第四話 恋心
女性がドロップキックでひったくり犯を捕まえた後、周囲にいた人が警察を呼んですぐに来た。
ひったくり犯は手錠をつながれ連行された。
僕とひったくり犯を捕まえた女性は警察官に、
「事情聴取があるので、最寄りの警察署にパトカーで連れて行きます。」と言われた。
僕は警察官に、
「少し時間をください。まだ助けてくれた女性にお礼を伝えてないんです。」と言ったら少し時間をくれた。
僕は女性に、お礼を伝えた。
「他人の僕を助けてくれてありがとうございました。貴重品と今日ヒーローショーで撮ったヒーローとの写真をひったくり犯に奪われないで済みました。お礼を言うだけでは足りないので、奪われなかった財布の中に入っていた半分の10万円をもらってください。」
それに対して女性は、
「いいえ!もらえません。お気持ちだけで十分です。
それに正義は金のために動くものではないんです。
誰かを助けたいと思う気持ちが原動力なんで!」
と格好良くズバッと言った。
僕はこんなTheヒーローみたいな女性、世の中にいるんだなと関心した。
だが、何もお礼ができないのも女性に申し訳なかったので、女性に聞いた。
「では、何であればお礼を心良く受けてくれますか。」
女性は頭の上に電球が光った顔をしている。何か閃いたようだ。
「あなたは『今日ヒーローショーを観に行った。』と言ってましたよね。これヒーローショーのチケットなんですけど、1枚1000円で買ってくれますか。」
「お安い御用です。しかしお礼にしては安くないですか?」
「いいんです。このショーは私がヒーローショーのお姉さんとして出演するんですけど、ヒーローショー好きのあなたのような人にみて欲しいので、出演者割引の値段で売ってあげます。」
······ヒーローショーのチケット大人1000円は安すぎるだろう····普通もっとするのに。
だが、女性は僕が最低限の金を払うことによって、僕が女性にお礼をしたという既成事実が欲しかったのだろう。
······本当にこの女性は、優しい人だ。
もっと値段がはるチケット安く買わせるし。
「あなたのご厚意に甘えて1000円でチケット買います。絶対に観に行きます。」と言って1000円を渡した。
女性は「毎度あり。」と格好良く1000円をもらってチケットを渡した。
僕は女性に、
「最後にあなたの名前、教えてくれませんか。こんなに誰かに親切にされたこと一度もないので。あなたみたいな素敵な人の名前を記憶に刻みたいんです。」
女性は答えた。
「私の名前は・・・飯野 尋 (21)大学生3年生。
今はアルバイトでヒーローショーのお姉さんやっていますが、将来はアクション女優目指してます。」
イイノ ヒロ・・・良いヒーロー。
氏名がまさに『名は体を表す』だなと僕は思った。
飯野さんは「あなたの名前も教えてください。」と言った。
僕も名乗った。
「木毛尾 拓(35)職業サラリーマンです。」
それを聞いた飯野さんが、「いい名前ですね。」と笑った。
今まで空気を読んでくれた警察官が咳払いをして、
「あのそろそろパトカーに乗ってもらっていいですか。」
僕と飯野さんは、「次はヒーローショーで会いましょう。さようなら〜」と手を振り、別々のパトカーに乗って最寄りの警察署に向かった。
警察署に到着し、事情聴取を受け、問題なく終わって家に帰った。
色々して時間が経ち、寝る前になっていた。
今日の飯野さんの姿を思い出していた。
ひったくり犯に喰らわせていたドロップキックの迫力。
お礼は最低限しかもらわない謙虚さ。
将来の夢のために日々努力している姿勢。
たまに年相応に戻る可愛さ。
そんな飯野さんのことを考えていたら、頭が飯野さんでいっぱいになった。
僕にとって飯野さんは恩人だけど、色々考えていたらなんだか飯野さんのことが好きなのかもしれない、と思った。
そしてなんとなく飯野さんからもらったヒーローショーのチケットが見たくなり、カバンから取りだした。
開催日が来週の日曜日だと確認した後、大事に財布に入れた。
「あー楽しみだな」と呟いて寝落ちした。
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