♥ 曽井子駅 1 / 退魔師として 1
眞小呂って…どんな陰陽師だったんだろう……。
いや、今はそんな事を考えてる場合じゃないよな!
オレは玄武の左手を握った。
少しでも玄武を近くに感じたいからだ。
玄武はオレより大きな手で、オレの小さな手を優しく握り返してくれる。
玄武が居てくれたら、どんなに危険な事が起きても無事に解決出来る──って、不安も安心に変わるよ!
曽井子駅の改札口が見えて来る。
姿は見えないけど、改札口は通らないといけない。
ジャンプして飛び越えるか、下から潜って入るか……迷うな。
そんな事を考えていると、オレは玄武にお姫様抱っこされた。
玄武の姿はオレにしか見えない。
実体が無いから物体も透けて通れてしまう。
だからのお姫様抱っこ。
誰にも見られなくても恥ずかしいっ!!(////)
「 玄武…下ろしてくれないかな?
自分で歩くし… 」
「 それは止めた方がいいよ。
利用客が多過ぎるからね。
式神のワタシは透けてしまうから人間とぶつかる事はないけど、惠梦は違うよ 」
「 姿は見えなくてもぶつかるって事? 」
「 そう。
はぐれて迷子になられても困るし 」
「 オレ、高校生だぞ!
駅で迷子になったりしないよ!! 」
「 それでも駄目。
人気が無くなる迄は、このまま進むよ 」
玄武は頑固だった。
歩かなくてもいいから楽だし、誰かにぶつかる事もなければ、玄武とはぐれないで済むから、この体勢で良いとは思うけど……。
お姫様抱っこされるのって、男としてどうなんだよ…。
「 ──着いたよ。
此処から歩いていいよ 」
「 うん… 」
あっさり玄武から下ろされた。
あっさり過ぎて、ちょっと寂しい。
もう少し名残惜しそうに下ろしてくれてもいいんじゃないのか?
「 だけど…此処からは、ぱったり人気が無くなるな 」
「 立ち入り禁止区域だからね。
此処からは気を引き締めて行こう 」
「 うん…。
それで、取り除かないといけないモノは何処に居るんだ? 」
「 この先だね。
地下に下りるよ 」
「 え?
地下があるのか?
でもさ、地下鉄なんて通ってないだろ? 」
「 地下鉄が通ってなくても地下はあるよ 」
玄武と手を繋いで先へ進む。
年頃の男子校生が式神と手を繋いで歩くのをどうか笑わないでほしい。
背筋がゾクゾクして怖いんだよっ!!
廃墟とか廃屋とか墓場とか心霊スポットとか如何にも何かが出そうな雰囲気が漂っている場所を訪れた物好きな奴等だって、フル●ン丸出しの丸裸で歩くような馬鹿な真似はしないだろ!!
それと同じなんだ。
玄武はオレの身体を守る服だなんだ!!
だから、オレは玄武と手を繋いで歩くんだ。
恥ずかしくなんて、ないんだからなっ!!(////)
「 ──惠梦、此処から地下に下りるよ 」
「 …………うん…。
…………何だろうな…オドロオドロしい感じが漂って来てないか?
それに……少し肌寒い…かも?? 」
「 感じる?
惠梦の佛性を観受する能力が動物並みに鋭くなっているからだよ 」
「 そうなのか? 」
「 惠梦は霊観がないからね。
本来は何も感じられないけど、ワタシの影響を日頃から受けている所為で、佛性を観受する能力が一般人よりも鋭くなってるんだよ 」
「 そうなんだ…。
佛性を観受する能力ってのは無くせないのかな? 」
「 人間には出来ないよ。
佛性を観受する能力は〈 久遠実成 〉が生きとし生ける総ての生物に与えられているからね。
危険な場所から大量のネズミが逃げたして大移動したり、蜂が高い場所や低い場所に巣を作ったりするよね。
あれば佛性を観受しているからだよ。
人間にも馴染みのある “ 虫の知らせ ” も佛性を観受しているんだよ 」
「 へぇ?
そうなんだ… 」
「 佛性を観受する能力があるから、〈 久遠実成 〉から霊観を授かれるんだよ 」
「 何でオレは霊観を授かれないんだ? 」
「 さぁ?
ワタシにも分からないけど、必要がないんじゃないかな?
惠梦にはワタシが居るし。
ワタシが居れば霊観なんて必要ないよ 」
「 そういうもんなのか? 」
「 そうそう。
抑、霊観は人間が私利私欲の為に悪用したり、お金儲けの道具に使う力ではないんだよ。
悪用したり、お金儲けの道具に使えば、相応の報いを受ける事になるんだ。
人間には、何時,何処で,どんな形で,自分に戻って来るか分からない。
陸な目に遭わない事は確かだよ 」
「 じゃあ、何で霊観を授けるんだ? 」
「 世の中には人間の人知では計り知れない、解明の出来ない不思議な力が存在している事を知らせる為に、色んな形で霊観を与えているんだよ 」
「 色んな形?
例えばどんな? 」
「 惠梦も好きな超能力だよ。
超能力にも色んな種類があるね。
超能力の元も宇宙間に存在する全てを構成するエネルギーの根原である〈 久遠実成 〉のお力だよ。
霊能力も神通力も同じだよ。
人間はまるで自分の力のように過信したり、思い違いをして、偉そうに振る舞っているけど、正しくは〈 久遠実成 〉の慈悲によって〈 久遠実成 〉のお力の一部を使わせて戴いているだけなんだよ。
使わせて戴いている非科学的な力を我が物顔で悪用しているのを見るのは実に愉快だよね。
彼等がどんな酷い死に方をするのか楽しみで仕方無いよ 」
「 玄武……。
そんな事を思いながら超能力番組や霊能力者番組を見てるのかよ? 」
「 人間にその気がなくても、金銭を貰ってる時点でアウトだよ。
商売の道具にしているからね 」
「 そうなんだ…。
…………オレ…霊観を授からなくて良かったよ…。
知らないで悪用とか商売の道具にしてる人って……不憫だな… 」
「 金銭は態々〈 久遠実成 〉のお力を使わなくても地道に働けば普通に稼げるからね。
人助けをしたくて〈 久遠実成 〉のお力を使わせて戴くなら、無報酬で受けるべきだね。
金銭を受け取ると商売になってしまうからね 」
「 厳しいんだな… 」
「 ──惠梦、そろそろ着くよ 」
「 話してると直ぐだな 」
「 怖いの忘れられた? 」
「 え…? 」