ランドセルの耐久テスト
並の電化製品ですら寸分の故障も無く五年と持つ物は、そうそう有りそうで無いものだ。部品が取れたり、ヒビ割れたり、最悪買って三年で捨ててしまう。なんて事もあったりする。
六年間。それも多感でヤンチャな子ども達が、時に振り回し、時にのし掛かり、時にぶつかり合う。半端なランドセルでは無邪気なる破壊発動には耐えられない。
ランドセルの開発担当を担う吉岡は、いかなる耐久テストを物ともしない最強のランドセルを作ることを目標として日々奮闘していた。
入社七年目、開発部長に抜擢された吉岡は、やる気を滾らせた。過去一頑丈なランドセルを、と。意気込んだ。
開発は熾烈を極めた。
最強のランドセルを作るべく、吉岡は会社に泊まり込み、夜通しランドセルを作り続けた。
一人息子と行くはずだったレジャーランドもキャンセルした。息子は泣いた。
妻との結婚記念日に予約したレストランもキャンセルした。妻は泣いた。
「──それではお願いします!」
耐久テスト当日。吉岡の顔は自信に満ち溢れていた。絶対的な確信をそのランドセルに感じた吉岡は、マネキンが担ぐその青いランドセルをジッと見つめた。
戦車がマネキンに向かって走り出した。
キャタピラー音が、社内の敷地へ響き渡る。隣のラーメン屋の主人も、配達途中心配そうに見守っていた。
轟音にも似た戦車が通り過ぎると、敷地のアスファルトには生々しい跡が残された。
「……どうだ!?」
吉岡は駆け寄った。
地面に埋もれるようにはまったランドセルを引き抜いて、その戦果を確かめる。
「傷一つ無い……!! 素晴らしいぞ!!」
ギャラリーは歓喜に沸いた。同じ開発部で長年吉岡を支え続けた愛人の鳴瀬も、思わず涙した。
「部長……おめでとうございます!」
「ありがとう……!」
二人、強く抱きしめ合い、お互いの苦労を労った。
確かな成果を感じた吉岡は次なる目標を定めた。
「ランドセルをロケットにくくり付けて、宇宙へと飛ばします……!!」
宇宙事業との共同テスト。人工衛星を搭載したロケットは、ランドセルを背負ったマネキンをくくり付け、地上を飛び立った。
「いけーーっっ!!」
次第に小さくなってゆくロケットに、吉岡は手を合わせて祈りを捧げた。
大気圏。マネキンはすぐに燃え尽きた。
ロケットも燃料タンクが爆発し、あと少しと言うところで人工衛星は大破した。
唯一、ランドセルだけは宇宙空間に辿り着き、カバーから小さな人工衛星が飛び出した。
宇宙事業は成功した。