決闘勝利!
「お、おいマジかよ……。あの奇跡の世代の一角が……」
同級生たちは目の前の光景が信じられないようだった。無属性適性者が氷結魔法の適正者を倒す。そんなことは前代未聞だった。氷結魔法はその強さで有名なのに、敗れると言うのは誰も想像していなかった。
「さあ、決闘はこれで終わりだ。教室に戻るぞ。戻り方を教えるから、全員入ってきた場所に集まれ」
先生は同級生を連れて行ってしまった。それでもメイジーは動くことなく、僕も罪悪感でその場を動けずにいた。もしかしたら、彼女のプライドを傷つけてしまったかもしれない。
なんて声をかけたら良いのかわからず立ちすくんでいると、メイジーが話始めた。
「さっき彼らが帰って行った時の会話を聞いた? 『無属性魔法適性者にすら勝てない噂だけの負け犬。“牙の抜けた猟犬”』だって。惨めね、私って」
彼女は泣いていた。涙は地面に落ちると地面を凍らせた。氷結魔法を使うメイジーは涙でさえ凍らせる力があった。
「あなたの実力はすごいわ。一体どうやってそんな魔法を身につけたの?」
「僕を育ててくれたおばさんは、毎日僕のことを殴ったり蹴ったりするんだ。それから身を守るために覚えた。それにご飯だって食べられない日があったから、昼と夜の仕事のちょっとした時間でご飯を食べるために狩りにも出かけてた。攻撃のための魔法は気づいたら使えるようになってたんだ」
メイジーは俯いた。彼女の瞳からは涙が溢れ続け、涙を受け取った地面はどんどん凍り続け、氷の華が咲いていた。
「あなたも大変な思いをしてここに来たのね。ごめんなさい、さっきは失礼なことを言って」
「気にしないでよ。メイジーだって努力してここまで来たんでしょ?」
「ええ、たくさん努力したわ。私の家に代々伝わる氷結魔法だって全て習得して、天才って言われていたのよ、これでも。その上であなたに負けてしまったんだもの。これからどうしたらいいのか分からない」
彼女はとても苦しそうだった。透き通った涙が白い肌をつたっていくのを見た時、どうにかして救ってあげたいと思い、僕はメイジーの涙を拭い取った。
「僕が無属性魔法を教えようか? メイジーならきっとすぐにできるようになるよ」
「わざわざ誘ってくれてありがとう。でもいいわ。適性のない私が無属性魔法を練習したところで、気休め程度の身体強化と五感強化しかできないでしょ?」
「え? そんなことないよ。少なくとも今日僕が見せた“神抜”とかはできるはずだよ」
「何を言っているの? そんなことできるはずないじゃない」
あたりに風が吹いた。どうやら彼女と僕で考えが違うらしい。でも流石に無属性魔法を小さい時から練習しているだけあって、僕は誰よりも無属性魔法について詳しい自信があった。
「えっと確認なんだけど、今世界で無属性適性者が蔑まれている理由って、適性がなくてもある程度無属性魔法が使えるからだよね?」
「ええ、そうよ。」
「その“ある程度”って言うのはメイジーの中でどれくらいの範囲なの?」
彼女は顎に手を当て、空を見た。僕の質問を真剣に考えてくれているようだ。
「そうね……。これは私の考えっていうよりかは常識なのだけれど、大体自分よりも一回り大きい人の力強さと一回り小さい人の俊敏さを手に入れるという感じかしらね」
「初めてその常識を知ったよ……、教えてもらったことないから。えっと僕の感覚なんだけど、適性のない人でも今日僕がやったくらいの動きはできるよ」
あたりに静寂が漂った。メイジーは信じられないような目をしている。どうやら信じていないようだ。
「メイジー立って」
「え、なんでよ?」
「いいから」
渋々立ち上がったメイジーの背中に僕は手を当てて、魔力を操作した。いきなり僕が魔力を動かしたから彼女は驚いたようだ。
「きゃあ! 何するのよ!」
「ごめん、ごめん。今僕がメイジーの魔力を動かしているの感じる?」
「ええ、感じるわ。変な感じね」
「そのまま拳を突き出してみて。嫌いな人をパンチする感じで」
「分かったわ」
メイジーが誰を想像しているのかは分からなかったが、彼女は勢いよくパンチを繰り出した。僕はそれに合わせて無属性魔法を使うことで、“神抜”を繰り出した。10メートルほど離れた壁が凹みぼろぼろと崩れ落ちた。
「うそ……」
「ほらできた。僕が魔力を足したわけでもないし、魔力の動かし方だけでこんなに変わるんだ。どう? 無属性魔法練習してみない?」
僕が問いかけると、メイジーは笑い始めた。彼女の笑い声はまさしく鈴の音だった。あまりにも透き通ったその声は僕の胸に染み込んだ。口元に手を当て、泣き腫らした目を細めて笑う様子は、僕が今まで見てきたものの中で一番美しかった。
「あなたなにを言ってるか分かっているの? 世界の常識が変わるわよ」
「そんな大層なこと思ってないよ。ただメイジーの助けになればって」
「ふう、分かったわ。教えてちょうだい。私はあなたから魔法を教えてもらって、そしていつかあなたを倒すわ」
「あはは、楽しみにしているよ」
僕たちは握手をした。これ以来、僕は自習の時間にメイジーに無属性魔法を教えることになった。
そしてこの時には自覚していた。僕はメイジーのことが好きだった。彼女の水色の髪を見るたび、彼女の白い肌を眺めるたび、僕の鼓動は高鳴っていた。
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