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塔の探索

 俺と高橋、角田(つのだ)の三人は、授業中、PCのメッセージソフトで連絡を取り合っていた。

 いよいよ、白い塔への侵入を試みるのだ。

『授業開始後、五分したら体調不良で教室を抜け出そう』

 俺の書き込みに、二人とも反応した。

 高橋と俺は同じクラスだったが、ちょうど選択授業で教室が分かれていた。

『先生、体調がすぐれないので早退したいのですが』

 別々の教室で、三人が立ち上がり、教室をでた。

 学校の監視カメラに映像は映っているはず、だが、どれだけ暇な佐川も、本人が授業中ならすぐにこのことには気づかないはずだ。

 三人は別々のルートを通って構内の白い塔へ向かう。

 白い塔の中で授業を受ける連中も、今は授業中で、出入り口を使う生徒も、先生もいない。

 三人は白い塔の前で顔を合わせた。

 角田がいう。

「誰も追ってきてないな?」

 二人は頷く。

 俺はおもむろにPCに接続した手のひらより小さい四角い箱型をした『エミュレータ』を取り出し、カードリーダーに当てる。

「早くして」

 以前ハッキングしたファイルから、予想されるカードの情報のいくつか試す。すると小さい電子音がして、ドアが開いた。

 三人は風除室に飛び込むように入る。

 中のドアには指静脈認証装置がついている。これを突破しないと中には入れない。

 外側の扉が閉まると、角田が、ドライバーを使って問題の指静脈認証機器を取り外す。

 外してしまえば、こっちのものだった。

「あった、このケーブルか?」

 俺は角田が探り当てたケーブルをPCに接続し、認証装置のアドレスを想定してパケットを送りつける。

「早く」

 また高橋がそう言って急かしてくる。

 俺はパケットモニタを起動して、流れる通信を見る。もう一度、認証装置と思われるアドレスを変更してパケットを送りつける。

 内側の扉が開いた。

「よし!」

 俺は小さい声でそう言って、ガッツポーズをするが、高橋も角田もそんなことは気にもとめずに、中に侵入している。

「早く入りなさいよ」

 俺は角田が外した静脈認証装置に量面テープをつけ、それっぽく壁につけた。

「じゃあ、手筈通り」

「待て待て、通信機」

 俺はスマフォとブルートゥースイヤホンをセットにしたものを二人に渡す。

 高橋がセットすると、言う。

「聞こえる?」

 角田が「OK」と言い、俺が「聞こえる」と返した。

 高橋が、指で丸を作ると、三人は頷いた。

 俺は二人と別れて、地下の警備室へと向かった。



 普段、塔側に警備員は配置されていない。

 通常の校舎の方にいるのだ。塔側は格好だけの警備室があって普段は無人になっている。

 俺は警備室の前に着くと、塔の外でやったようにエミュレータをカードリーダーに当て、扉を解錠した。

 警備室に入ると、入退室管理用のPCを見つけ、予め調べておいたIDとパスワードを入力すると操作可能状態になった。

『入退室管理パソコンが操作可能になった』

 俺の声が二人に届く。

『角田、2ーBに到着。鍵開け願う』

 俺はパソコンを操作して、該当の扉の鍵を開ける。

『高橋、3ーAのEPS前。鍵開けお願い』

 扉のリストから該当のものを探して、解錠操作を行う。

 入退室管理パソコンのグラフィカルインターフェイスが書き換わり、扉が開いたことを示した。

 俺はパソコンの時計を確認する。

「現在、予定通り」

 俺は二人からの応答を待ちながら、塔内のネットワーク入れないか試みる。

 どうやら、この入退室管理用は完全にオフラインのようで、扉の開け閉め以外には役に立たない。

 持ち込んだPCを操作し、この場所から掴めるWiーFiへ、ツールを使って接続をここみる。

 ツールはあっというまにWiーFiのパスワードを解き、接続した。

 次に、流れるパケットを調べる。

 定期的に発生するやりとりを見たり、探査パケットを打ちながら、何も繋がっていない空っぽのネットワークなのか、情報を蓄えたサーバーがいるのか見極める。

 と、早速それらしいIPを見つけた。

『気味悪いスローガンがあるから、とりあえずネットにあげるぞ』

 角田が個別学習室に貼ってあるスローガンを撮影した動画を上げる。

『こっちははずれ。鍵しめて』

 俺は、入退室管理用のPCを操作して、扉を閉める。高橋は、そのまま次の部屋へ移動する。

『俺もでる。鍵を』

 角田が言うので、俺は該当の扉をクリックして施錠する。

 まだ授業中だから、気付かれないはずだ。

 サーバーへの侵入を試みながら、念のため監視カメラの画像気にする。

 高橋が上階に入るための扉の解錠を要求すると、言った。

『で、住山の状況は?』

「サーバーらしきものは見つけた。パスワードリストを使ってアタックしてる。今リストの八割ほどを試したところ」

『遅れてるじゃない』

『二つ目の部屋の鍵を開けろ』

 角田の為に、マウスを操作する。

 視野の隅、監視カメラの映像に動きがあった。

「!」

『バカ、なんで締めるんだ』

「大声出すな。その廊下を教師が通るぞ」

 その間に、サーバーへのログインを試みたスクリプトが終了した。

 結果は、失敗。

 学校から取った情報からパスワードに使われそうなワードをリスト化している。なのに何故サーバーに入れない。

 俺はもう一度リストを眺めながら理由を考える。

 パスワードに使えそうなワードの中に、数値の含まれるものがいくつかある。

 この数値の意味は……

 俺は慌ててスクリプトを作り直す。

 数値の部分を年月日だと推定して、ファイルの更新日からここまでの日付の間を総当たりするようにロジックを組み立てた。

『またはずれ』

 と高橋が言うので、俺は監視カメラを見ながら、次の部屋へと促す。

『おい、こっちの教師はどうなった』

「まだいる」

 以前作ったことのあるスクリプトを見ながら、さっさと組み上げると、再びサーバーに向けて攻撃を再開した。

「角田、教師はいなくなった」

『了解。このこの部屋はハズレだ。出るからすぐ鍵を』

 画面を見ながら、角田が出たのを確認すると鍵をかける。

 一つのパスワードを試すのに、三秒以上かかっている。

 リスト全て、しかもこの日付の期間を全て試すと、授業中が終わるまでの間には、サーバーに侵入できないことになる。

 高橋と角田は、次々と部屋を移動していく。

『やっぱり洗脳めいたことをやってるな。単純な補習授業だけじゃない』

『そうね』

 俺は焦る。

「まずい……」

『何よ』

「時間がかかる」

『時間内に情報にアクセス出来ないなら、住山を残して俺たちは逃げるぜ』

 ログを確認するが、進捗は芳しくない。

「くそっ」

『その通りよ。全員がアウトになるよりまし』

 角田は続けて、小さい声で言った。

『先公が来た』

 俺の入退室用のPCでは分からない。

 監視カメラ映像を慌てて切り替えるが、角田の映像が見えない。

 角田のマイクから、微かに教師の声が聞こえる。

『お前、授業はどうした』

『体調が悪くて』

『なら早く家に帰れ。塔を出るまで先生がついていって』

 どこだ、どこのカメラが映している? まだ表示映像を切り替えられない。

『そこまでして頂かなくても大丈夫です』

『ちょっと待て、お前カードはどうした?』

『……』

 角田の反応が遅い。俺はとっさに指示した。

「ばか、固まるな。教室に忘れたとか何とか」

『教室に忘れてきたかな』 

『ちょっと待て、角田。お前特別教室に呼ばれていたか?』

 いよいよヤバいぞ。俺は祈るように手を合わせた。

 その時、持ち込んだノートPCの画面に、スクリプトの正常終了が表示された。




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