2022.7.23 海賊との死闘
この文書は夢の記録です。実際に見たことではありますが、実際に起こったことではありません。実在する人物、団体、出来事等とは一切関係がありません。
俺は潮風に髪を遊ばせている。朝霧の中、俺たちを乗せたホバーカーゴは海岸線沿いの砂浜を北上していた。このまま交代で運転を続ければ今日中には目的地の町へ着けるはずだ。俺たちはキャラバン。何年もこの道を行き来し、南北の都市間で行商貿易を続けている。
いつもは平穏なこの道だが、先ほどから妙に不穏な空気だ。後方、朝霧の向こうにちらりちらりと巨大な影が揺らぐ。いまいち視界ははっきりしないのだが、クランの同僚が言うにはどうも陸上戦艦らしい。
辺りはまだ薄暗く、この霧だ。こちらの存在に気付いていないのだろうか。このままでは追突事故を起こされかねない。俺は警告のため、相手の船首に向けてライトを明滅させる。それに対する返答は砲撃だった。ワーオ、海賊だ!
威嚇のつもりだったとは思えないが、霧でターゲッティング機能が阻害されているのか、単に砲手がド下手糞なのか、あるいは積荷を破壊したくないのか、ともあれ敵の最初の一撃はカーゴ前方の砂に着弾した。
「被害報告。俺たちはちょっと傾いた」
「反撃許可を申請。俺が許可。反撃を開始する」
俺は警告用のライトをむにゃむにゃして、それを弩砲に変形させる。
装填、砲撃。4のダメージを与えた。
うむ。でかいので狙い易い。当然霧のせいで相手の姿はぼんやりとしか見えないのだが、ダメージ値はデジタルではっきり表示されてくれるので助かる。
装填、砲撃。ダメージ4。あれってHPどれくらい?200くらい?
そういやなんだこれ、ゲームか。道理でさっきから俺が妙に勇ましいわけだな。
まあいいや。装填、砲撃。ダメージ表示なし。外したか?ちょっと上の方を狙いすぎた。甲板上にいる敵に直接当たれば一発KOを狙えると欲をかいたのかもしれない。
俺たちのカーゴは小柄だが、それだけ身軽だ。燃料をケチらず速度を上げさえすれば、大柄な戦艦では追いつけない。連中は下手糞な砲撃を中断し、こちらから距離を置いて朝霧の中へと溶け込んだ。しかし追うのを止めたわけではないようだ。目視では見えなくなったが、奴らが今だに俺たちを追っていることはセンサーが報せている。
構わん。こちらは砲撃を続けるまでだ。ボルト弾の在庫は多分無限にある。そういうものなのだ。しょぼい弩砲のカスダメージの蓄積で、そのご立派な図体を砂に沈めてやる。阿呆が。
しかし、興が乗ってきたところで俺は唐突に車外に放り出された。どうも運転手がカーゴを捨てて逃亡したらしい。このまま行けば逃げ切れるのになんて愚かなことを。俺がすぐさま代わりに運転席に乗り込むと、運転手と共に逃げた数名の者以外は次々と再び乗り込んできた。運転手が乗り物を降りると同乗者も全員強制的にその場に降ろされる仕様なのだ。
俺は改めてカーゴを北上させる。海岸線は東に向けて反っているため、ややカーブせざるを得ないが、この辺りの地形は砂時計状にくびれて北の大陸と繋がっている。すぐにまた北方向へ進路を修正できるはずだ。
しかしカーブは徐々に角度を増していき、進行方向は真東に、ついには南東へと向かい始めた。これはおかしい。このままでは南の大陸に逆戻りしてしまうし、後方からやってくる海賊に回りこまれる。
「地形が変えられてやがる」
やられた。これは海賊の仕掛けた罠だ。貿易ルートのこのくびれた地点に目を付け、ここを塞いでキャラバンの追い込み漁をしているのだろう。
南東方向の砂浜は途切れ、森へと繋がっている。カーゴでは森に入れないので乗り捨てるしかないが、そもそも砂浜にいるうちに奴らの戦艦と遭遇するだろう。先ほど逃げた運転手は海賊の情報を予めどこかで聞いていたに違いない。あの場所ではまだ少し走れば森の中へと逃げ込めた。情報の共有がなされていなかったことは腹立たしいが、商人の立場を考えれば無理からぬことかとも思える。俺たちは護衛の傭兵。いざと言う時には捨石にすべき者たちなのだ。
予想通りにおでましだ。数人規模の猟兵小隊が俺たちに銃口を向けている。カーゴを捕獲するために予めこの辺りで待機していたのか、追っ手の中の軽機動の部隊だけが先に追いついてきたのかは分からない。
対車両装備の相手と輸送用カーゴで戦うほど素人ではない。俺と傭兵仲間たち、それからさっき逃げ損ねた要領の悪い丸腰の商人も、全員同時に車外へ飛び出す。あ、運転手の俺が飛び出したからそうなったのか。そういう仕様なのだ。
油断している猟兵たちはその機動性も活かさずに密集陣形を取っている。俺たちは即座に散開してそれを取り囲む。歩兵による反撃は予想していなかったか?窮鼠猫を噛むだ。
アサルトライフルによる射撃。見事に連続ヒット!
ダメージは0、0、1、0、1、0…。
うーん…なるほど。油断するのもむべなるかな。相手は随分格上らしい。アーマーの性能差だけでまったく手も足も出ない。一応相手の防御力が極端に高くても全てがノーダメージとはならずに低確率で1は出るドラクエ仕様のようだが、メタルスライムじゃねえんだぞ。焼け石に水とはこのことである。
俺はアサルトライフルを投げ捨て、代わりにリッパーガンを取り出し再び射撃する。リッパーガンは射撃の際に立ち止まる必要のある取り回しの面倒な武器だが、その分貫通力が高い強力な弾丸を放てるし、連射力も決して低くない。6、6、8、7、7…。うおお、微妙に効いてる。
ダメージを受けるとは予想していなかったらしく、敵たちは明らかに動揺し、陣形を崩した。応戦よりも逃走が常のキャラバンが、移動しながら撃てないような銃を携帯するとは思っていなかったのだろう。俺もこんな銃持ってるって今知った。こんなんあるなら最初からカーゴの銃架に乗せりゃよかったのになんでカスみたいな弩砲を撃ってたんだろうな?
俺は仲間達の援護射撃を受けつつ敵の側面に回りこむ。霧のお陰で連中は誰がリッパーガンを持っているか把握できていないらしい。チャンスは戦艦がまだ追いついて来ない今しかない。再び連射。煌く赤い弾丸の雨。7、7、8、6…。あっ、一人倒れた!やったか!?やってない?ただ回避目的で伏せただけかな?分からないけどやったということにしておこう。格上を倒したのだ。最高に気分がいいな。やることやったしもう死んでもいいや。
敵本隊の重装備部隊が霧の中から現れる。試すまでもなく、奴らにはリッパーガンすらメタルスライム状態だ。カーゴは鹵獲され、商人たちはみんな死んだ。もはや踏みとどまって義理を果たす理由も無い。俺たち傭兵も応戦をやめ、全員散り散りに逃げ出した。
俺もリッパーガンを放り投げ、シフトキーを押してダッシュする。2秒ほどでスタミナが切れる。1秒歩いてスタミナ回復。1秒ダッシュ。スタミナが切れる。1秒歩く。クソッ!リッパーガンはどうも射撃の際にスタミナも消費するらしい。今知ったわ…。
俺は弾丸の雨を掻い潜りつつ、海賊達の設置したらしいバンカーを見つける。うおお、飛び込め!無数の弾丸のうちのほんの少しが俺にヒットする。24、30…。もう一、二発で致命傷だ。俺はバンカーに隠れつつ回復パックを使用する。一度きりの使い捨てだが、数秒間敵の攻撃を受けなければHPを全快できる。
俺は徐々に回復していき…そして――、
死んだ!!
はぁ?今なんで死んだの?この手のゲームってたまにマジで唐突に死ぬよな。たまたま三発くらい同時に敵弾が当たったのか、バンカーに逃げ込むことを想定して地雷でも設置してあったのか、ラグで描画が間に合わなかった不可視の爆風に巻き込まれたのか、理由は色々考えられる。
ともあれ、敵の罠のド真ん中で死んでしまった。死体の回収は絶望的だろう。装備を一から作り直さなきゃならない。うーん、かなりひどい状況ではあるが、なんだか妙にワクワクするな。いずれ奴らに復讐してやる。必ず強くならねば。
そして目が覚めた。急いで強くならねば!あれ?夢か。
あの超楽しいネトゲは実在しないのか。絶望的だ。