01ストーリー
「おはよう、アイズ。おきて。」
しなやかな、透き通るような綺麗な声がまだ寝ている俺の鼓膜を優しく振るわせる。
・・・zzz
「・・・ねえ?アイズ。起きてくださいっ!」
・・・・・・zzz
「・・・・・・無視するの?私、悲しいよ?」
・・・・・・眠い。まだ1時間でも寝ていたい。だが、これ以上無視を決め込むと本気でいじけそうなので大人しく起きることにする。
「おはよう。ヘレナ。起こしてくれるのはありがたいけど、勝手に俺の部屋まで入っていて起こさなくてもいいんだぞ?」
「何言ってるの。もう十年もやってるんですから諦めてください。・・・それより、今日は私たちにとって、とっても大事な日なんだから。早く起きて支度してね。」
「分かってる、準備するよ。」
「下でおじさんと一緒に待ってるからね。早く来てね。」
「おう。」
バタンと音をたてドアが閉まった。
・・・・・・ふう。だが、本当にあの起こし方はどうにかならないものだろうか。朝起きたと同時に、起こしにきたヘレナの顔が目の前にある時の驚きは、一生慣れることはないだろう。
スラッとした顔立ち。パチパチとさせながら覗いてくるルビーのような紅眼。そして、見るもの全てを虜にしてしまう、透き通るような光り輝く金髪。
すべてが彼女を引き立てる最高のパーツとなり、彼女を輝かせ、人々を魅了させる。
彼女の容姿について、人に聞けば、100人中100人が美少女と答えるだろう。
そんな彼女が起きたら目の前にいるのだ。それで慣れろと言われても、僕には無理だ。まして、僕は彼女に惚れている身である。無理難題もいいところだ。
あとは、あのテンションの高さをどうにかすれば、将来引く手あまたになることは確実だろう。
・・・まぁそれはとにかく今は早く準備をするか。
粗方の準備を終え、二人の待っている下の居間まで向かう。年季の入った階段を降りると、師匠の姿とヘレナがコーヒーを片手に座っているのが見えてきた。
「やあ。おはようアイズ。よく眠れたかい。今日は君たちが初めて学園に入学する日だ。そして、アイズ、お前がこの家を初めて離れるということにもなる。その力の扱い方は十分に教えたつもりだが、外でも注意して使ってくれ。」
師匠は、見た目は、40歳くらいのおっさんで、なんともパッとしない感じである。だが、魔法が得意で、昔は世間でもちょっと有名であったらしい。「本人談」
「分かってるよ。そこら辺は、師匠の地獄の修行の間に体に叩き込まれているから大丈夫。」
師匠は、僕の適正魔法、「黒魔法」が危険な魔法であると僕が幼少の間から見抜き、様々な魔法の知識、技術を僕に叩き込んだ。
昔はどうして師匠はこんなに厳しくするんだと文句を垂れたものだが、今では、僕が自身の魔法で傷つかないようにするためだったのだと理解して、師匠には感謝している。
「それならよかった。ヘレナちゃん。アイズをよろしく頼むよ。」
「はい。おじさん。私がしっかり見張っていますから、大丈夫ですよ。」
「相変わらず頼もしいなーーヘレナちゃんは。・・・・・・よし。アイズも来たことだし、馬車は家の前に止めてある。出発の時だ。」
・・・いよいよ出発か。俺はこの家や、近隣の村の生活しか知らない。本当にやっていけるのだろうか。
目的地はこの国、ディスタリオン王国の王都。
その名も、《ディスタ》。
国家最高峰の技術と知識と財が飛び交う王国最先端の都市。
その王都に広大な土地をもって建設された王国一の学園。
《王立ディスタ学園》。
僕たちはその学園に特待生として入ることになっている。
・・・きっと、、いや、絶対に。僕とヘレナ、二人なら何があっても大丈夫だ。
「いこう、ヘレナ。」
「えぇ。いきましょう。」
「「王都、ディスタへ!」」
まだ朝日も登っていない暗い道を、一つの馬車が走っていた。
馬車では、二人の少年少女が一人の男に手を振っていた。
やがて見えなくなったのか、二人は手を振ることをやめ、前を向き、空を仰いだ。
一辺の曇りもない空を見上げた二人は手を取り合い、空に向かって宣言するように言った。
「僕たち(私たち)なら、必ず・・・」
空に輝く星が映った瞳は、決意に満ちていた。