♥ 蒔邑寺社 5 / 情報収集 5
「 式神にはね序列があるんだけど、オレの式神の玄武は最上位に君臨する式神なんだ。
だから、自分から玄武に敵対する式神なんて居ないんだ。
式神は主の命令には逆らえないけど、玄武と敵対する事だけはしない。
だから、玄武に守護られてるオレは安全なんだ。
嫌がらせなんて受けないよ。
……オレに嫌がらせをした方が、玄武から報復を受けちゃうからね…… 」
「 そうなのかい?
玄武さんは凄いんだね 」
「 うん!
日本で1番強い最強の式神だよ!
オレの自慢の兄ちゃんなんだ(////)」
「 式神がお兄さんなのかい? 」
「 うん。
祓い屋の家系に生まれた男子は必ず式神を従えているんだ。
実体化の出来る式神に身の回りのお世話とかしてもらう事になってるんだ 」
「 へぇ……。
そんなに凄い式神を従えているのに惠梦君は退魔師なんだね… 」
「 うん。
陰陽師になれるのは本家の者だけって決まってるから。
分家の者は全員、退魔師なんだ。
どんなに強い式神を従えていてもね。
陰陽師になりたいなら、本家の娘と結婚して婿養子になる事かな。
オレは陰陽師になる気なんて更々ないから、高校を卒業したら実家を出て、玄武と一緒にポツンと一軒家で静かにグータラして暮らすんだ! 」
「 ははは。
もう将来の事を考えてるのかい 」
「 だって2年後だからね 」
「 そうか…。
後2年か…… 」
「 ──透さん、アイスコーヒーとアイスコーヒーゼリーフロート御馳走様!
美味しかったよ 」
オレは透さんに御礼を言うと玄武と一緒に客室を出る事にした。
透さんと巫女のヒヨメさんが寺社の門まで見送ってくれた。
手を振ってくれる透さんとヒヨメさんへオレも手を振りながら門を出た。
──*──*──*── 階段
門を出ると階段が続いている。
上がるのは大変だったけど、下りは楽チンだ。
「 曽井子駅の資料、見せてもらえて良かったな 」
「 そうだね。
寄ってみて良かったね 」
「 さっき言ってた式具だけど、どんなのを透さんに用意するんだ? 」
「 腕輪かな。
秋季彼岸供養会には間に合わせる。
出来たら直接届けさせるよ 」
「 腕輪を着けるだけで霊観が高まるなら、欲しがる人が出てきそうじゃないか?
盗まれたり悪用されたりしないかな? 」
「 悪用は出来ないよ。
透さん以外には効果のないようにするし 」
「 出来るんだ?
オレの名刺もだけど、凄いなぁ… 」
「 惚れた? 」
「 なっ…ば、馬鹿っ(////)
何言い出すんだよ!(////)」
「 惚れてくれないんだ? 」
「 式神に惚れるわけないだろ!! 」
「 メスの姿になったら惚れる? 」
「 頼むから止めてくれよ!
ゲスくてクズな野郎が寄って来るだろが!! 」
「 そう?
野郎は駄目でもメスはいいんだ?
ふ〜ん……。
惠梦に近付くメスの子宮、破裂させちゃおうかな 」
「 おい!
絶対するなよ! 」
「 どうして?
体内で破裂させるから事故にも事件にもならない。
惠梦は疑われないよ。
安心して♪ 」
「 頼むから、そういう物騒な事をしないでくれよ! 」
「 …………もしかして脳味噌を腐らせた事を怒ってるの?
あれは相手が悪いんだよ。
ワタシの惠梦を押し倒すから──、 “ めっ! ” しただけだよ 」
「 あの時は助かったけど……、脳味噌を腐らせたのは、やり過ぎだ!! 」
「 ワタシは助けたくなかったけど、惠梦が泣いて懇願するから修復したよ。
あれでチャラにしてくれたんじゃないの? 」
「 玄武を庇ってチャラにしただろ!
はぁ……死ぬまでベッドの上で寝たきり生活なんて不憫だよ… 」
「 従えている式神の忠告を無視して、惠梦を押し倒したのが悪いよ。
幾ら惠梦が可愛いからって──。
死んで当然だったのに…生かしてるなんて……目障りで仕方無い 」
「 …………押し倒されただけで何もされてないんだから良しとしてよ… 」
「 どうして許せるの?
ワタシには解らない 」
「 された事は許せてないよ…。
玄武が怒ってくれたし、ちゃんと報復もしてくれたから(////)
だから、余計に不憫に思えて……。
同情…って言うのかな?
謳歌する筈だった楽しい未来を奪われたわけだし…可哀想だなって…… 」
「 ふぅん?
優しいね、惠梦は… 」
「 …………玄武…。
…………ちゃんと惚れてる…から(////)
オレの為に人間を殺さないでくれよ… 」
「 そう?
惚れてくれてるの?
ふふふ(////)」
…………玄武の機嫌が直ったみたいで良かった。
まぁ、オレの知らない所で十二支を使って始末してるんだろうけどな……。
オレには玄武を止められない。
玄武はオレの〈 守護り手 〉だけど、オレは玄武の主じゃない。
玄武の主は玄武を作り出した陰陽師の眞小呂──前世のオレだ。
霊魂が同じで、生まれ変わりだと言っても、玄武の主にはなれない。
オレが玄武に出来るのは、 “ 命令 ” なんかじゃなくて、 “ おねがい ” なんだ…。
玄武を従えていないオレには玄武を言霊で縛る事は出来ない……。
オレが玄武の主になれたら、言霊で玄武を縛り付けて…オレだけの玄武に出来るのに……。
悔しい…。
言霊よりも遥かに強力な魂の契約で玄武を縛っている眞小呂……。
無名だったのに安倍晴明よりも強力な術者だった眞小呂……。
安倍晴明にも届かないオレが、眞小呂に敵う日が来るわけない……。
「 惠梦、曽井子駅が見えて来たよ 」
「 うん…。
…………何か今にも降りそうな天気だな。
さっき迄は日が照ってたのに… 」
「 曽井子駅の空気は淀んでるからね。
天気を左右する程の淀みではないし、雨は降らないよ 」
「 そうか?
なら、いいんだけど… 」
「 惠梦、姿を隠す術と防音の術を掛けるよ。
ワタシから離れないようにして 」
「 分かった 」
玄武はオレを中心にして、半径1mの結界を張ってくれた。
「 これで駅員達や利用者達に気付かれずに調査が出来るよ 」
「 姿も見えなくなって、声も聞こえなくなるなんて凄い術だな 」
「 そう?
陰陽師なら誰にでも使える術だよ 」
「 そうなんだ? 」
「 行こうか 」
「 だな 」
玄武は式神の姿に戻っている。
2m近い高長身で白銀髪と紫瞳の美し過ぎる式神……。
何で眞小呂は玄武の容姿をこんなに美しくしたんだろう??