表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

自殺した生徒の友人

 数日後、放課後、一人教室に残っていると、高橋が教室に戻ってきた。

住山(すみやま)ちょっといい?」

「ここで話せること?」

 俺は、ノートに『教室内の会話は録音されている』と書いて高橋に見せた。

 以前は、知らなかったし、気にもしていなかった内容だが、学校のネットワークに侵入して、情報を得てからというもの、教室での言動には注意するようになっていた。

「『これ』でよくない?」

 高橋は隙間風を防ぐ、スポンジ状のテープを取ってみせた。

 そして、指を天井に向けた。

 天井にある小さなマイクなら、そのテープを貼るだけでも集音能力が半減するだろう。

「ああ。そうだな」

 高橋が上履きを脱ぐと、教室の中央、躊躇いもなく机の上に上がる。

「ちょっと!?」

 手では届かなかったらしく、定規でつつくように貼り付けた。

「これで良し」

 高橋が、降りてくる時、俺は見てはいけない方に視線を動かしてしまった。

 高橋のスカートの、その、なかの……

「また? 年中、エッチな事考えてるの?」

「すまん」

「で、要件だけど」

 急に真剣な表情に変わる。

「見たでしょ。なんか感じなかった」

「えっ……」

「そこで顔赤くしたら、私が変態になるじゃない」

「特別教室の件だよね」

 高橋は頷く。

「洗脳官僚」

「?」

「今、この国を蝕んでいる者たちよ。私たちは、そう呼んでいるの」

 特別教室は、東大を目指す連中を集めている。東大は官僚になる第一歩だ。

「まさか、特別教室で官僚候補者を集めて」

「暴いて、潰す」

「ちょっと待って」

 まさか、俺に手伝え、というのか。

「オイ!」

 と、意識していない声が聞こえた。

 教室で二人きりだと思っていた俺は驚いて振り返った。

 扉が開いていて、男子学生が入ってきた。

 高橋は、いつもの目立たないモードへと、一瞬で切り替わっていた。

「お前ら、特別教室とか話してたな」

 俺はシラを切ろうとする高橋を横目で見ながら、言う。

「なんのこと?」

 言い終わらない内に、言葉をかぶせてきた。

「特別教室に行っていた、友達がいる」

 こいつが誰だったか、俺は思い出そうとしていた。

「松田俊平。同じ学年だ、知ってるだろう?」

 こいつ、そんな名前だっただろうか。

 松田、松田……

「お前が松田って、嘘だろ。確か、自殺したんじゃ?」

「松田は友達だ。俺の名前は角田(つのだ)主税(ちから)

「ああ……」

「ああ、じゃない! 松田は、特別教室に行き出してから、おかしくなったんだ。何かやばい授業をやっているに違いない」

 俺は手で押さえるような仕草をした。

「声が大きい」

 そしてマイクがあることを示すように指で合図した。

「俺も、そのぶっ潰すってやつ、参加させろよ」

「何のこと?」

「俺を入れないなら、あれを剥がして、マイクに向かって知ってることを叫んでもいいぜ」

「落ち着けよ」

「何が出来るの?」

 高橋が、モードを切り替えた。

「能無しを入れて全員が捕まるのはごめんよ」

「用心棒としてなら、持病持ちのそいつより俺の方が上だ」

 や、まあそうだろう。日焼けしだ肌や、制服を通じても発達した筋肉の様子が分かる。それに、見るからに格闘向きの面構えをしている。

「戦争するわけじゃないから、人数が多ければ多いほど失敗しやすいの。これ以上、人を引き込まないって約束して」

 あれ、俺は計算に入っているってこと? まだ返事したつもりはなかったのだが……

「ああ、やくそくする。が、そいつにはそんなこと言わなかったぞ」

「こっちは、誘う友達いないから言うまでもない」

 俺に友達がいないって?

 その通りで、反論する気もないが。

「とりあえず、ここで長話は無用ね。外のネカフェ行きましょう」

 角田がジャンプすると、スピーカーに貼ったスポンジテープをつかんで剥がした。

「すげぇ」

 ネカフェに場所を移して、俺たちは話を続けた。

「松田は、真面目だった。だが、特別教室に行くまでは、ノイローゼなどとは、無縁なくらい、明るい人間だった。明るさを失い、最終的には自殺するなんて、特別教室で何かあった以外、考えられない」

 俺たちはネカフェのファミリールームを借りていた。六畳ほどの部屋だ。

「真面目な生徒がターゲットみたいね」

「ああ。成績の基準値もあるみたいだがな。教室の主催は、与田先生らしい」

 角田が息を呑んだ。

「依田、だって……」

 俺はハッキングした情報から知っているだけで、依田がどういう人物か知っているわけではなかった。

「怖気付いたなら、外れてもらうわよ」

 高橋の強い口調。

「お前、本当にあのテレビに出ているあの『高橋ひかり』なのか?」

 その口調に驚いたように反応する角田。

 俺は理由を知っている。

「いろんな面を持っているの。それが女優よ」

 全く、嘘つきにも程がある。

「?」

 俺の考えが読めたかのように、高橋が俺に視線を向けた。

「住山は後で残りなさい。話がある」

 高橋は、そういうと、ネカフェのパソコンを操作して、何かを検索し、あるホームページを開く。

「住山は、依田を知らないらしいから、見せてあげる」

 そこに映し出されたのは、力士のような、丸みを帯びた体型の人物だった。

「二メートル、二百キロ、それでいて俊敏で、ボクシング経験もある」

 高橋がそう付け加えた。

「嘘!?」

 俺が驚くと、角田が言う。

「性格もキツイ。冷酷そのものだ」

「そりゃ、ノイローゼにもなるか」

 角田は怒ったように言う。

松田あいつの死はそんな簡単な話じゃない!」

「すまん……」

 高橋が角田に言う。

「松田くんの遺書とか、自殺を裏付ける何か、知ってる?」

「……」

「住山、ネットで調べといて」

「いや、俺が松田の家に行って、何かないか調べる」

 高橋は言う。

「そう、早速だけど、すぐにお願い」

「わかった」

 角田は立ち上がってネカフェを部屋を出て行ってしまった。

「さて」

 高橋は俺を見た。

「事務所のサーバー、ハッキングしたわね」

「……」

 普通はバレないようにログに細工をしたり消去したりするのだが、今回は違う。

 バレるようにやったのだ。あんなサーバーじゃ反撃を受けたら耐えられない。

 あのサーバーにデータを納めていたら、こっちがハッキングして取ったデータ以上の損害を受けかねない。

「事務所が大変な事になったのよ。急にセキュリティに費用をかけなきゃならないし、専門家も呼んだりして」

「対策をしてなさすぎるからだ」

 高橋は、一拍溜めを作るように、黙った後、

「で、どこまで知ってるの?」

 と言った。

「高橋のことか?」

 答えはないが、それは肯定だと思った。

君達(・・)のスケジュールに無理があるんだよ」

 ハッキング前から、薄々感じていたことだ。

「……何が『のぞみ』なの」

「別に、何も」

「事務所に入ってくれれば、給料は出るわよ」

情報代(くちどめりょう)ってこと」

 高橋(たかはし)は頷く。

「それと、事務所のセキュリティは手伝ってもらうかも」

「なら技術料も上乗せでもらわないと」

「欲張るといいことないわよ」

 高橋は睨んだ。

「俺を脅すような人間が、国民の幸福を実現出来るのかな?」

「組織が保てなければ、最終目標を叶えられない。だから組織を保つのに重要なことなら、ある程度のことは目をつぶるの」

「まあ、俺がどんな仕掛けを用意しているか、わからないうちは手を出せないと思うけどね」

 半分はハッタリだが、半分は本当のことだ。

 時間が稼げれば、目的は果たせる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ