♥ 蒔邑寺社 4 / 情報収集 4
「 えっ?!
マジなの?!
それって拙いんじゃ…… 」
「 かなり拙いね。
荒れた無縁墓地を更地にして曽井子駅の建設がされたみたいだね。
…………無縁墓石を撤去した後、地中に埋まった遺骨を掘り返す作業は……されてないね 」
「 供養は?
荒れてても無縁墓地なんだから、作業前に供養するだろ?
土地を清める為の供養とか、無縁墓石の場所を移す作業前の供養とか、骨を掘り返す作業前の供養とか、建設作業前の供養とか──、良くは知らないけど業者が供養をするもんなんだろ? 」
「 供養をされたとは書かれてないよ。
簡単なお清めの御祈祷だけみたいだね 」
「 マジなの??
それって……相当ヤバいんじゃ…… 」
「 …………これはワタシにも手に負えない案件かも知れないね… 」
「 ど、どうするんだよ?
だからって知らん顔は出来ないだろ〜〜〜 」
「 慰霊碑も建てられてなければ、祠もない……。
淀んでいる曽井子駅は昔から恰好の餌場だったみたいだね 」
「 恰好の餌場って……野良式神の? 」
「 悪霊,怨霊,死霊が引き寄せられ易い場所になってるからね。
野良式神は淀んだ場所に吸い寄せられるから──。
うん…、少し厄介かな 」
「 …………マジかよ… 」
「 心配しないで惠梦。
昔は今より杜撰な業者が多かったし、珍しくないんだよ。
マトモな業者なら、きちんと供養するから安心して 」
「 う、うん…… 」
「 曽井子駅の建設中には様々な形で事故が起きていたみたいだね。
業者の社長が気を狂わせて家族を惨殺したって書かれてる。
相当だね。
工事中に何人も死人が出てるし…。
──業者が変わってからは、きちんと供養がされたみたいだよ。
死人は出なかったけど、小さな事故は頻繁に起きてたみたいだけどね 」
「 供養しただけで随分と違うんだな… 」
「 後釜の業者が良識的でマトモな業者で良かったね。
曽井子駅が出来てからは供養がされなくなったみたいだね。
……人形が増え出した原因は、これかもね 」
「 供養をされなくなったから? 」
「 何か騒ぎを起こせば、鎮める為の最善の方法として供養をしてもらえる。
頻繁に小さな事故が起きていたのは、供養をしてほしい細やかな合図だった──って所かな。
曽井子駅が完成したら、ぱったり供養をしてもらえなくなった。
供養をしてもらえるように人形を集め始めた──って所かな?
健気だね 」
「 供養をしてほしかった……。
それだけの為に…? 」
「 人間には分からないだろうね。
意思を持つ式神だからこそ分かる事だよ。
この依頼を惠梦に任せたのは正しい判断だったね。
他の陰陽師や退魔師なら問答無用で除霊して、大惨事になっていたよ 」
「 大惨事って……。
大袈裟じゃないのか? 」
「 ちっとも。
彼等の願いは【 きちんとした供養を営んでほしい。安らかに成仏したい 】と言う事が分かったからね。
安らかに成仏させる方法は必ず毎年、彼等の為に供養会を営む事。
除霊は彼等の願いも想いも無視して強制的排除する為の武力行使だからね。
敵として認識されてしまうのは仕方無いよ。
強い式神を従える陰陽師や退魔師なら、彼等を強引に力ずくで除霊させる事も出来るかも知れないけど、1人では難しいだろうね。
複数人で相手をしないと完全な除霊は出来ない。
除霊に失敗すると取り込まれる危険性もあるし、身体や意識を乗っ取られてしまう最悪の事態にもなり兼ねない。
術者の身体,意識,記憶を手に入れてしまったら……悪用される。
取り込まれてしまった術者を助ける術は無いから諦めないといけない。
本来はね、除霊なんてしない方がいいんだよ。
命懸けだし、態々彼等に上質な餌を与えてしまう行為だからね 」
「 …………だけど、除霊は殆どの祓い屋が当たり前にしてるよ。
『 除霊をするな 』って止めたって無駄だと思うけど? 」
「 やだな。
ワタシは別に止めはしないよ。
運が悪ければ餌になるだけだし。
惠梦が除霊に手を出さないでくれるならそれでいい。
惠梦以外の術者がどうなろうとワタシには関係無い 」
「 …………そ、そだな…。
オレには玄武が居てくれるから、除霊なんてしないよ。
うん、するもんか! 」
「 うん(////)
──和尚様には今まで通り、曽井子駅へ赴いて1年に4回の彼岸供養会を続けていただきたい。
和尚様の霊観を高める式具を授けます。
式具を身に付けて訪問彼岸供養会を営んでください 」
「 あ、あぁ…。
勿論、訪問彼岸供養会は、これからも続けさせてもらうつもりだよ。
親父に枕元に立たれてグチグチと嫌味を言われたくないからね!
はははっ 」
「 玄武、オレ達はどうするんだ?
曽井子駅には行くんだよな? 」
「 勿論、行くよ。
怒りを鎮める為には供養をする必要があるけど、その前に余分なモノを取り除かないといけないからね 」
「 余分なモノ? 」
「 曽井子駅へ行けば分かるよ。
惠梦、行こう 」
「 う、うん。
分かったよ。
透さん、曽井子駅の資料を見せてくれて有り難う 」
「 どう致しまして。
役に立てたみたいで何よりだよ 」
「 ──あっ、そうだ。
透さんにもオレの名刺を渡しとくね 」
「 ん?
名刺??
惠梦君、名刺なんて持ってるんだね 」
「 うん。
玄武に作ってもらった特殊な名刺なんだ。
名刺の裏に透さんの名前を書いてね。
その名刺はね、色が変わるんだよ。
色が変わるのが分かるのは、名刺の裏に名前を書いた人だけ。
もしも、陰陽師や退魔師に依頼をするような事が起きたら、オレの名刺を見せてあげて。
阿漕で悪徳な性悪陰陽師や退魔師に依頼しないで済むようになるから 」
「 そうなのかい? 」
「 うん。
仁義や人情が溢れてた時代の術者も若い術者に世代交代してるから、利己的な術者が多くなって来てるんだ。
その中から良心的で誠実,安心,安全に依頼を任せられる術者を探すのは大変だよ。
名刺の色が赤色なら危険、黄色なら要注意、青色なら正常、緑色なら安心,安全,信頼が出来る、黒色は完全にアウト──。
従えている式神が強くても性格に問題があって、口が達者な術者が多いから、騙されないでね 」
「 有り難う、惠梦君。
そんな機会があれば使わせてもらうよ。
だけど、良いのかい?
こんな事しても……。
同業者から嫌がらせとかされたりしないのかい? 」
「 大丈夫だよ 」