2022.8.6 神魔血戦・第二部
この文書は夢の記録です。実際に見たことではありますが、実際に起こったことではありません。実在する人物、団体、出来事等とは一切関係がありません。
ダムの放水が始まった。コンクリートの滝から舞い上がった大量の飛沫が虹を作る。ダム湖の向こうに目をやると、深緑の中から突き出るようにアーチ状の構造物が連続して出現した。さながら鳥居の階段。そして頂には祭壇。神と魔が激突する戦いの第二幕。飛沫が形を成し、湖の上に橋を作る。俺をいざなっているのか…。
見なかったことにして踵を返す。俺はいつの間にか床も天井もすべて純白のプラスチックで出来た近未来的な建物の内部に居た。ここは国際空港。多分アメリカ。シンガポールかもしれない。それにしても天井高すぎない?吹き抜けでもないのに五階建てのビルくらいある。掃除とかどうやってするんだろうな。デザイナーは使う人のことも考えろよ。ああ、お掃除ロボがいるのか。そういえば近未来だった。そんなことを考えながら歩く歩道に運ばれて、頭上のシャンデリアをぼーっと見つめる。神と魔が激突する戦いの第二幕。どんなに逃げても俺は巻き込まれるらしい。ベルトコンベアで運ばれる俺はさながら屠殺されることになんとなく気付いている哀れな豚。ちなみに第一幕もあったはずなのだが、まったく覚えていない。
意外にも俺は神の陣営だ。預言者の爺さんは『導く者』のあざなを告げる。K家の末の者がその役割を果たすであろう。ここらではよくある苗字だ。探すの面倒だなと思っているとお母さんが見つけてくれた。いつもありがとう。母親同伴でK家の門をくぐる俺は選ばれし救世の陰陽師。あっ、やっぱりK家の末ってYくんのことか。家が近所で小学校中学校と同級生だった。自我がろくに確立されていない幼少時には一緒に遊んだこともあるが、中学の頃には既にお互い全然交わらないグループに居た。幼馴染のようで馴染まなかった存在。それがYくんだった。普通に気まずいな。気付かなかったふりをしよう。
互いの一族が面通しする中、やはりYくんも俺の存在に気付いたらしかった。ちっ、この難局をどうやって切り抜けるか…。
しかし、お互い気まずいに違いないという俺の心配を他所に、Yくんは俺との再会を心底喜んでいる様子だ。確かにたとえ演技でも俺もそうしておくのが最良だったとは今更思うが、どうもYくんは演技ではなく本気のようだ。そのうち俺の両手を取って、涙まで流し始めた。ええ…そんなにぃ…?ちょっとやばい奴なのでは。俺も感極まって涙ぐんでいるふりをする。する必要があるのか?ドン引きしても許される状況じゃないのか?どっちなんだこれは?
今後についてむにゃむにゃと難しいことをなんだか話し合った後、我々とK家の人々は戦場となる神の森へと向かい、夜の街を行進する。三洋堂(実際は十年位前に薬局に代わっている)の駐車場のとこで信号待ちをしていると、大声を出しながらはしゃぐ若者の一団と横断歩道越しに向かい合った。
「なんたることだ。けしからん。もう夜半過ぎだというのに」
長老が憤慨した。そうだ。眠っているご近所さんの迷惑も考えろ。以前池袋の駅すぐそばの繁華街に宿泊したのだが、金をケチって防音壁の無い安宿を選んでしまったせいで一晩中眠れなかったことがある。都会では夜中じゅうずっと普通に外に人が居るという驚きの事実を田舎育ちの俺はその時初めて知ったのだった。道向こうに居るのはあの時騒いでいた奴らに違いない。悪め…滅せよ!!
「でも今日はお祭りですよぅ。一晩中騒ぐのはしょうがないじゃないですか」
憤怒の落雷をお見舞いすべく印を切っていると、側に居た見知らぬ巫女がそう言った。そうか祭か。祭ならしょうがないな。
そう…今宵は魔に決戦を挑む前夜祭。村中が俺たちの出陣を祝福している。俺たちは神の山に分け入る。聖域で禊を行なうため、陰鬱に黒ずんだ四角いコンクリートのシャワー室に入る。内部は裸電球が不規則に明滅し、狭く薄汚れた室内を気まぐれに照らす。部屋は四角形ですらなく、なんとも言い難い歪な形、強いて言うなれば梅干し型をしている。壁際に設置されたロッカーたちもある者は北西に、またある者は南南東にといい加減な方角を向いてやる気なさげに並んでおり、灯りの点滅と共に毎回位置が変わるような印象すら受ける。
俺は奥の方の比較的汚れていないロッカーを選び、着替えを始める。俺のパンツは黄色い。真っ黄色だ。別に汚れているわけではなく元からそういう色なのだが、まったく俺の趣味ではない。ふと見渡すと、みんなそれぞれ別々の色のパンツを履いている。熟練の機械工でありしばしば仕事で助けてくれたAさんはもう七十過ぎだが陽気な性格で、真っ赤なパンツをこれ見よがしに自慢している。ははは、良い色っすね。
その時、ロッカー室の一角で怒鳴り声が聞こえた。見ると結構すぐ近くだった。性格が悪そうな見知らぬ男と、外国人風の色黒の男が、警官から注意を受けている。
「おぬし、そのパンツの色は…まさしく不遜であろう!」
烏帽子を被った警官がお祓い棒を振りかざし、中学生くらいの子供が精一杯考えたような古風な雰囲気の口調で、外国人風の男をそう咎めた。この色とりどりのパンツの色は、自らの持つ神力の種類に応じているらしい。俺は雷属性だから黄色なんだね。それについて説明を受けたわけではないが、どうやら俺は元からそれを知っていたようだ。そして外国人風の男は誤った色のパンツを履いていて、それは大罪となる。死罪。
外国人風の男が性格悪そうな男を睨み付ける。
「ハメやがったな」
「けっ、ライバルは一人でも少ないほうがいいのさ。この戦いで生き残れるのはたった一人なんだからな」
えっ、これってそんなやばい戦いだったの?今知ったわ…。
性格悪そうな男が警官の前で罪を自白したにも関わらず、外国人風の男がしょっ引かれていった。違うパンツを履くこと自体が罪なのだ。ここでは下界のルールは適用されない。これから行われることは神事であるからだ。
そしてその後俺たちは…色々あって神と魔が激突する戦いの第二部を制したのだった!まったく覚えていないが確かに戦った。
第三部へ突入だ!
故郷へ凱旋するためご機嫌なオープンカーに乗りこむのは最強の陰陽師四人組。美形陰陽師兄妹と、儚げな銀髪の少年、そしてリーダーの俺。故郷へと帰る途中、国道沿いの潰れたハローマックの雑草だらけの駐車場に停車し、陰陽師兄妹と銀髪少年それぞれの親御さんのお迎えを待つ。親御さんが来たらリーダーの俺がしっかり挨拶しなきゃな…。そう思っていると、北と南から、それぞれの親御さんの車がまったく同時に到着した。やばい!どっちに先に挨拶すべきだ!?ほんの僅かに早く車を停めた兄妹の親御さんの方へと向かう。後ろを振り返る。銀髪少年は寂しげだ。すぐそっちも行くから!まだ帰らないで待ってて!目で合図を送るも、通じたか微妙なところだ。兄妹も同じ気持ちなのか、親御さんの方へと歩きながらそわそわした様子で何度も振り返る。
「何をそんなにそわそわしてるの?」
親御さんは不思議がった。