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学園到着! 今後の目標

「ようこそ、魔法学園フリーデルへ」

「うわぁ、すごい!」


 ペガサスから降りて、見えたのは巨大な学園だった。学園はバロック建築で建てられた宮殿のようで、窓はいくつもあり、左右対称だった。そして何より目を引くのが、学園の前の巨大な泉だった。照明の効果もあり、泉の表面にはフリーデルがもう一つあるかのように映し出されていた。


 学園の美しさに思わず見惚れていると、前から女性が走ってきた。彼女は豊満な胸と紫色の長髪を揺らし、息を荒げていた。


「ベックランド校長! どこに行っていたんですか!」

「ジョセフくんを迎えに行っていたのじゃ」

「それだったら私が行きますよ! あなたは国の重鎮でもあるんですから、急に消えないでください!」


 女性は口を尖らせ注意していたが、ベックランド先生は飄々と宥めていた。きっとこの二人はずっとこの調子なのだろう。

 やがて口論がひと段落したのか、彼女は眼鏡の奥から僕を見た。


「あなたがジョセフですか?」

「そうです、よろしくお願いします」

「最低限の礼儀は持ち合わせているようね。私の名前はムール・ブリンデル。ベックランド校長の秘書をしています」


 ムールさんは背中に棒でも入れているのではないかというくらい、ピンと背筋を立てていた。それだけで彼女が厳格な女性であることが分かった。


「もう夜中ですから、まずはあなたの泊まることになる寮に案内します。ついてきてください」


 ムールさんはそのままヒールのコツコツという音をならせて、歩いて行った。遅れないようにしないと、と思い後ろをついていった僕は、ベックランド先生にお礼を言っていないことに気がついた。


「ベックランド先生、ありがとうございま……。あれ?」


 後ろを振り返りお礼を言おうとしたが、そこには先生の姿はなかった。目を離したのは数秒ほどで、とてもどこかに移動できるような時間ではなかった。


「あの人は神出鬼没です。ベックランド校長がいなくなったということはお礼は必要ないということでしょう」


 寮へは十分ほどでついた。その間、ムールさんはいくつか学校での注意点を話してくれた。


「あなたにはいくつか覚えなくてはいけないことがあります。覚えるというよりも、覚悟と言っていいかも知れません」


 風で枝が揺れる音の中に、少しトーンの低くなったムールさんの声が混じった。彼女がとても真剣な話をしているのが伝わってきた。


「フリーデルは平民の受け入れをしようとしているのですが、保護主義的な貴族がそれを邪魔しています。貴族は面子を大切にするのです。例えば貴族は無属性適性者が出ると、その存在を隠し、追放することもあります。それも面子のためです。そのため無属性適性者は平民から選ぶしかありませんでした」


 フリーデルには貴族しかおらず、さらには無属性適性者はいない。彼女の伝えたいことがどういうことか分かった気がした。


「あなたはこの学校で唯一の平民であり、無属性適性者です。どちらも貴族の差別対象であり、見下す人も多いでしょう。正直に言って私も無属性適性者のあなたがこの学校に入る価値があるのか疑問視しています」


 僕は初めて自分がどういう状況に置かれているのか分かった。ムールさんは綺麗な長髪を揺らし、気にせず歩き続けた。


「一体この学校で何をするんですか? 僕はどうすればいいのでしょうか。」

「結果を出しなさい。ジョセフ」


 ムールさんは振り返り、前髪で隠れた僕の目を真っ直ぐに見た。僕は恥ずかしく思って少し顔を下に向け、俯いた。


「あなたのような境遇は無属性適性者の中では珍しくありません。今も世界中で無属性適性者は、殴られ蹴られ蔑まれています。あなたが彼らの代表として、結果を出せば無属性適性者が無能だという認識は少しずつ改まっていくでしょう」

「結果を出すって、どうすれば……。そうか! “フレグテント”で活躍すれば……!」


 フレグテントとは、毎年年度末に行われるフリーデルの大会だ。高校生のみで行われる大会で、同級生と最大4人のチームを組み、各学年でトーナメント形式で戦っていくのが通例となっている。各学年の優勝チームは安定した未来と、栄光が手に入れられる。


「そうです。フレグテントは校外にも名を広めるチャンスです。国民のビッグイベントですから、たくさんの観客が集まります。そこで活躍すれば、少しは認識も新たまるでしょう」


 僕は世界中の無属性適性者のことを考えた。彼らは今も働き、暴力をうけ、暴言を受けている。そんな彼らの期待は僕の肩に乗っかっていた。彼らが自由になる未来を僕が担っているのだ。


「ムールさん、僕決めました」


 僕は顔を上げると、長い前髪越しに彼女を見た。彼女もまた僕をじっくり見ていた。


「フレグテントで3年連続優勝します」

「あなたそれ本気で言っているの?」


 ムールさんは驚いた顔で僕を見た。それも当然だった。フレグテント3年連続優勝というのは、歴代で4人しかいないからだ。さらには有名な特典もある。


「フレグテントを3年連続優勝したものには、校長が可能な範囲で願い事を叶える。この特典を知っているのよね?」

「もちろんです」


 いつの間にか風は止み、世界に僕たち以外動いているものはいなくなった。僕の決意は静寂を介して、ムールさんに伝わっていた。

 やがて彼女は僕が本気で言っていることを悟ると、赤い唇を引き伸ばし、笑った。その笑みは妖艶で、思わずドキリとしてしまった。


「面白いわね。生意気なのは嫌いじゃないわよ。でも気をつけることね。今年はフレグテント史上最も豊作と言われるほど、天才たちが集まっているわ」


 ムールさんは再び歩き始めた。相変わらずそっけなく見えたが、あの笑みを見れば、彼女が厳格なだけでなく、陽気なところもあるのだと分かった。


「さあ、ここが寮よ。あとはフロントに行けば、部屋の鍵と場所を教えてもらえるわ。あぁ、そうそう。あと明日は早速始業式だから、9時前までに泉の前にいなさい。いいわね?」

「分かりました。今日はありがとうございました」

「お礼なんていいわ。それは今後のあなたの成績で返しなさい」


 そう告げるとムールさんは夜の闇へ消えていった。ムールさんの足音が聞こえなくなると、僕は自分がぼーっとしていたことに気づいた。

 今日は色々あった。15年も一緒にいたバフリおばさんとお別れして、街をでて、学校に通うようになるなんて想像もしていなかった。


「でもこれからだ。これから僕の人生は始まるんだ」


 僕は寮へと足を踏み入れた。これこそが、僕にとって辛くて、苦しくて、最も楽しく濃密な学園生活の最初の一歩だった。


読み終わったらぜひ下のブックマークと評価をつけてください、、、。めちゃくちゃ嬉しくて飛び跳ねます。

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