暗部の奴らが蟻のようだ……
そこまで進みません。
〈魔女視点〉
「……マラン、助けてくれてありがとう」
「いいえ、姫様が捕まるような事になってしまいすみませんでした」
「大丈夫よ、貴女が呪いも解いてくれたお陰で気分が良くなったからね」
モール王国の私の専属騎士であるマランにより助けられてから、半日近く経っていた。
モール王国にて協力者が待っているそうで、現在向かっているがこの国の追手が待ち伏せしている可能性があるため、迂回して進んでいる。
精神魔法により、意識が悪い事ばかり考えるようになっていたが、マランの光魔法により回復した。
「それにしても、英雄であり王族である貴女を易々と敵国に引き渡すとは、国王陛下は何を考えていらっしゃるのでしょうか?」
マランは怒りを隠せない様子で言った。
「……わからないわ、何となく不審な様子は少し感じていたけれど、まさかこんなことをするなんて……」
どこか自分を責める様子の私にマランは、
「いいえ!姫様は悪くありません!国を守る為に身を削っていたことを仇で返した王国が悪いのです!」
「ありがとうマラン」
「いいえ、姫様を守るのが私の使命ですので」
「このままお祖父様の所へ行くのね?」
「はい、ヨームン様ならば裏切りの心配もないでしょう。それに王国とて簡単に手を出せないはずですから」
サザーク・ヨームン公爵はモール王国の王族に王妃を数多く輩出する、国内外でも有数の大貴族である。他国からもその力を恐れられている存在だが、私の祖父であり、昔から可愛がって頂いたのだ。
「それにお祖父様なら何か情報を手に入れている筈です」
「ですが、その前にこの国の暗部に見つからない様にしなければなりません」
「えぇ、いくら強い貴女でも暗殺者は正面から来ませんからね」
「それでは急いで先に進みましょう」
その頃、ハールはアッシュ王国とモール王国の暗部を捕まえていた。
「貴様はアッシュ王国の兵であろう!?何故敵国の英雄を守るのだ?!」
現在、ハールは隠れて逃走中の魔女と騎士の二人組を狙っていたアッシュ王国の暗部の一人を捕まえていた。
「ん?別にいいだろ?それに俺はこの国に忠誠心も元から持っていないからな」
「そうか。だが、私を捕まえたからと言って、仲間は他にもーーー」
「捕まえておいたぞ、ほらそこに沢山」
「は?」
ハールが近くを指差すと、突然暗部の山ができていた。
「ちなみに君で最後だよ?」
「な!?いつの間に!」
「まぁ、二人にばっかり注目してたからね。背後には気を付けなよ?」
「………」
普通の兵士ならそもそも暗部の者など見つける事は出来ない。それに、暗部の最上位である『六影浪』が居ないとはいえ、相手は英雄だから暗部の中でもトップクラスの力を持つ者のみ今回の作戦に参加していた。
「それよりもこれ食えよ」
「だ、誰が口にむぐ?!」
暗部の男が喋った瞬間に、密かに手に入れていた超激辛タッバスを男の口に入れた。
「〜〜〜〜?!?!」
「そんな美味しかったか〜」
「〜〜?!?!………」
以前、偶然他国の商人から売れないから買ってくれと頼まれた物だった。あまりの勢いに買ったが使い道に困っていた物だったが、相手もまさか在庫処理の処分係にされるとは思ってなかっただろう。
「いや〜、これでタッバスも使い切ったなあ。よかったよかった」
「……なんて酷い事を」
匂いからタッバスの『ヤバさ』を感じていたスカサハは、少し暗部の者達に同情した。
「まあいいさ。それにしても、アッシュ王国はわかるが何でモール王国の暗部までいたんだ?」
そうハールが相手していたのはアッシュ王国だけではなく、モール王国の暗部も相手にしていた。暗部の者達は何処の者か分からないようにするが、ちょっと特殊な方法でハールは見分けていた。
(あの魔女、英雄な筈なのに守ってる国から裏切られるなんて一体何があったんだ?)
「ハール、この人達はどうするの?」
猫のスカサハが泡を吹いている暗部の男の頬を突きながら聞いた。
「放置する方向で、蟻みたいに沢山いるからなあ。片付けていたら面倒くさい」
(それにしても、あの騎士さっきから声がデカいな。隠れながら進む気がないんだろうか?)
何やらアニメや漫画なら重要なシーンになる所ではあるが、現実でそんな馬鹿な事をしている騎士を呆れながらハールは見ていた。
その側では未だに男が泡を吹いていた。
「………一人、厄介なのがいる」
一人、その姿を見ている者がいたが、風が強く吹くといつの間にか消えていた。
暫くは戦闘はありません。初戦闘はもう少しお待ちください。