厨二病、働く。 1
「上手く王都に目を付けられずに働ける場所、ね~」
店主は葉巻を咥え一服する。まあ大体は先ほどのことだろうが、
「できればこう、『冒険者ギルドとかからもらえる依頼』とか」
「ああ、それならあるぞ」
「ま、都合よくうぅぅぅぅぅぅぅうあるんかい!?」
一応定番どころの『冒険者ギルド』を出してみたものの、存在していて、さらにそれがこんなチンピラいわく酒場にあるとは。
「実際には『冒険者ギルド』の残飯処理がメインだな。ここにゃあ表を歩けねえ馬鹿や、事情あって『ギルドカード』が作れないやつもいるが、ま、表の奴が受けたがらねー依頼を受け付ける場所だ。もっとも、ここで受け付けなければ本当に依頼不受理としてお蔵にすら入らず終わるがな」
「なるほどな」
大体、ゲームでたまに疑問に思ったことはある。「受ける人のいない依頼はだれがどうするのか」と。確かにずっと張り出せるほどやさしい世界なら、ギルドではなく掲示板だけあればいい。やはりあれだろう、値下げ処分みたいなものあるかもしれないな、と。
そう考えると、この世界はかなりいい世界かもしれない。チンピラとはいえ、そういった依頼を受けるなら―――
「......それ、チンピラに逆にたかられたりってのはないのか?」
「それは絶対にないね」
と店主ではなく、その後ろのドアから褐色美人な女性が入ってきた。瞬間、店の奴らは盛大にアネサン、アネサンとライブ会場みたいに歓喜するが、ウインク一つで静まる。
「あら、騒がしいと思ってきてみたら、ずいぶんと可愛らしいお嬢さんと坊やがいるわね。まさかいじめてないだろうね?」
と店主を睨む。店主は慌てて否定し、それを見たサクラが文句を言おうとしたが俺が止めた。
「......いえ、社会勉強を少々させてもらっただけですよ。ガキならではのこの地での対応方法を、ね?」
と後ろに同意を求めようとしたが、なぜか全員視線を背けられた。本当になぜ?
「ま、ちょっとした社会のあぶれガキってことで理解してくれるといいです」
「『あぶれガキ』ね......うん、じゃ、これを出会いの記念に上げようか」
と戸棚から一瓶を持って、それをコップに二つ注ぐ。
「安心しな。それは『そおだ』って、最近仕入れた酒じゃない飲み物だ。ま、慣れなければむせてしまうけどね」
とコップを目の前に置かれたので覗くと、無色透明で気泡が出た飲み物、まんま『ソーダ』だ。
後から出されたお菓子も『ぽてち』とか『かきのたね』とか、どうやら食べ物の名前の大半は改めて覚えなくていいとわかり、しかしこれが偶然か、召喚時の副作用なのかはわからない。
一応【全鑑定眼】を使用したサクラが問題ないと判定したため一応俺から食べたが、もしかしたら売ってるポテチよりもうまいかも、と二人で平らげる。
「......で、さっきのことだけどね。ここまで来た貴方達なら分かるわよね? 本当は王都が一掃しようとさえ考えそうなくらいどうしようもない奴らが集うのよ」
辺りを今一度見るが、まあ反論のしようがない荒れようだ。
「だけどね、それでもチャンスはだれにでもあるべきだと思うの、とんだハジキ者でもね」
するといつの間にかいなくなってた店主が、丸焼肉を目の前に置く。
「さっきは悪かったな。だがわかってほしいこともある。個々の奴らは本気で馬鹿な奴らではないんだ。ただ今までいた場所でいろいろあってここに来るしかなかった奴らだ。こいつも、俺も」
上手い肉を、空になるサクラの皿にのせながら俺も食べる。ああ、やっとまともな飯だ。正直炭酸空腹時に飲むと胸焼けするんだよな。
「それで、俺の幼馴染に頼んでこうして『裏ギルド』を兼業しているんだ。ま、だからただ迷い込んだだけの奴には恐怖を植え付けて近づけないためだったが」
「俺は逆に投げ飛ばした、ってことな」
すると女性はキョトンとして店主をみて、ばつが悪い顔をするから爆笑されてしまった。
先程サクラを止めたのは、なんとなくそれを悟ったからだ。ま、悪い人じゃないってことがわかれば気を張る必要はもうない。
「ハハハハハ! それであの音かい!! いやー、『ジャガーノート』を彼に上げたら!!」
「『ジャガーノート』?」
俺は首をかしげると、それまで静かだったサクラが片足をカウンターにのせ、片目を隠してかっこつける。
「......『暴走せし狂大な力』、その称号を持つものを止められるものは数少なく、一度でもそのものの怒り買えば、深淵の彼方まで追い、屍となるまで叩きつけるであろう.........」
「へー、よく知ってるね。かなり昔だから知らないと思ってた。」
「「へ?」」
瞬間俺はサクラを見るが、彼女は姿勢よく座って目を泳がしていた。こいつ、デタラメしゃべったな。店主は女の子に知られていたのがうれしかったのかすげー照れてる。責任もって最後まで乗ってやれよ。カウンターには乗らずに。
「まあとにかく、これは表との『信頼』が必要だからおいそれとは依頼を受けさせないわよ。模試受けて悪評を立てた奴は」
とニコッとされた。あ、これ店主か底見えねえアネサンにお灸据えられるなこれ。周りもう氷点下で寒いんだけど。
「...とまあ一通りの説明は終わりね。で、君たちだけどね......」
と今度は細目で俺たちを見比べ、何か納得したのかニコリと一言、
「合格よ。何の依頼がいい?」
とカウンターの引き出しから【C】のバインダーを一冊置かれた。
「あ、そうそう。あたしは『カティー』、でうちの店主で亭主の『ゴルボ』よ」
と説明され、サクラは今日一の驚きを見せた。ま、会話からして定番だな。