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9/10

ボサボサの髪を切ってみたら、女子からめちゃくちゃみられる

「じゃあみんな早速“レターバード”の練習をしてみてくれ」


 学園に入学してから、二ヶ月がたった。その日は汎用生活魔法の授業があった。この日の課題はレターバードという魔法を覚えることだった。この魔法を使うと、手紙を鳥のような形にして飛翔させ、勝手に送り先の人物に届けることができる。しかし、みんな口々に“レターバード”というがなかなか成功しない。


「“レターバード”」


 レインは呪文を唱えたが、紙がふわりと浮き上がるだけで鳥の形になることはなかった。二ヶ月間彼をみていて思ったのは、彼が決して天才というわけではないということだ。彼は人並みならぬ努力を重ねて奇跡の世代に入っていた。


「“レターバード”」


 メイジーが呪文を唱えると、紙はどんどん折り畳まれていき鳥の形になった。しかしそれはまだ飛べない雛の形で、口を大きくあけ、餌を欲しているかのような様子だった。


「ヒューヒュー」


 フィンは自分の手で紙を折り、鳥を作っていた。そしてそれを持つと手で振り回し遊び始めた。彼は二ヶ月も立っているのに一度も奇跡の世代と言われるような実力を見せていなかった。


「そんなことしなくても鳩さんに頼めば運んでくれるのに……」


 アメリアは鳩の足に手紙を巻きつけた。鳩は抵抗することなく、じっと待っていた。巻き終えると鳩は飛び立った。どこかに手紙を届けに行ったようだ。


「どうせあの二人はすぐにできるんだろうな」


 誰かが言ったその一言がクラスに響いた。気づけば教室にいる人は全員僕とハワードを見ていた。


「“レターバード”」

「“レターバード”」


僕と彼は同時に呪文を言った。僕たちの目の前にあった紙はどんどん折り畳まれ鳥の形になった。二人とも魔法は成功のようだった。


「なんでこいつらはどんな魔法も一回でできるんだよ……」


 レインが全員の声を代表するように言った。この二ヶ月授業はずっとそんな調子だった。みんなが魔法に苦戦する中、僕たち二人だけが先に魔法を習得するというのがずっと続いていた。その噂を耳にして、他のクラスから覗きにくる人もいるくらいだった。


「相変わらずお前ら二人は規格外だな」


 レン先生に褒められた僕はついつい嬉しそうな顔をしてしまった。ハワードの方を見ると彼はそんなことは当然だと言わんばかりに表情を変えていなかったので恥ずかしく思った。


「今日の授業はこれで終わりだ。“レターバード”の試験は来週だから、それまでにできるようにしとけよ」


 レン先生はそのまま帰ってしまった。ハワードのもとへはレターバードのコツを聞こうと人が殺到した。みんな口々に疑問点を彼に質問する。


「うるさい。ピーチクパーチク、お前らが鳥みたいだ……。おい、“ありんこ”」


“ありんこ”というのはもちろん僕のことだ。フィンの呼ぶ“ありんこ”くんとは違い、彼の言葉は節々に嫌な感情が込められていた。


「な、なに?」

「お前この二ヶ月どんなイカサマ使っているんだ?」


 彼の質問に呆けてしまった。もちろん僕は一切卑怯なことはしていない。ただ自分なりに考えて魔法を使っているだけだ。


「な、何もしてないよ」

「無属性適性者で平民のお前が私と同じ才能を持っているなんて、信じられないがな。まあ、いい。せいぜいイカサマを続けていろ、“ありんこ”が」

「おい、いい加減にしろよ。だいたい……」

「いいんだ、レイン」


 レインは僕のために怒ってくれようとしたけど、僕はそれを止めた。こんなことはいくらでもあるし、これが原因でレインの家とハワードの家が仲悪くなることは避けたかった。


「ふん」


 ハワードは不機嫌そうに教室を出て行った。ハワードに質問しようと、取り残された人たちはちらっと僕を見ると慌てて目線を逸らし帰っていった。彼らが僕に話しかけたことは一度としてなかった。


「相変わらずお前はいいやつすぎるぞ、ジョセフ」


 レインはそんな彼らを軽蔑した眼差しで見ながら、僕に話しかけた。そしてメイジー、アメリア、フィンも僕のもとへやってきた。この二ヶ月で僕が一緒にいる人たちは固まってきていて、基本的に彼らと一緒にいた。


「もちろん、いいよ。はぁ」

「そりゃため息もつきたくなるわな」

「僕だって、“レターバード”できたのに、なんで僕だけ不人気なんだろ……」

「しょうがないですよ、みんな偏見がありますから」


 アメリアは優しく慰めてくれたが、相変わらず僕の気分は沈んだままだった。その様子を見てメイジーがため息をつきながら、口を開いた。


「まあ、もちろんそれもあるけどね。でも他の理由もあると思うわ」

「他の理由って?」

「ジョセフのためを思っていうけど、かなり陰気な雰囲気が流れているのよ」


 陰気な雰囲気。そんなに大胆に気にしていることを言われるとは思わなかった。確かに昔から人と話すことも苦手で、俯きがちだった。


「そんなにはっきり言わなくても……、ジョセフくん傷ついてますよ」

「本人のためを思って言ったの。むしろ褒めて欲しいわ」

「まあはっきり言ってそうだけど、すぐ直るっていうわけじゃないだろ」

「みんなの言葉はハワードよりも僕を傷つけているよ……」


 みんなでどうすればこの雰囲気を治せるか話していたが、しばらく答えは出なかった。そんな中黙って聞いていたフィンが口を開いた。


「ありんこくん、髪切るのはどうですかー? 結構それだけでも印象変わりますよ」

「それよ!」

「それです!」

「それだ!」


 どうやら答えが決まったようだ。確かに僕の前髪は長く、目元を隠しているためより陰鬱な雰囲気が出るだろう。


「髪なんて切るの、半年ぶりだよ。緊張する」

「そんなに緊張すもんじゃないって。でもどこで切ろうか?」

「私の通っている美容院紹介しようか?」

「でもお金ないし……」

「フィンが切りますよー。ハサミの扱いは得意なんです」


 みんな怪しそうな目でフィンを見ていた。彼はハサミを出してチョキチョキと空気を切っている。フィンがいつもハサミを持ち歩いているのは知っていたが、髪を切ると言い出すとは思っていなかった。


「ごめん、ジョセフ、嘘ついた。髪切ってもらうのってめちゃくちゃ緊張する」

「ええ、断っていいと思うわ」

「さあ! ありんこくん! 僕の部屋へ来てください!」

「ちょっと! 話聞いてた?」


 フィンは僕の手を握って寮へ連れて帰ろうとした。それを見て慌ててメイジーが止めた。


「ちょっと! じゃあせめて一緒に見させて! 監視するわ!」

「ダメです! 明日のお楽しみですー!」


 結局フィンに強引に連れられ、髪を切られることになった。切られている間、僕は生きている心地がしなかった。


 次の日の朝、僕は遅刻するギリギリを狙って寮を出た。理由はフィンが、


「いいですか? 一番最後に教室に入ってみんなを驚かせましょう!」


 と言ってきかなかったからだ。


 だんだん教室が近づいていく。似合っていないと言われたらどうしよう。何より異性として気になっているメイジーにカッコ悪いと言われれば泣きたくなってしまう。僕はドキドキしながら教室の扉を開けた。


「いやー、それでさー。え?」

「本当に “ありんこ”か? あれ」


 みんなが僕を見ていた。この反応は似合っていないと思われたのかもしれない。もしかしたら大笑いされるかもしれない。覚悟していたが、笑いは怒らずざわめきだけが広がっていった。


「前髪で顔隠している時は気づかなかったけど、前髪あげたらイケメンじゃない!」

「ばか! あいつは平民で、無属性適性者なのよ!」

「でも愛人なら……」


 知らない女子の声が僅かに聞こえた。この反応は結構良かったのかもしれない。ほっと胸を撫で下ろすと僕は席についた。すぐにレン先生が入ってきた。


「さあ、出席とるぞー。お? ジョセフ髪切ったのか。似合っているぞ」

「ありがとうございます」


 先生に見えない角度でレターバードが飛んできた。差出人はメイジーだった。彼女はもうこの魔法を覚えたようだ。


“似合っているわよ、見違えたわ”


 僕は嬉しくなってメイジーを見た。彼女は僕の前に座っていたので顔は見えなかったが、普段は真っ白な彼女の耳は、真っ赤になっていた。


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