秘密
休みの日にも関わらず、私は早起きをしなければいけなかった。隣で眠っている夫を起こさないように身体を起こし、部屋から出る。それからシャワーを浴びて、汗と一緒に昨日までの自分を洗い流していく。泡が肌の汚れを吸って、ゆっくりと身体の輪郭をなぞるように落ちる。その度に、少しずつ自分が生まれ変わっているような気がして、とても高揚した。
浴室から出て、身体を拭いて、生まれ変わった自分に飾り付けをしていった。新しく買った真っ白なシャツを纏い、上二つのボタンは留めずに三つ目からを留めた。そして、いつも履いているものより少し短いタイトスカートに足を潜らせた。化粧には時間をかけて、髪の毛はアイロンを使ってウェーブをかけた。
そうして完成した何もかもが新しい自分と鏡で向き合ってみる。後ろで寝息を立てている夫には、きっと既視感の無い姿だろう。そう思うと何だか楽しい気分になって、それがさっきの高揚と混ざって私を笑顔にさせた。
出発の時間を時計が指し示しているのを確認し、玄関へ向かう。シューズケースから普段は履かない背の高いヒールへ手を伸ばす。そして、そのヒールにゆっくりと足を浸せ、立ちがると私の世界は背伸びをしていた。目に映る景色はまるで、他の誰かと入れ替わったようであった。
外へ出ると、空の青色を覆い隠すような曇り空で、雲に同情してしまった。少しその空を見入っていると私の真上から青色が覗いた。その青色は薄くも鮮やかで、今まで見たどんな青色よりも好きだった。
それに魅了されたせいか、今日は後ろを振り向き「行ってきます」と小声で呟いてから、秘密を漏らさないように出かけて行った。