でも、君を戦わせるわけには……」
「大丈夫です。絶対に勝ちます!」
力強い言葉を受け、レギウスは剣を手渡す。
リディアは剣を受け取ると、こう言った。
「勇者様は私についてきて下さい」
「うん、分かった」
リディアは剣を構え、バーグルに向かって飛行する。
「ククク、血迷ったか! 姫が魔王であるワシに勝てるわけなかろう!」
「やってみなきゃ分からないですよ!」
「ならば勇者もろとも死ぬがよい!」
バーグルがミサイルを撃つ。
だが、リディアはこれをあっさり回避する。
「なに!?」
リディアが剣を振るい、弾丸を放つ。バーグルを直撃した。
「ぐはっ!」
バーグルに初めて一撃を喰らわせた。
「どんどん行きますよ!」
リディアの放つ弾丸が、面白いようにバーグルに当たる。
バーグルは顔を引きつらせる。
「なかなかやるな、姫……。ならば本気を出してやるか!」
バーグルが速度を上げ、空間内を飛び回る。
――が。
「ぐはっ! うげっ! ぎゃあっ!」
リディアは動き回るバーグルに弾丸を次々命中させる。
百発百中である。
「なぜだ、なぜ当たる!?」
狼狽するバーグルにリディアが答える。
「相手の動きを予想して、そこに弾丸を撃つなんていうのは基本中の基本ですよ」
レギウスはリディアにただついていくことしかできない。
「す、すごい……」
その後もリディアが猛攻を加え、ついにバーグルが怒りをあらわにする。
「もう許さんッ! とっておきを見せてやる……ワンハンドレッド・ミサイル!!!」
バーグルはマントを広げ、100発ものミサイルを放ってきた。
「ダメだ、あんなのかわせない!」
あまりの数のミサイルにレギウスは愕然とする。
しかし、リディアは落ち着いたものである。
「大丈夫です。一見回避不可能に見えますが、安地はすでに見抜きました」
「あんち?」
「“安全地帯”のことです。さあ、私について下さい!」
リディアは冷静にミサイルの軌道を読み、最小限の動きでミサイルをかわしきった。
レギウスもどうにかそれについていく。
「バカな……あの弾幕を避け切るなんて!」
「数を撃つのは結構ですが、撃ち方がなっていませんね!」
「おのれええ!」
最後の抵抗とばかりにバーグルはミサイルを撃ちまくるが、リディアにはかすりもしない。
一方のリディアの弾丸はバーグルに磁石で吸い寄せられるように命中する。
リディアはバーグルがどう動くかを完全に読み切っている。
「そろそろ仕留めましょうか……えいやぁっ!」
リディアが剣を振り、その弾丸は魔王の胸を貫いた。
「ぐはっ……! まさか、姫にやられる、とは……!」
バーグルは消滅した。
「やったぁ! やりましたね、勇者様!」
あまりにあっけない魔王バーグルの最期に、レギウスはただ呆然とするしかなかった。
***
リディアを取り戻したレギウスは勇者として歓待を受けた。
レギウスとしては「魔王を倒したのはリディア」ということは正直に話したのだが、魔王軍をほぼ片付けたのはレギウスであるという事実は動かないので、特に問題視はされなかった。
そして、凱旋式も済み落ち着いた頃、レギウスは宮廷魔術師と会話をしていた。
「しかし、今でも不思議なのです。リディア姫はなぜ、あそこまで射撃に長けていたのか……」
宮廷魔術師はその答えを知っているかのように微笑む。
「実は……王宮内には“ゲームコーナー”があるのはご存じですか?」
「ゲームコーナー?」
「はい、魔力で稼働するタイプのもので色々なゲームがあるのですが、姫様は特に敵を射撃で撃ち落とすタイプのものが得意でした。姫様の作ったハイスコアを誰も抜けず、“シュータープリンセス”とも呼ばれるほどでして」
レギウスは納得する。
「なるほど。それなら、どうりで魔王を寄せつけなかったわけだ……」
リディアとバーグルの戦いはまさしく玄人と素人の戦いだった。
そこにリディアがやってくる。
「勇者様ー!」
「リディア姫」
「あの……もしよかったら一緒にゲームでもやりませんか? 実はこの王宮にはゲームができる場所がありまして……」
赤面しつつのリディアからの誘いにレギウスはにっこり笑う。
「ええ、喜んで!」
その後、二人はゲームを楽しむ。
「くそっ、難しい! 何度やってもステージ3までが限界だ……!」
「じゃあ私がお手本を見せますね!」
「お願いするよ」
「まず、この地帯は連射で……。この障害物はすり抜けて……」
「すごい……! こんなテクがあるなんて……!」
宮廷魔術師は二人がゲームを楽しむ姿を見て独りごちる。
「つい先日凱旋式が終わったばかりですが、結婚式が行われる日も近そうですね」
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。