11. 『ニィナ・ガレット』
「正直、それに関して私はまったく見当もつかないわ。結界が何か作用してるんじゃないかと思ってる。後ろにあるはずの結界さえないもの」
「え……? あっ」
言われて振り向いてみれば、確かに来た方向に結界がない。
私は何が起こっているのかさっぱりわからなくなった。
「――はぁ、頭がくらくらするわ。初日からなんでこんな目に遭わないといけないのよ? おかげで死にかけたし! お気に入りの杖もなくして服もベタベタ、ホント最悪だわ! 学校は補償してくれるんでしょうね?」
落ち着いたことで沸々と怒りが湧いてきたんだろう。
「でっ、でもと、とりあえずあの獣からは逃げられたみたいだし……」
「そうね。逃げ切ったと思ったら広大な森の中に二人ぼっちで放り出されて、他の人は誰一人見当たらない。どっちが森を抜ける方向かもわからない。これって事態が好転したと言えるの? ま、目ざわりな人が全員消えてくれたのは嬉しいけど」
「うっ……」
「そういえばあなたと名前をまだ交換してなかったわね。私はニィナ・ガレット。ノールストン地方から来たの。『北方の姫君』という肩書、あんたも耳にしたことはあるんじゃないかしら」
ニィナ、と名乗った驕慢な彼女は少し自慢げに自己を紹介する。
それに対して、私は消え入りそうな声で答えた。
「……き、聞いたこと、ないです……」
「はぁっ?」
「ご、ごめ、ごめんなさいごめんなさいっ!」
調子を崩されたニィナさんは不満そうな顔をするも、次いで私に尋ねる。
「……今度はあなたの番だけど?」
「えっ、あ……。名前、ですか?」
「そうよ。勘違いしないで。これは万一の時、学校に報告するためだけに覚えるの。決してあなたに興味があって聞いてるわけじゃないわ」
縁起でもないことを言うニィナさんだが、名前くらいは覚えてくれるらしい。
「わ、私はロタネ……です」
ポツリとそう名乗ると、彼女は優美な眉をひそめた。
「ロタネ――。っ……もしかしてロタネ・ペンネッタ?」