ママン宿
楽しんで下さい。
国境を越え、歩くほど一時間が経過した頃、ようやく街の壁が見えて来た。
国境から近い街とあり、商人や旅人と思われる人々が街の外に並んでいた。
ストーキング中の二人組は、騎士が用していた様子の旅人を装う服装に着替えていた。
ハールはストーキング自体はもうしなくてもいいと考えていたが、『闇の魔女』に顔を見られている為、念のため彼女らが入った後に並んだ。
並んで辺りを見ていると、正面の商人が恐らく妻と思われる人と話をしていたり、後から並んだ後ろにいる冒険者は魔物と思われる死体を荷台に乗せて、仲間と賑やかに騒いでいた。
(戦争中だと思うが、モール王国は割と大らかな人が多いと聞いていたが本当そうだな)
ちなみに、アッシュ王国の人々は勤勉な者が多いと言われている。ただ、全体的に見たら、の話であるが。
後ろの冒険者達は一人であった為、ハールの事を旅人と思ったのであろうか、興味が籠った目で少し話をしないかと言われ、現在仲間を紹介されていた。
「俺がバク、このパーティーのリーダーだ。そして、黄色かかった茶髪の女がミーナ、剣を持っているのはモルナ、でかい男がゴドンだ」
バクという男が弓を持っており、リーダーが指揮をしながら戦っているのだろうなあ。とハールは昔の傭兵時代の癖が再発し始めた事に内心少し苦笑いした。
「俺はハールという。今は戦争中らしいが、『モープの農場』が見たくてな。モール王国に来た」
「お!モープの農場か。他国からもよく旅人が来るからなあ。確かにあそこは中々面白いぞ」
「噂でしか聞いた事がなくてな、それは楽しみだな」
バクと話しているとモルナと言われた剣士が、
「モープの農場くらいこの街もいい場所だから、楽しんでいってね」
と、自慢げに言った。すると、周りの仲間達も同感なのかこの街、『ママン』の情報を門の近くに来るまで教えてくれた。
「じゃあ、冒険者ギルドであったら色々また話してやるからな!」
「またねハール」
「また魔法について話せたら」
「また会おう」
「またな」
特に問題なく門を通った後、四人と宿を探す為に別れた。
ハールは初めてとは思えない足取りで、目的の宿へと向かった。先程の四人組から旅人にお勧めだと言われた『ママン宿』に泊まる予定だ。
なんでも、旅人や冒険者が多い街には、国と街が協力して、公営の宿が一定数あるらしい。アッシュ王国は賃貸の場所に住んでいたため知らなかった。公営の宿は部屋数が多く、基本的に空いてるため確実に確保できるため、余程のその街を知っている者以外はそういう宿に泊まるらしい。
しかも、料金が少し高めだがその街または近くの村の伝統料理や工芸品、民族衣装などあるそうだ。
この街の公営宿は伝統料理しかないらしいが、かなり強くお勧めされたので期待している。
「おお、これがママン宿か」
事前案内通りに進むと、周りよりも高めな建物があり、旅人と思われる人が頻繁に出入りしていた。
中に入ると、レンガを基調としたレトロチックな内装で、部屋は2階からなのか、一階には受付のカウンターにレストランがあった。少し隙間を見ると、体育館の半分程度の広さがあり、席の半分は既に埋まっていた。
「いらっしゃいませ。宿泊希望ですが?レストランしよう希望なら直接行き注文するだけで食べられます」
「宿泊をお願いします」
「わかりました。宿泊期間はいかがしますか?」
冒険者ギルドの登録、ついでに依頼をいくつか、またこの街の観光をするから……、と考えて、ハールは「7日で」といった。
「部屋の鍵はコチラになります。紛失した場合は、千エルとなりますのでご注意下さい」
「わかりました」
この世界ではどこの場所でもお金の単位を『エル』と呼ぶ。ただ、銅貨や銀貨などの実物のお金は国ごとに異なるらしい。
宿は基本的に旅人が多く、またこの街が国境に近いからだろうか、両替せずに払う事ができた。ちなみに平均的な宿の価格はモール王国では一泊千エル、『ママン宿』では一泊千五百エルだった。
部屋は地球と比べると品質は劣るが、レンガと木のコントラストがあり、雰囲気が異国情緒を引き立てていた。
荷物は常に身に纏っているので、部屋を確認してすぐに冒険者ギルドへ向かった。
外国旅行へ行きたいなぁ……