♥ 蒔邑寺社 2 / 情報収集 2
新駅長さんは猛反対を押し切って、親戚の清掃会社を呼んで強引に事を進めてしまったらしい。
…………うん、やっぱり人形を粗大ゴミに出させた前駅長を助けるのは止めよう!
オレは心に固く誓った。
「 えぇと…和尚様が前尚様のように訪問彼岸供養会をするようになったのは、駅長さんが代わったから? 」
「 あぁ、そうだね。
親父にも曽井子駅の人形の事は頼まれてたからなぁ 」
和尚様はキンキンに冷えているアイスコーヒーをグビグビと飲みながら「 クゥ〜〜〜、アイスコーヒー最高だな! 」とか言ってる。
オレ……ビールジョッキでアイスコーヒーを出されたの初めてなんですけど……。
飲み干せる自信がないよ……。
和尚様は、アイスコーヒーが好きみたいで、巫女さんにアイスコーヒーのお代わりを頼んでいる。
「 惠梦君もお連れさんも遠慮しないでグイグイ飲んでくれよ!
惠梦君、バニラアイスもあるよ。
アイスコーヒーの上に乗せるかい?
美味いぞ、アイスコーヒーフロート! 」
「 有り難う御座います… 」
オレに出されたビールジョッキに入ったアイスコーヒーの上にキンキンに冷えたバニラアイスが投下されたのは言う迄もない……よな?
「 僕にはねぇ、親父みたいに何かを感じ取とれる程の霊感はないんだよ。
親父の遺言で【 もしも、曽井子駅から訪問彼岸供養会と御焚き上げ供養を頼まれたら、厚意で受けてやってほしい。金は貰うな。金を貰ったら祟りに来るぞ! 】って言われてね。
和尚が『 祟るぞ 』って──可笑しいだろ?
遺言を聞いた時は思わず腹を抱えて笑ったよ! 」
「 は、はぁ…… 」
「 まぁ、それだけ親父にとって曽井子駅の事は思い入れが強くて心残りだったんだろうなぁ……。
もしかしたら、僕がちゃんと遺言を守っているか草葉の蔭からでも見張ってるかも知れないな! 」
「 ははは…。
有り得そうだね… 」
「 曽井子駅に対する親父の並々ならぬ思いは生前から知っていたし、僕にも何か出来る事があるなら力になりたいと思っていたよ。
出掛ける時は必ず利用する駅だし、僕も子供の頃から人形の前を通って通学していたからね。
確かに不気味ではあったけれど、人形がある光景が当たり前で、十数年も見慣れていた所為だろうね、ないとないで寂しく感じてしまったよ。
駅自体はスッキリして風通しも良くはなったと思ったけど…、やっぱりねぇ……。
心の何処かで【 人形達は見守っていてくれていたんじゃないか 】って思ってしまったりね……。
だから、人形がまた曽井子駅に現れるようになった時は、…………不謹慎だと思うけど、ちょっとだけ嬉しく思ったんだよ… 」
「 人形が撤去されてから曽井子駅で良くない事が起こり始めたんですよね? 」
「 そうだね。
一時期は駅長命令で色々な策を講じて誤魔化していたみたいだけどね。
ただでさえ利用客の多い駅だったのに、前駅長は欲を掻いたのかな?
客寄せに利用するようになってね、前駅長は曽井子駅の恩恵に肖れて上機嫌だったらしいよ。
イメージキャラクターまで用意したぐらいだから、相当だろうね 」
「 前駅長さんや清掃会社に不幸な事が起こり始めたのは何時頃か分かる? 」
「 さぁ…そこ迄は知らないな…。
……あぁ、そうだ!
前駅長が現駅長に交代する事になったのは、前駅長が事故に遭って大怪我をしたからだよ 」
「 大怪我?
どんな事故なの? 」
「 いやね、僕も駅員から聞いた話なんだけど……、誰かに足首を掴まれたらしくてねぇ… 」
「 足首を掴まれた? 」
「 気が付いたら階段の下で仰向けで寝転がっていてね、両足に違和感を感じたそうだよ 」
「 両足に違和感?? 」
誰かに足首を掴まれた?
人間に足首を掴まれる……妙だよな。
もしも、前駅長が歩いていたとするなら、人間が足首を掴むなんて無理だ。
相手は “ 誰か ” じゃなくて十中八九 “ 何か ” だろう。
気が付いたら階段の下で仰向けで倒れていた……。
何かに足首を掴まれてから、何が前駅長に起きたんだろう?
両足に違和感……嫌な感じがする!
「 何でも、切断しないといけない程の大怪我を負っていたそうだよ。
直ぐに病院へ運ばれて緊急手術をしたけど、時間が経ち過ぎていた所為なのか……、結局ね太股から切断する事になったんだ。
前駅長は酷くショックを受けてしまったらしくてね、そのまま入院する事になったらしいよ。
車椅子生活になった途端に精神異常者に変わってしまってね、今は精神病院に入院しているそうだよ 」
「 ……両足を切断しないといけないぐらいに時間が経ち過ぎていた──って言ったよね?
発見が遅れたの? 」
「 いや?
救急車を呼んだ駅員は悲鳴が聞こえて直ぐに駆け付けたらしいよ。
悲鳴は女性の声だったらしいけど、悲鳴を上げた女性の姿は何処にもなくて、階段の下で仰向けに寝転がっていた前駅長を見付けたそうだよ 」
「 …………不可解な事故…って事かな? 」
「 まぁ、そうなるのかな?
前駅長の家族は前々から不幸な目に遭っていたらしいから、『 階段からの転落事故も不幸の1つなんじゃないか 』って噂になったそうだよ 」
「 …………両足を奪うなんて悪質だね…。
自業自得な気もしなくはないけど… 」
「 新駅長に代わってからは、『 また訪問彼岸供養会と御焚き上げ供養をしてくれないか 』って声が掛かってね、受ける事にしたんだよ 」
「 そうなんだ? 」
「 ──だけど、親父みたいにはいかないよ。
未だ事故にはなってはいないけど、 “ 怪奇 ” だなんて言われるような事が曽井子駅で起きているんだからね…。
誰でも良いから、僕の代わりに何とかしてほしいよ。
藁にもすがりたい気持ちだよ。
息子には得たいの知れない怪奇なんてのには関わってほしくないんだよね 」
「 和尚様、安心してよ。
──って言うのは未だ早いかも知れないけど、曽井子駅の事は玄武とオレの方で何とかしてみるから 」
「 そうかい?
いやぁ、助け船とは君の事だね、惠梦君!
アイスコーヒー、お代わりするかい?
コーヒーゼリーもあるよ。
あぁそうだ、アイスコーヒーゼリーフロートなんてどうかな?
美味いよ!
ウエハースとポッキーも付けてあげるよ。
ヒヨメちゃん、アイスコーヒーゼリーフロートを作って惠梦君に持って来てくれる?
ウエハースとポッキーも忘れないで 」
「 は〜い、透さん 」
「 父さん??
娘さんなの? 」
「 いやいや、違うよ。
ヒヨメちゃんは優の従妹でね。
巫女のバイトをしてるんだよ 」
◎ 訂正しました。
上手いよ ─→ 美味いよ