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シノウ  作者:
1/1

死にたい?

 「そんなに死にたいなら、死ねばいいじゃないか。つまり君は、度胸がないんだろう?」

ある時に言われた一言がずっと胸の深くに突き刺さったまま離れない。彼の言う通り、僕の「死にたい」は卑怯なものだった。

 「死にたい」はヘルプコールだ。助けてやるべきだ。とよく言うが、僕のそれは全く違う意味だった。本当は死にたくないし、別に「死にたい」と一瞬でも思うようなことなんて無かった。殆ど口癖のようなものだった。ふとした瞬間に口を衝いて出てしまうのだ。この口癖のせいで友達は離れていった。陰気臭くて敵わない、と。高校の3年間友達は出来なかった。しかし唯一僕にも友達がいた。その唯一の友達は僕みたいなやつで、僕のように口にこそ出さないが今にも死にそうな顔をして手首を切っていた。連絡こそとっているが、もう何年も会っていない。

 ある日、珍しく彼の方から連絡が来た。

「ちょっと僕の家まで来てくれないか。」とのことだった。

彼の家に入ると、以前とは比べ物にならないくらい片付けられていた。というより物自体が少なかった。ミニマリストだね、なんて言葉は彼の耳には入らなかったようだ。「どうしても君にしか頼めないことがあってね、」単刀直入に切り出してきた。「僕と一緒に死んでくれないか。」あまりにも突然の申し出とその内容に、僕は凍りついてしまった。「いや今すぐじゃなくていいんだけどね。こんなことを頼めるのは君だけなんだ、どうか聞いてはくれないか。君はずっと死にたい死にたいと言っていただろう?だから受けてくれるかなと思って。」内心断りたかった。けど、放っておいてもそのうち死んでしまうこいつに嫌われるのが、その時は嫌だった。「いいけど、今は無理だよ。したいことだってあるんだ。」お茶を濁すだけ濁して、そのあとは逃げるように帰った。

 帰ってからも、あいつの言葉が頭の中で繰り返される。あいつの、自分の屍を想像して、ぞっとしてしまう。突如として現れた死に対して、僕は後退りしただけだった。

 彼からメールが届いた。「いつ頃に死にたい」とだけ書かれたメールに、「とりあえず明日会わないか」とだけ書いて返信する。分かってる、これもただの引き伸ばしにすぎない。結局僕は死にたくないんだ、と自覚してしまう。

 「僕はいつでも良いんだけどねえ。ところで、君がしたいことって何さ。」今日は昨日とずいぶん雰囲気が違う。喋り方だって少し変だ。こんな喋り方をする奴だったろうか。「大学受験さ。」昨日の夜に必死で考えた言い訳。死にたくないがために作った醜い嘘だ。「ふぅーん。で、いつなんだい、それは。」「1年後だよ。きっかり1年後。」「そんなに僕を待たせる気かい?」「許せよ。」「待てないね。1年のうちに君をおいて僕が先に死んじゃうかもね。」僕は、そうなってくれれば良いのにと思いながら話を続ける。「そうなったら墓を立ててあげるよ、君の屍体でね。」「その必要は無いよ?君も道連れにするから。」彼の眼に冗談の二文字が写っているようには見えない。「ま、とりあえず一年後ってことで良いんだね?」僕は頷くしかなかった。

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