断じて進行形ではない! 2
「……お、起きてます!!」
俺は授業中に先生に揺らされたと勘違いして飛び起きる。
「あ、やっと起きた!」
見ると、揺らしていたのは委員長の『日野 桜』だった。
「ここ、学校じゃない……よね?」
と聞かれあたりを見回す。見慣れたクラスメイト、見慣れた机と椅子。しかしそれ以外は明らかに違う。
真っ白な天井、数十の彫刻、見たことない文字……まあ日本ではないな。
「……夢か」
俺はため息と共に再び愛用の机に突っ伏した。
「ようこそ救世主様方。こちらはどうぞ」
その声に顔だけ向けると、扉の向こうに神官みたいな服装の女が一人立っていた。チッ、B -か。
「ほら、行こ?」
と彼女に腕を引かれ、俺は渋々恋しき机と別れを告げた。
「ようこそ救世主様方! 私は国王『エルガ・ラル・フィール』だ」
いかにも王様、みたいに赤マントに白髭ボサボサなお爺さんがいた。定番だな。
「どう思う?」
隣にいるサクラは、しかし日頃のクラスでの彼女からは想像できないほど目を輝かせていた。
『日野 桜』はモテる。
まず容姿がいい。大和撫子を少し可愛くした感じの黒髪スレンダー。
次に頭がいい。一般常識から国際英語、果てはおばあちゃんの知恵クラスまでだ。
さらに運動ができる。中学時代は確か、一年でサッカー、二年でバスケ、三年で剣道と、毎年のように部活を変えてはいたが、どれも県大会に行くほど。
そしてコミュ力が高い。前述の通り部活を変えては県大会なのに、怨み一つ買わない立ち回りができる。
まあ、ハイスペックとは彼女にあるべき言葉だろうな。
最も、それだけが彼女の全てではないが……。
「……異世界だろうな、やっぱり」
俺は彼女にそう告げる。あ、輝き増した。
「やっぱりそうだよね! そうだよね!!」
と普段の冷静さがない彼女にクラス中が混乱する。無理もない。明らか声音も表情も別人クラスだから。
「……おほん!」
流石に耐えかねたのか、王様は咳払いをして続けた。
「……この国、いや、この世界は今危機的状況にある。『魔王』が攻めてくるのだ。今すぐではないが近々に……そこでお主たちにこの世界を救ってもらいたく、彼女に『召喚』してもらったのだ」
と先ほどの神官を指して続ける。ほう、彼女が呼んだのか。
「この国の者たちには対抗する戦力が不足している。だが安心して欲しい。お主たちは召喚時に『スキル』を授かっているはずだ。《ステータス》と唱えてみたまえ」
ほう、どうやら最近のラノベばりに親切設計のようだ。
俺はあえて《プロパティ》と唱えた。
「……あり?」
反応なし。ああ、ちょっと真似しただけだが駄目なのね。
「《ステータス》」
……………あれ?
「《ステータス》! 《ステータスオープン》!! いでよ《ステータス》!! 《社会的地位》! 《状態確認》!!」
……………………………………でない。和訳してもでない。
やめろ委員長。見るな、俺を困惑した目で見るな。内心すごくテンション上げていたのに残念すぎる結果を見るな!
「…………よし、あとでGMに問い合わせるか!」
「これゲームなの?」
知らん、とは一応言わないでおこう。なんか口調に怒気を混ぜてしまいそうだから。
すごく周りが喜んだり悔しがったりしている中、王は次の指示をした。
「今から各々に、職業などを加味して配属する。まずは配属先を紹介しよう」
と、横の扉から複数人が入ってきた。甲冑だったり、ドレスだったり……。
「紹介する。まず右から商業組合の組合長『エスト・ゴルド』、《王都騎士団》総団長『ガロン・ブライド』」
細身で少しお洒落な男と、分厚い鉄鎧を見に纏った巨体がお辞儀する。俺も礼は尽くすべきとお辞儀すると、その二人は少し笑った気がした。あれ、馬鹿にされたか?
「次に我が子達。三女『サラ・ラル・フィール』!」
真ん中の少女がお辞儀する。見た目かなり可愛い類だと思う。二次元嫁クラスだろうな。
「サラはこの国の誰よりも魔法に長けた娘、だから騎士団の魔法師団の管理を任せている。魔法職に長けた者はサラに配属する」
彼女が再びお辞儀をし一歩下がる。
「続いて長男、王権第一候補『ラルク・ラル・フィール』!」
少し童顔で、多分年下である少年が一歩前に、ぎこちなく出てきた。
「こやつには王になる自覚を芽生させるべく、ここしばらくはガロンの元で修行させた。剣の腕はガロンが保証する。未来の王を支えて欲しいと思う」
おそらく最前線に叩き出される奴だろうな、と若干ひ弱そうなラルクを同情する。てかそこに配属は嫌だな。
ラルクが下がり、あと一人が前に出た。
しかし、王の眉間がピクッと動く。
「……カティス、クリスはどうした?」
「はいお父様」
と王に身を翻し頭を下げる。
「クリスはあまり乗り気ではないようで、そのような者が今無理にここに連れてきても救世主様方を不安がらせると思い、諦めました」
「……そうか。わかった、続ける」
「はい」
と再びこちらに体を向けた彼女は、かなりの美人だった。顔立ちはよく、大人な色気を放ち、おしとやか。すでに男子だけでなく女子すらも虜になっている。
「私は我が国『フィール』の第一王女『カティス・ラル・フィール』でございます。第二王権候補ですが、私も国のため、戦いたいと思います。どうか、お力をお貸しください」
と一礼するが、俺は見逃さなかったぞ。
彼女は豊満な胸をわざと強調するようなお辞儀の仕方をした。悪女だ、きっと。
「……綺麗だけど、なんか怖いね」
とサクラも何か感じたのか不安そうにこちらを見る。
「ま、どう考えても今じゃ答えは出ねーよ」
とだけ言い、ひとまずこの急展開を考えることにした。