♥ 蒔邑寺社 1 / 情報収集 1
──*──*──*── 蒔邑寺社
旅館で朝食を済ませたオレは玄武と共に蒔邑寺社へ向かった。
蒔邑寺社で働いている巫女さんに案内されて、和尚さんと会う事が出来た。
巫女さんは実体化している玄武の容姿をチラチラと見ている。
だっさいグルグル眼鏡を掛けてる玄武だったら、きっと巫女さんは玄武に見向きもしてないんだろうな〜〜〜。
次から玄武には、だっさいグルグル眼鏡を掛けさせよう。
現和尚さんが玄武とオレを迎えてくれる。
気さくで話し易いフレンドリーな和尚さんで吃驚した。
目の前の和尚さんに向かって「 和尚さん 」は失礼だろうし、「 和尚様 」って呼んだ方がいいのかな?
「 初めまして、和尚様。
オレは瀬圉惠梦です。
退魔師の家系の息子で、退魔師のタマゴです。
今回は曽井子駅で頻発している不可解な出来事の調査に来ました。
和尚様が曽井子駅へ訪問彼岸供養会されていると聞いて、過去と現在の曽井子駅について知っている情報があれば教えて頂きたくて── 」
「 あぁ〜〜〜……そういう堅っ苦しいのは止めてくれないかな?
聞いてるだけで肩が凝って来ちゃうんだよね。
無理言って悪いけど、普段通りの砕けた感じで話してくれるかな? 」
「 えぇと……はい…。
分かりました… 」
「 退魔師のタマゴか。
夏休みに駆り出されるなんて大変だねぇ。
小学生なのに偉いね 」
「 …………オレ…高校生です…。
16歳です… 」
「 えぇっ?!
そうだったのかい??
それは…悪かったね…。
息子も高校生なんだよ。
来年の3月に卒業するんだけどね 」
「 そ、そうですか… 」
「 然し……小さいのに退魔師のタマゴとは偉いねぇ…。
まぁ、こんな所で長話もアレだからね。
上がって上がって! 」
「 お言葉に甘えてお邪魔します 」
フレンドリーで砕けた和尚様に手招きされた玄武とオレは、客室に通された。
和尚様は曽井子駅について知っている限りの事を話してくれた。
曽井子駅の訪問彼岸供養会を始めた前任の和尚様は、父親らしい。
現和尚様は、父親── 前尚様って事にした ──から和尚を引き継ぐ事になった時に、曽井子駅の事を聞かされていたらしいけど、全てを聞かされていたわけでもなかったみたいだ。
曽井子駅に人形が置かれるようになった経緯も理由も前尚様すら知らなかったみたいだ。
前尚様は地元の人じゃなくて、此方に派遣された臨時の代理和尚だったらしい。
だから、最寄り駅の曽井子駅に人形が沢山置かれている光景を子供の頃から見ているわけじゃなかった。
前尚様が代理和尚をする事になって引き継ぎをする事になった時、前々尚様から曽井子駅にある何故だか増え続けている人形については詳しくは教えられなかったみたいだ。
前々尚様から唯一言われたのは、【 理由は分からないけれど、決して人形を処分してはいけない 】と言う事だったらしい。
人形を処分した人に対して何かしらの不幸が必ず降り掛かるらしいからだ。
【 可能ならば、出来る限り曽井子駅の人形には関わるな 】とも言われたんだとか。
結局は見兼ねた前尚様は、前々尚様の言い付けと言うかアドバイスを破って、曽井子駅の人形に関わってしまったわけだけど…。
普段から利用する最寄り駅だし、駅長さんや駅員さん達は蒔邑寺社を支えてくれる大事な檀家さんでもあるから、困っている檀家さん達の為に自分が出来る事があるなら、何か力になりたいと考えたのかも知れない──らしい。
御焚き上げ供養をしても前尚様の身に不幸が降り掛かるような事はなかったらしい。
勿論、蒔邑寺社で勤めるお坊さん達や巫女さん達にもだ。
曽井子駅で働く駅長さんや駅員さん達にもこれと言った不幸に見舞われる事はなかったみたいだ。
ただ、人形を御焚き上げ供養をした日から1週間の間に怪奇とは言わないももの原因不明の何かが起こるようになったんだとか。
何度か御焚き上げ供養を続けてみた結果、【 原因は曽井子駅から人形を離したからじゃないのか 】って噂が何処からか流れ始めたらしい。
曽井子駅で意味不明な現象や事象が起こり続けるのは困るから、御焚き上げ供養は一時中断される事になった。
前々尚様は霊観が強かったみたいだから、曽井子駅と人形の関係性に何かを感じ取ったのかも知れない。
それが一体全体何なのか──、分からなかったとしてもだ。
一旦は諦めて手を引いた前尚様だったけど、やっぱりこのままにはしておけないと思ったのか、厚意と称して曽井子駅へ1年に4回の彼岸供養会を通いで営むようになったそうだ。
駄目元でもいいから、困っている檀家さん達の為に和尚として何かをしたかったんだろう…。
1年に4回の彼岸供養会が効いたのか、曽井子駅で不可解な現象や事象が起こる事がなくなって、何故だか人形も増えなくなったんだとか。
10年ぐらい経ってから、試しにって言うのもアレだけど、人形の御焚き上げ供養をしてみる事にしたらしい。
4回目の冬季彼岸供養会を終えてから、1 〜 5体の人形を蒔邑寺社へ運んで、御焚き上げ供養をして曽井子駅の様子を伺っていたみたいだけど、1年間これと言った奇妙で不可思議な現象や事象は起こらなかったみたいだ。
それからはずっと訪問彼岸供養会と御焚き上げ供養を続ける事にしたらしい。
毎年1 〜 5体の人形を御焚き上げ供養に出して確実に人形の数を減らしている筈なのに、何故だか人形が無くなる事はなかったみたいだ。
駅の利用客に被害が出ないなら良しとして、人形が増えるぐらいは大目に見ていたらしい。
問題視されるような事が起きなくなってやれやれと思ってから40年ぐらい経った頃に、問題の駅長さんが曽井子駅の新しい駅長に就任してしまったらしい。
1年に4回の訪問彼岸供養会を断られ、御焚き上げ供養も断られ、「 気味悪い不気味な人形は此方で総撤去して処分するから、今後は曽井子駅に一切関わらないでくれ 」とも言われてしまったらしい。
そんな事があって、前尚様は曽井子駅への干渉を出来なくなってしまったわけだ。
前尚様だけじゃなくて、前任の駅長さんも働いている駅員さん達も人形を強制撤去する事には猛反対したらしい。