12話(前線基地にて)
時間は少し遡る。場所はタイ北西部、coc支部拠点、78番要塞。ここ78番要塞はcoc加盟地域とwpc加盟地域との境界線付近に建設された拠点であり、防衛線としての役割を担っている。近年ではwpcからの偵察部隊がしばしば近隣地域に現れることが報告されており、拠点内部ではピリピリした空気が漂っていた。
現在ここでは新型戦機のパイロット候補生が3人が実践模擬訓練のため来訪していた。そもそもアジア地域で戦機の模擬訓練が行える場所がこの78番要塞基地に加え、インド、ムンバイ近郊にある53番要塞。サウジアラビア、ドバイ内部にある22番要塞の3つの基地でしか行うことができないのである。
話を戻そう。今ここに来ている3人のパイロット・・・まず一人目がサウジアラビア出身、アンドリュー・イスメイル伍長。20歳。彼の家系は代々軍事一家であり、両親はどちらも尉官であり、エリート街道を進んできた。彼のその影響を受けており、出世のことしか考えておらず、出世のためならどんな命令でも行おうとする野心的な行動が目立つが、戦機の操縦はエース並みである。
二人目はタイ出身、プラユット・ベン軍曹。34歳。彼はそもそもタイの運送会社で働いていたが、25歳の時に働いていた会社が倒産。そして26歳の時に妻と離婚。その腹いせなのか、翌年にcocの戦機兵として採用。元々作業用汎用機を扱っていたため、戦機の操縦の習得は目を見張るのであった。性格としては穏やかであり、仲間想いなところがあるが、協調生はあるとは言えない。
そして三人目、マリー・ローゼス准尉。23歳。出身不明。完全に上層部の手ほどきで過去のデータが閉ざされた異端児。いつも戦っている時には強い憎しみを抱いているようで、何を考えているのかわからない怖さがある。戦闘センスは抜群で、この年で准尉というのは、ほとんど戦闘での功績を讃えられてのものである。この名前から、一説ではローゼス家の生き残りなのではという噂が流れているが、定かではない。
「・・・というのが、今回揃った3人の簡単な経歴です」
「ふむ。今回もまた厄介なのが来たな。ふぅ、本当に上の立場というのは疲れるな」
「ええ。特にこのマリー・ローゼス准尉、こんなに過去のデータがないのは初めてですな。上層部も何を根拠に入隊させたのやら・・・」
「ふん!まぁ、前回のように問題を起こさないように司令長どもにしつこく言っておけよ。また俺がぐちぐち言われないといけないのだからな」
「はっ!了解しております。少佐」
ーーー
(78番要塞戦機演習エリア)
「くそっ!3人がかりでもこんなにかっ!?」
「落ち着くんだ。しっかり動きを読んで反撃を、、、危なっ!」
「私が前に出る。攻撃をいなすからその隙に攻撃を」
現在、この演習エリアでは派遣パイロット3名が戦闘総司令ベスター中尉を相手に模擬近接線を行っていた。
「そんなまとまりでは、私には勝てんよ!」
「言われなくてもっ!!」
その時、アンドリューが司令長の機体のところに飛び込んだ。
「感情に流されているうちはまだまだだな」
その瞬間、アンドリュー機の頭部アンテナが折られた。
「まずは1機だな。さぁ、どうする?」
「プラユット軍曹、私が防御に回るから、あなたは攻撃を」
「了解した。だがしかし、二人で囲んだ方が・・・」
「迷わないで!ここでは私が指揮を出す立場。あなたは従う立場でしょ」
「グッ・・・」
立場はマリーの方が上ではあるが、年齢が10も下の女性に命令されるのはいくら穏やかなプラユットでも苛立ちが募っていた。
「隙を見せすぎだ」
「しまった!!」
「くっ!いつの間に」
・・・
「お前らには、もう少し協調性という言葉はないのか?あまりにも酷すぎる。今までは少数対少数での戦闘が多かったが、これからは集団戦が多くなっていく。つまり、協調性が大事で、、、」
中尉の講評・・・いや、説教とも呼べるものは2時間も続いた。
「今日はこれぐらいにしといてやる。次はもう少しマシなのを頼むぞ」
「「「・・・はい」」」
ーーーpm 23:30 司令室ーーー
「今年は特に暴走事故などはありませんな」
「ああ。だが、ベスター中尉からはあまりにも協調性がないと報告が上がっている。また違うベクトルでの問題がありそうだ」
「ここは個別ごとに指導者をつけてはどうでしょう?」
「いや、それでは問題の何の解決にもなっていない。ここは中尉に頑張ってもらうしかなかろう・・・まぁいい、それより例の新型機は?」
「新型は3番格納庫で現在調整中です。何せ、あのマリー・ローゼス専用の戦機ですからな、、、問題はここからかもしませんぞ」
「また裏切り者が出たならば消すまでだ。今度は躊躇はせん・・・」
翌日、演習エリアにて新型戦機の初公開となる。
お久しぶりです。また時間にゆとりが出てきましたので、続けて参ります!




