ことはとこなつ
わたしのおじいちゃんは銀行強盗?
「銀行強盗の日」と云うのがあるのをご存知だろうか? 2月13日である。1866(慶応2)年のこの日、当時の人々に「西部のロビン・フッド」ともてはやされたジェシー・ジェイムズ兄弟が、初めて銀行強盗に成功した日です。別にこの日に銀行強盗をしろと言っているのではない。
ことは
p1 おじいちゃんは名前を間違える名人
私の名前は ことは。ひらがなのことは。
妹の名前は こなつ。ひらがなのこなつ。
おじいちゃんは、こなつの生まれたお祝いに
〈こはる〉と書いたそうな。
おじいちゃんと私は生年月日が同じ。
平成のHと昭和のSが違うだけ。だから
顔を見る前から、好きになったって・・
顔を見てからもっと好きになったと言ってくれた。
私の顔の特徴は、ともかく目が大きいこと。
お前の目を見ていると吸い込まれると、おじいちゃんはよく言っていた。
こなつは 目が切れて長い。〈おばちゃん〉そっくりの目だ。
私は恥ずかしがりでおとなしい(自分で思っている)のに、
こなつは 元気で こわいもの知らずだ。
おんなじ姉妹なのに こんなに違うと思ってしまう。
私は中学1年生になった。こなつは 小学校4年生。
おじいちゃんは神戸に住んでいて、季節に一回あいに来る。
おばぁーちゃんは同じマンションの11階に住んでいる。
だから、毎日あっている。
「おじいちゃんとおばぁーちゃん、どうして一緒に住まないの?」と、お父さんに訊いてみた。「おじいちゃんには、神戸に家があるから」とお父さんは答えたが、そんなの 答えになってない。
私の成績?一学期が終わって、社会5 数学5 国語4 英語4 理科2だった。
理科はどうしてもダメ。どうしてかなぁ?
通知表を見て、お父さんは「おじいちゃん似だなー」と言った。
おじいちゃんは社会と数学はいつもよく出来ていたらしい。
「お父さんは?」と聞いたら、「オール5」と言ったけど
「オール3」くさい。
こなつは お父さんに似て、「オール3」。元気だけ5。
中学校になって 好きな男の子が出来た。
小学校の5年の時 好きになりかけた子がいたけど
バレンタインの1週間前に 転校でいなくなってしまった。
最近、学校に行くのが毎日楽しい。だ~れか?名前は秘密。
おじいちゃんは 転校していった子がいなくなったあくる日に亡くなった。
歳はえーと、72才。病名は心筋コーソク。
なくなる年の最後に来たとき、封筒に名前を書いてお小遣いをくれた。
こなつの封筒に〈こたつ〉と書いてあった。
お父さんは「親父、また間違えたー」と笑っていた。
それから私は、こなつとけんかしたとき〈こたつ!〉と呼ぶことにした。
p2 おじいちゃんは銀行強盗?
私が中学生になったら 渡してくれと
おじいちゃんからのUSBメモリーをお父さんから渡された。
おじいちゃんは1冊だけ本を出している。
自費出版で、『なんちゃら物語』という本だ。本当にこの名前なのだ。
それも、遺言で「何も残せなかったが、この原稿を残す。必ず本にしてくれ」と書かれてあって、仕方なくおばぁーちゃんとお父さんが本にしたのだ。
「装丁を良くしたので100万円もかかった」とお父さんはこぼしていた。
3000部刷って、定価1000円で全部売れた。
えーと、計算して200万円儲かった訳で、
「ことは」の名前で貯金しといたとお父さんは言ったけど
どうして こなつには ないの? そうだ私が貰ったとき
こなつに 半分上げればいいのだ。当分威張ってられるわけだ。
おじいちゃんの遺言かな?だから私は 金持ちなのだ。
お父さんの手元にあった本まで欲しいという人があって
家にはその本はない。原稿もお父さんが失ってしまった。
そんなに人気があったのにどうして増刷しなかったのだろう。
きっとお父さんは内緒で増刷して、へそくりにしたに違いない。
お父さんのやりそうなことだ。
今、夏休みパソコンの前で夢中でおじいちゃんの文を読んでいる。
おじいちゃんは、自分のことを一杯書いている。
おじいちゃんのお父さんのことも。おじいちゃんのお母さんのことも。
おばぁーちゃん、おばちゃん、そしておじいちゃんの弟さんのことも。
何故か お父さんさんだけ出て来ない。
「息子が一人いる」とだけしか書かれていない。
おばぁーちゃんと何故 別れて住んだのかも書かれていなかった。
おじいちゃんの人生は「波乱万丈」というよりは「波乱万笑」の人生だ。
ともかく、笑ってしまう。こなつも 中学生になったら読んだらいい。
笑ってばかりもいられない。
2011年の東日本の大災害の模様が克明に書かれ
原発について資料と意見が述べられていた。
残念ながら、おじいちゃんの言う通りにはなっていない。
おじいちゃんのことはお父さんから聞いていた事と一致するから
あまり嘘はなさそうだ。もちろん 小説だから脚色してあるけれど。
だがとんでもない文章が出てきた。
「孫、ことはと銀行強盗をしたという話だ」。その中で隠した場所が書かれてあった。
まさかと思ったが神戸に行ったとき(家は、今は空家となっているが、月に1回おばぁーちゃんが墓参りを兼ねて家を管理している)そこを見てみた。
あ~るではないですか。黒いカバンに札束で3000万円入っていた。
私はおばぁーちゃんにも言わず、元に戻した。
私の心臓はパ~ク、パ~クであった。
夏休みが終わろうというのに 私は憂鬱だ。
あのお金のことだ。おじいちゃんは本当に銀行強盗したのだろうか?
それなら、あのお金のことは誰にも言えない。
それとも、おじいちゃんのお金で 私に渡すために あんな原稿書いたのだろうか?
それでも、誰にも言えない。
ともかく、私が二十になるまではあのままにしておこう。
もし、家を売る話が出たら?
「おじいちゃんの家を売らないで!私 神戸大学に行くから残しておいて」と言おう。
p3 おじいちゃんと私はクサイ仲
私の名前は ことは。ひらがなのことは。
妹の名前は こなつ。ひらがなのこなつ。
おじいちゃんは、こなつの生まれたお祝いに
こはると書いたそうな。
憂鬱な 夏休みも終わって 2学期が始まった。
わたしの学校は 琵琶湖のそば。
サッカーのボールを蹴ったら 湖にはいりそう。
私は なでしこ 大津。サッカー部だ。
男子サッカーの○×君がシュートを打った。
あの足の素敵なこと ことはは ○きです。
こたつが 違った こなつが 泣いて学校から帰ってきた。
お父さんに 言っている いじめられたと・・。
私はビックリしてしまった。
オタクのお子様に 何回泣かされたことでしょうと
家に父兄の文句が何回もあって お父さん何回も頭を下げていたけれど
こなつが 泣かされたなんて
笑っている場合でない いじめた奴は 誰だ!
出てこいと 乗り込みたかったけど
私は 中学生 こなつの学校を卒業したんだっけ
だから 関係なぁ~い。
6年生の悪にいじめられていた同級生をかばったら
「生意気なやっちゃ 前からお前に目をつけてた」と
3人組みの 女の子に トイレに連れ込まれて ボコボコにされたそうだ。
殴られ、蹴られたそうだ。「こたつを 蹴っても 家やくな」なんだっけ
おじいちゃんが 昔 火の用心の話でしてたっけ
こたつを蹴らないで 蹴るならサッカーボール。
トイレで思い出した。あれは寒い2月 おじいちゃんとトイレの狭い箱の中で
3時間も一緒に居たっけ 銀行のトイレ 女子トイレ
私が 小学校行く前 四つか五つぐらいだったか おじいちゃんが大津に来て
公園で 一緒に遊んでたら オシッコがしたくなって
漏れそうと云ったら 公園の前に銀行があって
そこのトイレに 連れて行ってくれた
思い出した。
「ことは おじいちゃんのこれからすることに黙って ついてこれるかい 何があっても」
私は 「うん」とうなずいた。
「ここに座ってるんだよ」と 銀行のロビーの椅子に座った。
おじいちゃんが 窓口に行って何かを喋ってると思ったら
私を引っ捕まえて 窓口に連れってって ハンカチでかくした
何かを私の頭につきつけた。
窓口の女の人が 何か袋らしい物を おじいちゃんに手渡したみたい
おじちゃんと私は 一目散に 表に飛び出す振りをして
横手のさっきのトイレに駆け込んで
長い時間一緒に居たっけ こたつのトイレで思い出した
私のジャンバーを裏返して 出てっていいよ
おウチまで 一人で帰れるかな
私のジャンパーはリバーシブル。
おウチに帰って 暫くしたら おじいちゃんも帰って来て
ハイ ご褒美 私が大好きな チョコレートをくれたっけ
あれが ひょっとして おじいちゃんの 銀行強盗?
まさかね 今日の私はどうかしてる。
お父さんが こなつの件で 学校に行くと 息巻いている。
お父さん ガッバって!
おじいちゃんと私は昔からクサイ仲だったのかも知れないなぁー。
おしまい・・次はこなつです。
こなつ
p1 わたしは美人
わたしは こなつ
おじいいちゃんは わたしが生まれた祝いに
こはると 書いたそうな
わたしの名前は こたつ
ちがった ひらがなの こなつ
おじいちゃんが 間違って書いたばっかりに
わたしは おねぇーちゃんに こたつ呼ばわりされる。
そう みんなが 寒い時に あっためてあげる こたつ
そう考えれば この名も 腹立つこともない。
何かにつけて わたしは おねぇーちゃんと違って
おおらかなんだ。
おねぇーちゃんは 中学1年生
わたしは 小学校4年生
おねぇーちゃんは目が ぴんポン玉みたいに 大きくて
可愛い? 将来美人だと云われて いい気になっている
将来の 保障なんて あてになるかい
あの目は おばぁ~ちゃんゆずりだ。
私の目は 細長く 切れ長である
おばちゃん似だ おばちゃんは お父さんの 妹で
東京に住んで 社会保険労務士という資格を持って
キャリアーウーマンをしている。
ちぃちゃいときは〈ブス〉とお兄ちゃんにいわれたけれど
大丈夫、私みたいになるからと言ってくれた
それがたよりだ。
お父さんは ちっちゃい時 まぁーるい七色の帽子を被って
そら、中国の皿回しのアシストする女性
全くお前は『チャイニーズ』と云ったっけ
自分の娘に そんなこという親 あっか!
こなつは どうしてそんなに 美人にこだわるの
お母さんは 聞いたけど
美人と〈ブス〉では大きに違う。
すでに わたしと おねーちゃんは 差がついている
美人と 不美人とでは 生涯で1億円の差がつくらしい
お母さんの 本棚の中の本に そんなことが書いてあった。
1億円と云ったら 大金だ
こだわらない方が おかしいだろう
おばちゃんだってそうだ 社会保険労務士は掃いて捨てるほど
失礼、たくさんいても 美人労務士は少ないはずだ
おばちゃんが 香港 シンガポール 外国出張行けるのも
そのせいだと思う。
p2 わたしのお父さん
おじいちゃんが書いた文章があるらしい
こなつのことを どう書いてるか 知りたくて
読ませて欲しいと云ったら
「まだ早い、中学生になったらね」と、おねぇーちゃんは言った。
「まだ早い」は おねぇーちゃんのわたしへの 口癖だ
お父さんのことは どう書いてあったと聞いたら
「息子が一人いる」だけだったと云った。
それではお父さんが かわいそうなので
こなつが お父さんを語ります。しばらく 聞いてね。
お父さんは 背が高い 1メートル80はある。体重もでっかい
相撲が好きで 水戸泉とかの力士が好きで
高校生のころ 大阪場所がきたら けいこ場に見に行ってたそうな
あるとき「ぼく そんなに好きだったら 相撲取りにならへんか」
と、誘われた。
「ぼく、からは大きいんですが 全然力がないんですわ」と
情けない返事をしたと おじいちゃんは云っていた。
お父さんは めったに怒らない 夫婦喧嘩も 見たことがない
だいたいお母さんが何も小言を言わない。
男の人が怒るとか 手を出すとか言うけれど 女の口もたいていのもだと
おじいちゃんが 言っていたけど こなつもそう思う。
おばぁーちゃんの口に勝てる人は めったにいない
それで、おじいちゃんは怒る。
おばぁーちゃんは
「ああー、あの人は勝手に怒る人。 かわってるわねー こなつ」と言っていた。
だから、お父さんは おばぁーちゃんに逆らわない
いつも「ハイ、そうです 分かりました」
お母さんは おばぁーちゃんに西を向けと云われたら
いつまでも西を向いている人 腹の中は 何を考えているかしらんけど
そんなわけで 喧嘩と云ったらおねぇーちゃんとわたしぐらい
おねぇーちゃんは 年上のくせして 喧嘩したらお父さんに言いつける
怒られるのはわたし。「こら、こたつ」で終わるけど。
お父さんの話だっけ 1級建築士で 自分で事務所を開いている
1級建築士か 凄いと人は言うけれど 今は仕事も少なく
建築学校の先生のアルバイしているし 事務所と言っても
自宅マンションだ。
お母さんのお仕事がないとやっていけないみたいだ
お母さんは銀行に勤めている。入ったときは田舎銀行だったが
今では滋賀県を代表する銀行になって 今ならとっても入れないと
銀行のお仕事を大事にかんがえている。
おねぇーちゃんは優等生 わたしは 普通生
オール3は劣等生ではない
通知表見て「上がらんなぁー」と お父さんが云ったので
「下がらん努力も認めてください」と言っておいた。
p3
おじいちゃんが書いた文章があるらしい
こなつのことを どう書いてるか 知りたくて
読ませて欲しいと云ったら
「まだ早い、中学生になったらね」と、おねぇーちゃんは言った。
「まだ早い」は おねぇーちゃんのわたしへの 口癖だ
お父さんのことは どう書いてあったと聞いたら
「息子が一人いる」だけだったと云った。
それではお父さんが かわいそうなので
こなつが お父さんを語ります。しばらく 聞いてね。
お父さんは 背が高い 1メートル80はある。体重もでっかい
相撲が好きで 水戸泉とかの力士が好きで
高校生のころ 大阪場所がきたら けいこ場に見に行ってたそうな
あるとき「ぼく そんなに好きだったら 相撲取りにならへんか」
と、誘われた。
「ぼく、からは大きいんですが 全然力がないんですわ」と
情けない返事をしたと おじいちゃんは云っていた。
お父さんは めったに怒らない 夫婦喧嘩も 見たことがない
だいたいお母さんが何も小言を言わない。
男の人が怒るとか 手を出すとか言うけれど 女の口もたいていのもだと
おじいちゃんが 言っていたけど こなつもそう思う。
おばぁーちゃんの口に勝てる人は めったにいない
それで、おじいちゃんは怒る。
おばぁーちゃんは
「ああー、あの人は勝手に怒る人。 かわってるわねー こなつ」と言っていた。
だから、お父さんは おばぁーちゃんに逆らわない
いつも「ハイ、そうです 分かりました」
お母さんは おばぁーちゃんに西を向けと云われたら
いつまでも西を向いている人 腹の中は 何を考えているかしらんけど
そんなわけで 喧嘩と云ったらおねぇーちゃんとわたしぐらい
おねぇーちゃんは 年上のくせして 喧嘩したらお父さんに言いつける
怒られるのはわたし。「こら、こたつ」で終わるけど。
お父さんの話だっけ 1級建築士で 自分で事務所を開いている
1級建築士か 凄いと人は言うけれど 今は仕事も少なく
建築学校の先生のアルバイしているし 事務所と言っても
自宅マンションだ。
お母さんのお仕事がないとやっていけないみたいだ
お母さんは銀行に勤めている。入ったときは田舎銀行だったが
今では滋賀県を代表する銀行になって 今ならとっても入れないと
銀行のお仕事を大事にかんがえている。
おねぇーちゃんは優等生 わたしは 普通生
オール3は劣等生ではない
通知表見て「上がらんなぁー」と お父さんが云ったので
「下がらん努力も認めてください」と言っておいた。
p3 わたしは舞妓さんになるの
お父さんは 大学出て、就職がなくて、パチンコ屋のアルバイト2年して
建築の専門学校行かしてくれと言った 2級建築士の資格取って
またパチンコ屋でアルバイト そしたら今度は1級建築士目指すと云ったそうだ
「1級建築士の資格取って パチンコ屋のアルバイトせんやろなぁー」と
おじいちゃんが云ったら 「うん」と頷いたらしい。
「あいつは ひょっとしたら 大物になるかもしれん。慌てたとこがないからなぁー」と、おじいちゃんは云っている。
わたしが小学校2年、 おじいちゃんが最後に
こたつと書いた お小遣いくれた年。
わたしは 弱い者いじめや不正を 黙って見過ごせないたち
で、つい喧嘩を買ってしまう 「おじいちゃん似」らしい。
今回だって 黙って通り過ぎようと思った
でも、いじめられてる子がわたしの目を見た やばい
あの3人だけは ゴメンだ でも口は反対だ
「やめたら 大勢で一人をやっつけるなんて 卑怯ものや!」
この卑怯が気に障ったみたい。トイレに連れ込まれ
ボコボコにされ トイレのたまり水まで飲まされた。
お父さんが 学校に一緒に行ってくれるという
あの ことなかれ主義のお父さんがだ。
学校に行って 教頭先生にあったら
「きみいー、北風くんやないかぁー」
「先生!」
大阪のときの 担任の先生だった
お父さん 何にも言わずに帰って来た
自分のことは 自分でけりをつけるべきだと思った。
1対1なら負けない。3人、連れ持ってだからいけなかった
一人のときを見計らってやってやろうやないの。
好きな男の子? わたしを好きな男の子は5人はいるけど
みな 泣かされていたのを助けた男子ばかりだ。
そやのに 今回 見て見ぬふりしてた。
わたしは わたしを 助けてくれるような子が好きや
それを言ったら おねぇーちゃん「当分 無理やなー」と笑った。
おじいちゃんと歩いていて 急におしっこがしたくなって
銀行があったので 「ここのトイレでするぅー」と云ったら
そこはヤバイ、あそこの公園のトイレを使えと云った
何がヤバイのか 今持って意味がわからない。
わたしのゆめ それは祇園の舞妓さんになること
それを おじいちゃんに云ったら
「こなつの 舞妓さん見れる時まで 生きているやろか」
何だか淋しそうだった。
『こなつ』って名前が似合うでしょう。細い目だっていいでしょう。
舞妓さんがキューピーさんみたいに お目目パッチリだったら
おかしいでしょう。
おねぇーちゃんになれないものに わたしは なるの。
なんなら『こたつ』でもいいっか。
またね~