♥ 旅館 3 / 久遠実成
「 はぁ〜〜〜……嫌だなぁ……。
〈 久遠実成 〉からの被害なんて被りたくないよ!!
よし、〈 久遠実成 〉が関係してたら、直ぐに撤退しような! 」
「 撤退するのは良いとして、理由は説明しないといけないよ。
惠梦、駅員達にも分かるようにちゃんと説明出来る? 」
「 …………自信ないかも。
──どうか、どうか、どうかっ!!
怪奇の類いの原因が野良式神や魑魅魍魎の仕業でありますようにっ!!
お願いします、神様,佛様!!
何卒、何卒ぉ〜〜〜!! 」
「 ──ぷっ。
惠梦、面白い♪
そんな事しても怪奇の原因も犯人も変わらないのに 」
「 煩いよ!
こういうのは気分なんだよ!
こういう無駄な神頼みも時には必要なの!! 」
「 ふぅん?
そうなの??
ワタシが居るのに… 」
「 玄武は〈 久遠実成 〉じゃないだろ〜〜。
はぁ……もう寝る 」
「 うん、お休み 」
玄武は式神だから、実体化していても飲食,排泄,睡眠を必要としない。
抑、飲食,排泄,睡眠をする式神が居るなんてオレは聞いた事がない。
そんな式神が居たら、直ぐさま取っ捕まえられて解剖だな。
可哀想だ。
オレには関係無いけどな!
「 玄武、十二支と四聖獣は呼び出せるの? 」
「 十二支は可能だけど、四聖獣は難しいかな。
寅,辰,酉を鬼神化させないといけないからね 」
「 鬼神化させれないのか? 」
「 うん…。
餌がないからね 」
「 餌…かぁ……。
魂と心臓だっけ?
何処かで調達は出来ないのか?
玄武なら簡単に出来るだろ? 」
「 いいの?
惠梦が良いなら幾らでも用意するけど? 」
「 …………人間とか動物は駄目だからな!
蠅とか蚊とかゴキブリとか害虫の魂と心臓にするんだぞ! 」
「 そんなのつまらないよ… 」
「 魂と心臓には変わりないだろ! 」
「 別に良いけど…。
せめて在来種の天敵になってる外来種にしてくれないかな?
外来種が減ると皆喜ぶみたいだし 」
「 …………それって………外国人じゃなくて魚の事だよな? 」
「 どうしてそう思うの? 」
「 日頃から日本人,外国人って区別してるだろ! 」
「 し…してませんけど? 」
「 何で敬語になってんだ!
魚にしとけ! 」
「 ………… 」
「 何とか言えよ! 」
「 お休み、惠梦 」
「 誤魔化すな! 」
「 眠れるように子守唄でも歌おうか? 」
「 要らないよ… 」
玄武は頼りになるし、心強いんだけど……、話してると偶にだけど、どっと疲れるんだよなぁ……。
「 …………玄武…、呉々も人間の魂と心臓だけは、駄目だからな! 」
こういう大事な事は、ちゃんと釘を刺しとかないといけない。
玄武が守ってくれるかは分からないけどな……。
玄武が敷いてくれた布団の中に入る。
玄武の分も用意されているけど、玄武は使わないんだよなぁ。
玄武はオレの〈 守護り手 〉だから、オレからは離れられない。
と言うか、玄武自身がオレから離れないだけなんだけど…。
十二支の寅,辰,酉を四聖獣にする為には餌となる魂と心臓を集めないといけないんだけど、多分他の十二支にさせる気なんだろうな。
四聖獣って言っても「 三聖獣じゃないか! 」って最初は思ったけど──、玄武が鬼神化するには、寅,辰,酉が鬼神化して、白虎,青龍,朱雀が揃わないといけないんだ。
だって十二支には巳が入っているけど、亀が入っていないからだ。
巳に餌を与えても鬼神化はしない。
巳はあくまでも単体で巳だからだ。
白虎,青龍,朱雀が揃えば、玄武が鬼神化して、べらぼうに強くなる。
普段、玄武の姿を見れない人達にも玄武が見えるようになるし、玄武の声も聞こえるようになる。
玄武が退治した姿を目撃されたら、オレが凄いんじゃないって事を皆に知ってもらえる!!
これはチャンスだ!
この機会──チャンスを逃してなるものか!!
玄武に大活躍してもらって、オレは壁の後ろに隠れて見守らせてもらうんだ!
絶対に最前線には出ないんだからな!
オレは掛け布団を頭から被って寝る事にした。